リスクアセスメントに基づく細胞加工製品等の品質評価、検査基準のあり方に関する提言

文献情報

文献番号
201432014A
報告書区分
総括
研究課題名
リスクアセスメントに基づく細胞加工製品等の品質評価、検査基準のあり方に関する提言
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川真田 伸(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 尚子(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター CMOグループ2)
  • 郷 正博(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター 細胞療法開発グループ)
  • 近藤 恵子(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター CPC管理グループ)
  • 肱岡 孝篤(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター)
  • 山我 美佳(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター CMOグループ2)
  • 鹿村 真之(公益財団法人先端医療振興財団 細胞療法研究開発センター 研究・細胞評価グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
再生医療等製品/特定細胞加工物(以下、細胞加工物等という)は無菌化できない出発原材料(細胞等)やその他の原材料を使用し、しかもそれらの多くはその品質規格に幅がある。また製造工程自体も十分には確立されたものではなく、品質を保証するために、多くの場合process validationでなく製品毎に品質を確かめるverificationが行われている。これらの要件が細胞加工物等の商業ベースでの普及を阻んでいる。このような原料特性、製造特性のある細胞加工物等を安全性/品質を担保しながらどのように受けて入れていくかの検討をリスクマネジメントの観点から実施した。
研究方法
本委託業務では、1)細胞製剤製造施設に関わる提言と 2)原料・製造工程と運搬に関わる提言を一部実作業や模擬操作を実施しながら行った。

1)細胞加工物等の無菌性保証及び生物等汚染リスク低減策や製品・原料資材の規格及び試験検査のあり方への提言
1.製造所全体に渡るQMSの導入意義についての説明
2.CPC稼働時の差圧とクリーン度の関係を明示する為の模擬操作実施と解析
3.施設での耐性菌出現を防ぐための薬剤選定と運用方法の提示
4.環境monitoringの測定point数の適正化のための、摸擬操作の実施と解析
5.製造機器類の適正清掃法とモニタリング方法提案の為の、模擬操作の実施と解析
6.autoclave及び乾熱滅菌を用いた滅菌法のvalidationの実施と解析
7.適切なガウニング方法の提示
8.作業員の教育メニューの提示
9.CPC等の閉鎖環境における作業者の身体・精神に及ぼす影響の調査

