臍帯血・臍帯由来間葉系細胞製剤を用いた新規免疫療法・再生医療の開発

文献情報

文献番号
201432009A
報告書区分
総括
研究課題名
臍帯血・臍帯由来間葉系細胞製剤を用いた新規免疫療法・再生医療の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
長村 登紀子(井上 登紀子)(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 角田 肇(NTT東日本関東病院)
  • 梅澤 明弘(独立行政法人国立成育医療研究センター)
  • 長村 文孝( 東京大学 医科学研究所 )
  • 東條 有伸( 東京大学 医科学研究所 )
  • 森田 育男(東京医科歯科大学大学院)
  • 竹谷 健(島根大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臍帯由来間葉系(幹)細胞(Mesenchymal Stem/Stromal Cells;MSC)は、ドナーへの肉体的負担のない新規MSCソースであり、他のMSC同様に炎症部位や組織損傷部位に遊走し、免疫抑制効果や組織修復能を有するとされている。本研究は、臍帯血及び臍帯由来MSCを再生医療等製品として主に造血細胞移植後の重症急性移植片対宿主病(GVHD)、新生児脳性麻痺および低アルカリフォスファターゼ症(Hypophosphatasia, HPP)を含む骨軟骨形成不全症の治療へ応用するための製剤化に向けたPOCの取得と非臨床試験実施を目的とする。
研究方法
東大医科研治験審査委員会にて細胞調製に関して、承認を得て、臨床用の臍帯の採取・調製・凍結保存を開始した。製剤化に関しては、再生医療等の新法、新制度に考慮しつつ、PMDAに薬事戦略事前相談を行った。また、臨床試験を目指し、異種GVHDモデルマウスおよび脳性麻痺のモデルラットに対して臍帯由来MSCの投与および骨軟骨形成不全症マウスの作成を行った。
結果と考察
細胞調製・製剤化:平成26年度、重症GVHDの治療用に臨床用臍帯由来MSCの調製培養について治験審査委員会の承認を得て、平成27年3月末までに臨床用臍帯血・臍帯22例の採取より、受入検査にて適合した14例(=ロット)の臍帯を臨床用として保存した。さらに感染症検査、染色体検査等にて、13例が適合し、6ヶ月経過した5例に対して健診の問い合わせを実施し、1例回収し児の健康を確認した。現在、健康を確認できたロット順に、更なる大量培養および適格性試験を予定している。プロセスにおいては、ステンレス製のメッシュ(Cellamigo)を導入した改良explant法を導入し、従来法に比べて臍帯1gあたりから約4倍の細胞が回収できることを報告し(Tissue Eng Part C Methods.21,1-6, 2014, 特許申請中)、臍帯組織の凍結に関しては、新鮮臍帯からの回収率と遜色ない細胞数(新鮮臍帯を1.0とした場合の回収率1.5±0.96)を回収できる手順を確立した(Cytotherapy, 印刷中、特許申請中)。なお、足場形成試験および腫瘍形成試験では、特に臍帯由来MSCsにおける異常は認められていない。平成27年2月、上記手順や安全性試験、工程管理試験、特定項目等について、医薬品医療機器総合機構(PMDA)薬事戦略事前相談を受け、凍結臍帯を原料とした評価を進めることとなった。従って、再度、凍結臍帯からの評価が必要となったが、臍帯組織の大部分を最初に凍結することで、無駄な培養を減らし、品質管理、安全性評価および特性解析等の適格性評価が効率的に行えるものと期待される。

