疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800428A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病解析・治療にむけた遺伝子研究資源基盤整備に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 雄之(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 平井百樹(東京大学大学院理学系)
  • 奥田晶彦(埼玉医科大学)
  • 菅野純夫(東京大学医科学研究所)
  • 榊佳之(東京大学医科学研究所)
  • 押村光雄(鳥取大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトゲノム全体のDNA配列決定プロジェクトとその一環として発現遺伝子部分(cDNA断片、expressed sequence tag, EST)のクローン化が大規模に進められ、約8万といわれる遺伝子のほぼ半分に対応するクローンが分離されてきている。また、ヒト全塩基配列決定は2003-5年には完了することが計画されている。しかし、その機能解明は遺伝子部分の確定と並行して進められたとしても、全体としては残された課題となると見られる。したがって、これまでに日本でも分離された数万のESTクローンを収集し、保管・供給することは依然としてゲノムの遺伝子部分の確定とその機能解明のために必要である。そこで新たに完全長cDNAクローンの分離を試みるとともに、それらを細胞で発現できる形として、産物の機能、発現制御等の研究の資源とする。また、個体レベルで機能を探るために、ノックアウトマウスを作って調べる必要のある遺伝子を選択し、ES 細胞として使われる129SV系統のマウスのゲノムDNAをクローン化して、供給できるようにする。さらに、遺伝子群が連関して発現することによりその機能が発揮されるような染色体領域について、ES細胞などへも特定染色体断片を移入するための材料を開発する。これによって疾病関連遺伝子の同定から機能解明、さらにその疾病の成因解明そして診断、治療に結び付く研究の発展に資することを目的とする。これら遺伝子資材を必要な研究者に供給することにより、遺伝子機能解析による疾病研究の一層の発展が期待される。これにより厚生行政の遺伝子治療など先端的医療の基盤づくりの一翼を担い、もって国民の保険・医療の一層の向上をめざす一環をなす。
研究方法
1)各種cDNAライブラリー からの多数 クローンを増幅・保管し、データベースに登録されたシークエンスとのホモロジーサーチを自動的に行えるプログラムを利用して、その結果をデータベースに登録し、バンクから供給可能とする。2) DNAシークエンサーを用いて、クローンDNAの部分塩基配列を決定し、多数のESTクローンについてデータベースに登録されたシークエンスとのホモロジーサーチを自動的に行えるプログラムを利用して、その結果をデータベースに登録できるようにする。ヒトおよびマウス新規cDNAの分離をめざして、オリゴキャップ法で作製した新たな組織のcDNAライブラリーについて行う。3)ヒト胃粘膜、サル脳 各部などの組織について、さらに完全長cDNAライブラリーの作製を行う。また、消化管粘膜のライブラリーの1パス塩基配列決定を行うとともに、他のライブラリーの1パス 塩基配列につき他機関と共同研究を行い、両者で得られた完全長cDNAクローンの 登録をめざす。4) 神経細胞から多数のESTについて、その発現パターンを解析する。それらについて、完全長cDNAを分離し、そ の構造を明らかにする。そうしたESTの配列データと発現パターンの情報及び 完全長cDNAの配列とクローンをバンクに寄託する。5) 染色体上の位置の未確定なヒト及びマウスクローンについて蛍光 in situ ハイブリダイゼーション(FISH) 及び雑種細胞パネルによるPCRスクリーニングにより、その位置を決定する。また、霊長類cDNAのマッピ ングを行ない、ヒトでの相同遺伝子のポジショナル・クローニングの基盤とする。 6)マウス129SV系統のゲノムDNAライブラリーを作製し、転写関連因子やDNA の複製に関与している多くの遺伝子のゲノムDNAクローンを分離する。7)効率良く染色体を細胞移入するために,微小核細胞融合法によりヒト単一染色体保持細胞を作製し,これまでにヒト単一染色体を含む800マウスA9細胞クローンを得た。それぞれからDNAを抽出するとともに,FISH法により染色体種を確認し,導入可能な染色体を選択する。