2)細胞加工物等の実生産における不均質性・変動要因、運搬・輸送時の脆弱性を勘案した製品・原料資材の規格及び試験検査のあり方の提言
1.原料、使用機材のsupplierやlot差評価に向けた方策例の提示
2.使用機器の性能の変動を最少にするための方策例の提示
3.作業員の技能教育実例の提示
4.輸送容器の漏れや輸送中の温度変動, 振動の問題を防止する方策の事例の提示
結果と考察
製造所施設運営の要件として、リスクマネジメント(ICH Q9)の考え方の重要性と製造所全体に渡るQMSの導入意義(ICH Q10)について解説した。具体的には、CPC稼働時の差圧と担保できるクリーン度の関係を明示する為の模擬操作を実施し、SOP作成についての考察を加え、耐性菌出現を防ぐために消毒剤2剤をrotationして行う清掃法のSOPを提示し、環境monitoring point数と、測定箇所や結果に対するaction levelについて提言した。また、使用製造機器の滅菌法とモニタリング方法を提言し、autoclave及び乾熱滅菌器のvalidationの実施によるautoclaveでの不完全な滅菌例の明示、適切なガウニングやSOP、作業員の教育メニューを提示した。さらに、CPC等の閉鎖環境における労働が身体・精神に及ぼす影響を調査するための問診の実施と全体的な傾向について考察を加えた。
次に細胞加工物等の実生産における不均質性・変動要因、運搬・輸送時の脆弱性を勘案した製品・原料資材の規格及び試験検査のあり方の提言では、輸送容器の漏れや輸送中の温度変動、振動の問題に関する方策の事例提示とICH Q8, 9,11に基づく原料、使用機材のsupplierやlotの差評価に向けたDesign Spaceの考え方について提示した。
現行の細胞加工物等は、製品毎、ロット毎に工程管理試験を行っているが、細胞加工物等の製造は、変動要因や不確実要因が多い分野であるからこそ、最先端の科学技術を用いたリスク評価・管理が重要であると考える。すなわち、設計、製造工程で想定されるあらゆるリスクに対して、影響度や頻度を加味・評価し、避けなければならないリスク、許容できるリスク及びその変動範囲を設定し、試験結果や規格の変動を前提に品質と安全が担保できる製造・品質評価体系を構築する必要がある。
そのためにリスク評価システムと製造所組織としてのQMSが機能していることが前提である。リスク評価はEvidence based、Science basedで行い、容認できるリスクレベルを開発の初期段階から規制当局と共有しておくことも、再生医療技術を事業化するための必要な要件である。
結論
不均質で品質に幅がある原料や変動のある製造工程が特徴である再生医療等製品に対しても、医薬品と同様にICH Q 8-11の考え方を導入して品質と安全性の確保することが肝要である。具体的には、避けるべきリスク、許容できるリスク及びその許容範囲を具体的な事例を基にリスクマネージメントの観点から常に同定・設定していくことが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201432014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
再生医療等製品/特定細胞加工物(以下、細胞加工物という)は、滅菌が出来ない出発原材料を使い、品質や製造法が不均一で、process validationの実施が容易でない製造工程を経て製造される製品であるが、本提言は医薬品GMPのICH Q8-11のガイドライン、特にQ9のリスク評価を用いて、細胞加工物の品質と安全を担保する方策を、具体事例を明示して提案した。
臨床的観点からの成果
細胞加工物を用いた治療は、現在の製造施設や製造工程を続ける限り、安全性や製造コストの点で、低分子医薬品や生物製剤と同等な標準医療になることは難しい。そこで本提言のリスク評価を通じリスクの軽減を目指した自動化細胞製造システムの開発と製品のCQA(Critical Quality Attribute)設定を目指した計装機器による製造工程のモニタリングを行うことで細胞の規格化と細胞治療の標準化に役立てることを目指す。
ガイドライン等の開発
今回の提言でまとめた、リスクアセスメントの基づいた細胞加工物の無菌性保証及び生物等の汚染リスクの低減、製品・原料資材の規格、製造所のモニタリング、製造工程における不均質性・変動要因、運搬・輸送時の脆弱性を勘案した原料・製品の規格等についての考え方は、業界団体FIRMの分科会@東京(H29.6.28)や、CRO医療機器セミナー@東京(H30.5.29)で公表し、細胞製造業界や臨床試験支援業界へのアウトリーチ活動を行った。
その他行政的観点からの成果
細胞加工物を用いた細胞治療は未だ市場規模は小さく、細胞製品の品質評価基準等は、国際的な枠組みの中で検討することが必要と考えている。研究責任者の川真田はAMEDのRS事業として、細胞品質・製造規格の国際展開をテーマとした委託事業を実施することになった(H30年度単年)。H30年度 は、本事業の成果がICH Q8-11の概念を取り入れられるような提案を、我が国から発信できるよう当該事業で実施する。
その他のインパクト
本提言に基づいて、当機構が管理する細胞製造施設のリスク評価を行い、Novartis 社globalのauditを受け、Novartis 社からCAR-T治験製品の製造受託を受注した。これは今年3月に日経新聞、日経バイオなどのmediaで取り上げられた。このように本提言は、我が国における細胞製造の国際的なsupply chainの構築に役立ったと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
7件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-05-24

収支報告書

文献番号
201432014Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
30,000,000円
(2)補助金確定額
30,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,139,351円
人件費・謝金 6,399,093円
旅費 66,910円
その他 7,644,988円
間接経費 6,975,103円
合計 30,225,445円

備考

備考
収入を超える支出との差額の出所:自己資金225,445円

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-