三大合併症を阻止する先端的な多機能人工膝関節の実用化に関する橋渡し研究

文献情報

文献番号
201434006A
報告書区分
総括
研究課題名
三大合併症を阻止する先端的な多機能人工膝関節の実用化に関する橋渡し研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
茂呂 徹(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 栄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 石原 一彦(東京大学大学院工学系研究科)
  • 中村 耕三(国立障害者リハビリテーションセンター)
  • 村上 輝夫(九州大学バイオメカニクス研究センター)
  • 高取 吉雄(東京大学 医学部附属病院 )
  • 宮本 比呂志(佐賀大学 医学部)
  • 塙 隆夫(東京医科歯科大学 生体材料工学研究所)
  • 門野 夕峰(東京大学 医学部附属病院 )
  • 武冨 修治(東京大学 医学部附属病院 )
  • 橋本 雅美((財)ファインセラミックスセンター)
  • 京本 政之((株)京セラメディカル)
  • 渡辺 健一((株)京セラメディカル)
  • 山根 史帆里((株)京セラメディカル)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本研究の目的は、三大合併症を阻止する先端的な多機能人工膝関節の実用化に向けた橋渡し研究を完成させることである。
研究方法
インサートの至適材料仕様の集約、抗酸化特性および衝撃・摩耗耐久性の評価、摺動面形状および耐摩耗特性の評価、細菌付着および感染抑制効果の評価、医療機器として実用化するための研究・開発―を行った。
結果と考察
 インサートの至適材料仕様の集約では、抗酸化剤・ビタミンE添加PEへの至適架橋線量を機械的、物理的特性から検討した結果、100 kGyのガンマ線を照射することで従来品と同等の値を示すことがわかった(MXLPE(+E))。また、至適なPMPC処理条件は、MPC濃度0.5 M、処理時間90分、紫外線強度5.0 mW/cm2であることを見出した(PMPC-MXLPE(+E))。さらに、マイクロスラリージェットエロージョン試験(MSE)を実施し、試験方法を確立した。
 酸化特性および衝撃・摩耗耐久性の評価では、潤滑面可視化試験機を人工膝関節用に改良し、試験条件を確立した。面圧2.5 MPa、速度10 mm/sの条件下での可視化試験により、PMPC処理架橋PE(PMPC-XLPE)およびPMPC-MXLPE(+E)における処理層の耐久性および除荷・再水和による耐久性の向上、潤滑液組成による挙動の相違を明らかにした。
 摺動面形状および耐摩耗特性の評価では、接触面圧のFEM解析によりPMPC処理に適した人工膝関節摺動面形状の絞り込みを行った。そして、内側拘束型、二界面型、後方安定型の中で、最も適したデザインが後方安定型であることを見出した。次に、実使用環境での負荷との整合性を評価するため、前記3種類の人工膝関節の実機を用いて関節摺動面の圧力分布を計測し、FEM解析の妥当性を確認した。また、耐摩耗特性評価のため、まず、未処理MXLPE(+E)の人工膝関節シミュレーター試験を開始した。27年度分の計画を前倒しし、500万サイクルの試験を完了した。
 細菌付着および感染抑制効果の評価では、PMPC処理/未処理のチタン、コバルトクロム合金、MXLPE(+E)の各ディスク上で、感染の原因となる4種の細菌(黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、大腸菌,緑膿菌)を培養し、顕微鏡での観察および付着生菌数の測定を行った。この結果、PMPC処理を施した何れのディスク上においても、4種類全ての細菌で付着が87.4%~99.9%と顕著に抑制されることを明らかにした。
 医療機器として実用化するための研究・開発では、PMPC処理人工膝関節インサートの処理層を保護しながら、脛骨コンポーネントへ設置するための手術器具の開発を目指して、コンピュータ上で設計を行い、3Dプリンターを用いて形状見本を試作するためのCADデータを完成させた。また、形状見本による設計検討、すなわち、当該器具の要件に合致するための部品材料、すべり止め加工、軽量化などの検討を行った後、試作品を製造するのに必要な製造用図面を完成させた。
結論
以上の研究成果は、三大合併症を阻止する先端的な多機能人工膝関節の創出が十分に期待できる内容であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201434006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は、PMPC処理・放射線架橋処理・抗酸化剤添加処理のシーズ的技術マッチングによって三大合併症の解決を目指すものである。基盤技術であるPMPC処理は、親水性と生体親和性に優れたPMPCを約100 nmの厚さで基材の表面に結合させる技術であり、それによって水和潤滑表面が創出される。関節軟骨の表面構造に着目した人工膝関節に関する研究はこれまでに行われておらず、ナノメーター単位の表面処理で摺動面に軟骨表面類似構造を構築するPMPC処理技術は極めて独創的な生体模倣(バイオミメティック)技術である。
臨床的観点からの成果
申請者らの調査では、変形性膝関節症の患者は国内に約2300万人存在し、その1/4~1/3は有症性と推定できる。こうした社会状況を背景に、人工膝関節手術の重要性は高まっているが、三大合併症に起因する再置換術は医師・患者にとって深刻な問題である。本研究を実用化により三大合併症を阻止することができれば、健康寿命を延伸し、高いQOLを生涯にわたり保つことが可能になるばかりでなく、中年から壮年期の患者の手術も積極的に行えるようになり、労働力の確保という課題の解決策の一つとなり得る。
ガイドライン等の開発
本研究開発は実用化に関する橋渡し研究であり、現時点では本項目に該当する内容のものはない。今後の実用化研究は、厚生労働省医薬審発第0213001号「医療用具の製造承認申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」、薬食機発第0306004号「人工膝関節審査ガイドライン」、ISO 10993-1「Biological Evaluation of Medical Devices – Part 1」などのガイドラインに従って推進する。
その他行政的観点からの成果
本研究によって安定性と耐久性を著しく向上させた人工膝関節を開発することができれば、再置換術の抑制による医療費の削減に加え、健康寿命を延伸することで支援介護費用の削減に多大な貢献ができる。また、国内の人工膝関節の市場は92%が輸入製品で占められているが、画期的な人工膝関節が実用化されることで、大きなブレークスルーとなることは確実であり、国内シェアの拡大に加えて国際展開など、この分野の産業育成と貿易不均衡の是正に対する貢献が期待できる。
その他のインパクト
本研究の基盤技術は、国内外の医学・工学の両分野、および産業界で多数の受賞実績があるなど、高い評価を受けており、人工膝関節への本技術の応用は注目を集めている。今後、本研究成果を学会発表・学術論文として、引き続き学術的に国内外に公開していく。また、本基礎研究成果の実用化を進めていく過程においては、これまでの医薬品、医療機器への臨床応用研究・実用化の経験をいかし、公開シンポジウムの開催、ホームページの利用等を通じ、広く社会に情報発信をしていく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