結果と考察
1) 成人心臓由来のEST約 3,000、脳由来約1,800クローンのホモロジー検索及び完全長となるcDNAを選別した。ヒト小腸粘膜由来cDNAクローン3,600を収集し、完全長cDNAとして569クローンおよびヒト大腸粘膜由来完全長cDNAクローン510をあわせてバンクに登録し、供給可能とした。また、マウスESTについても脳cDNAライブラリーからの約6,000コロニーの寄託を受け、シークエン
シングを行い、2023クローンをDNAデータベースに登録した。さらに、米国でシークエンスされている菅野マウス腎臓、肝臓、胚cDNAクローン約24,000を収集し、内、7680クローンのレプリカを作製した。2) 新たにヒト胃粘膜、サルの脳各部につきオリゴキャップ法により完全長cDNAライブラリーを作製した。また、前年度作製したヒト消化管粘膜のcDNAライブラリーから、大腸を中心に約4000クローンおよびサル脳ライブラリーから約1000クローンの5'側部分配列決定を行った。3)21番染色体の約8Mb領域より63種(53種が新規)の遺伝子を見出した。また、神経細胞のアポトーシス及び電気的刺激に特異的に発現変化するcDNAをFDD法を用いて系統的に解析し、各々18種及び20種の新しいcDNAを収集した。4) カニクイザルのゲノムDNAライブラリーを作製した。一方、蛍光In situ hybridization(FISH)法により、心臓、小腸由来の完全長cDNA約80をマップした。また、カニクイザル脳cDNAライブラリーから分離したcDNAクローン約100については、直接ヒト染色体上にマップし、ヒト遺伝子のポジショナル・クローニングのデータとした。5) 昨年得た転写因子EFP及びUTF1マウス遺伝子のターゲティングベクターを作成した。また、性腺刺激ホルモン放出ホルモンの遺伝子をクローン化した。さらに、ノックアウトマウス作製の成果をあげている国内31の研究グループに用いたゲノムDNAの供給を依頼し、IL6, Stat6, XP, VDR, CAFA1の5クローンを入手した。6) 微小核細胞融合法によりES細胞や各種細胞へ効率良く移入できる形にしたヒト単一染色体保持雑種細胞を作製し。これらについてDNAおよび染色体解析を行い,1,2,4,5,8,10,14,15,18,20およびX染色体を含むA9細胞クローンを同定した。
結論
本研究ではポストシーケンス時代に向けて、重要な研究資材を提供する基盤をつくりつつある。特に、完全長 cDNAクローンを整備して、機能を探ることは疾患の成立を研究するうえで有効である。さらに、個体レベルの機能解析に向けて、マウスのDNAクローン、ES細胞にも導入しうるヒト染色体材料を作製しつつあることは細胞レベルの解析の限界を越える研究資材を提供する点で重要である。具体的には 1)ヒト腸粘膜由来cD完全長cDNAとして1,079クローンをバンクに登録し、供給可能とした。また、マウスESTについても脳cDNAライブラリーからの約6,000コロニーのシークエンシングを行い、2023クローンをDNAデータベースに登録した。2) 新たにサル脳ライブラリーから約1000クローンの5'側部分配列決定を行い、完全長のものをバンクに寄託し、供給可能としつつある。3)神経細胞のアポトーシス及び電気的刺激に特異的に発現変化するcDNAをFDD法を用いて系統的に解析し、あわせて38種の新しいcDNAを収集した。 4)カニクイザル脳cDNAライブラリーから分離したcDNAクローン約100について直接ヒト染色体上にマップした。5) 転写因子EFP及びUTF1マウス遺伝子のターゲティングベクターを作成した。さらに、ノックアウトマウスを作製した国内の研究グループからゲノムDNAとして5クローンを入手した。6) 微小核細胞融合法によりES細胞や各種細胞へ効率良く移入できる形にしたヒト単一染色体保持雑種細胞を供給できるように1,2,4,5,8,10,14,15,18,20およびX染色体を含むマウスA9細胞クローンを同定した。

公開日・更新日

公開日
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