45件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Watanabe K, Kyomoto M, Saiga K, et al
Effects of surface modification and bulk geometry on the biotribological behavior of cross-linked polyethylene: Wear testing and finite element analysis.
Biomed Res Int  (2015)
原著論文2
Kyomoto M, Shobuike T, Moro T,et al
Prevention of bacterial adherence and biofilm formation on a vitamin E-blended, cross-linked polyethylene surface with a poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine) layer.
Acta Biomaterialia  (2015)
原著論文3
Yarimitsu S, Moro T, Kyomoto M, et al
Influences of dehydration and rehydration on the lubrication properties of phospholipid polymer grafted cross-linked polyethylene.
Proc Inst Mech Eng H  (2015)
原著論文4
Kyomoto M, Moro T, Takatori Y, et al
Multidirectional wear and impact-to-wear tests of phospholipid-polymer-grafted and vitamin E-blended crosslinked polyethylene: a pilot study.
Clin Orthop Relat Res  (2015)
原著論文5
Yarimitsu S, Moro T, Kyomoto M,et al
Influences of dehydration and rehydration on the lubrication properties of phospholipid polymer grafted cross-linked polyethylene.
Proc Inst Mech Eng H  (2015)
原著論文6
Watanabe K, Kyomoto M, Saiga K,et al
Effects of surface modification and bulk geometry on the biotribological behavior of cross-linked polyethylene: Wear testing and finite element analysis.
Biomed Res Int  (2015)
原著論文7
Kyomoto M, Shobuike T, Moro T,et al
Prevention of bacterial adherence and biofilm formation on a vitamin E-blended, cross-linked polyethylene surface with a poly(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine) layer.
Acta Biomaterialia  (2015)
原著論文8
Yamane S, Kyomoto M, Moro T,et al
Effects of extra-irradiation on surface and bulk properties of PMPC-grafted cross-linked polyethylene.
J Biomed Mater Res A  (2016)
原著論文9
Uehara S, Yarimitsu S, Moro T,et al
Evaluation of wear suppression for phospholipid polymer-grafted ultra-high molecular weight polyethylene at concentrated contact.
Tribology International  (2016)
原著論文10
Kyomoto M, Moro T, Yamane S,et al
A hydrated phospholipid polymer-grafted layer prevents lipid-related oxidative degradation of cross-linked polyethylene.
Biomaterials  (2016)
原著論文11
Moro T, Takatori Y, Tanaka S, et al
Clinical safety and wear resistance of the biocompatible phospholipid polymer-grafted highly cross-linked polyethylene liner.
J Orthop Res  (2017)
原著論文12
Watanabe K, Moro T, Kyomoto M,et al
The effects of presence of a backside screw hole on biotribological behavior of phospholipid polymer-grafted cross-linked polyethylene.
J Biomed Mater Res B Appl Biomater  (2017)
原著論文13
Saiga K, Kyomoto M, Moro T,et al
Effects of material thickness and surface modification of cross-linked polyethylene with poly(2-methacryloyloxyetheyl phosphorylcholine) on its deformation behavior, wear resistance and durability under repetitive impact-to-sliding motion.
Biotribology  (2017)
原著論文14
Watanabe K, Moro T, Kyomoto M,et al
The effects of presence of a backside screw hole on biotribological behavior of phospholipid polymer-grafted cross-linked polyethylene.
J Biomed Mater Res B Appl Biomater  (2018)
原著論文15
Moro T, Ishihara K, Takatori Y,et al
Effects of a roughened femoral head and the locus of grafting on the wear resistance of the phospholipid polymer-grafted acetabular liner.
Acta Biomater  (2019)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-03

収支報告書

文献番号
201434006Z