重症GVHDに対する臍帯由来MSCを用いた非臨床試験:異種GVHD発症マウスに対して、臍帯由来MSCをGVHD発症早期に投与し、生存率の改善を認めたが、予測よりも早く重症GVHD(体重減少)が発症した場合には、投与が間に合わないこともあった。一方で、in vitroリンパ球混合試験におけるT細胞増殖抑制試験は、同種、第3者ドナー由来MSCsでもT細胞増殖抑制が可能であり、この評価系を確立した。現在、業務主任者や他の研究分担者、移植医らとともに、臨床試験実施に向けプロトコール案作成を進めている。急性重症GVHDへの臍帯由来MSCの臨床応用に関しては、特定認定再生医療等委員会に提出するための準備を行うが、同時に共同研究企業を中心とした企業主導の治験に早期に移行できる体制を整えていく。国内では既に骨髄由来MSCによる治験が終了し、昨年秋に販売申請がなされているが、海外からの輸入骨髄を原料とした細胞製剤であり、薬害エイズ問題等を経験した日本においては、国産の細胞製剤が望まれると考える。

脳性麻痺に対する臍帯由来MSCを用いた非臨床試験:ラットの脳室周囲白質軟化症モデルに対して臍帯由来MSCを投与し、TNF-α,IL-1β,MCP-1等炎症性サイトカインの発現低下傾向を認めた。現在、投与したMSCの脳内到達度を検討中である。

低フォスファターゼ症(HPP)を含む先天性骨代謝疾患に対する臍帯由来MSCの非臨床試験: 平成26年度は、HPPのヘテロ接合体モデルマウスを作成し、ALPの活性が低下していることを確認した。今後、臍帯由来MSCsの投与によるALP活性への効果等を評価して、臍帯由来MSCのPOCを得る。
結論
臍帯は、再生医療・免疫細胞療法のソースとして有用と考えられる。今後は、POCを確立して臨床試験、その後早期に製剤化治験を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201432009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
臍帯は、胎児由来の組織であり、豊富な間葉系細胞(MSC)ソースである。臍帯由来MSCは、付着性があり、特徴的表面抗原を呈し、骨軟骨脂肪への分化能を有す。その免疫抑制能を利用し、急性移植片対宿主病治療(GVHD)に応用するための試験方法を確立した。また、新生児脳症(PVL,IVH,HIE)に対するモデル動物での有効性も示され、低フォスファターゼ症モデルマウスでは、臍帯血+臍帯由来MSC投与群で単独より生着率が高い傾向があることが分かった。一方、プロセスでは、臍帯採取から凍結まで無血清での製品化を達成した。2018年度治療抵抗性重症急性GVHDに対して、本製品を用いた医師主導治験を実施するに至った。
臨床的観点からの成果
臍帯由来MSCを再生医療等製品として製品化に向けたPOCの取得と非臨床試験実施を企業の協力を得ながら進めた。造血細胞移植後の重症急性GVHD、新生児脳性麻痺を引き起こす脳症および低フォスファターゼ症を主たる対象疾患として研究を行った。このうち、最も研究の進んでいる造血幹細胞移植後の重症急性GVHDに対する臍帯由来MSC医師主導治験について、PMDAと薬事戦略相談を行い、品質・規格、非臨床・安全性および治験計画に関して合意に達し、2018年度本製品を用いた医師主導治験を実施するに至った。またGVHD治療および新生児脳症に対する治験に関して、企業への導出もほぼ確定した。
ガイドライン等の開発
本研究における臍帯血・臍帯由来間葉系細胞製品化は、臨床用の公的臍帯血バンクの採取・臨床用としての適合基準に準じた体制に、生物由来原料基準に準じた対応を行った。臍帯は胎児由来組織であり、通常の生物由来原料と異なり、母親からの感染症の検査等を行う必要があるため新たな基準も必要と考える。
その他行政的観点からの成果
臍帯は欧米、アジアでは一部企業によって細胞製品化されつつある。低フォスファターゼ症に対して、同一ドナー由来の臍帯由来MSC+臍帯血と単独投与を検討し、臍帯由来MSC+臍帯血同時移植においてより高い有効性が示唆されるも、その利用は造血幹細胞移植関連法規により公的臍帯血バンクに制約されている。本件、更なる比較検討を続け、同時移植の有効性を検証する。
その他のインパクト
本研究において、臍帯組織を無血清凍害保護液にて凍結し、解凍後に無血清培地(RM培地)にて培養し、さらに自ら開発した無血清凍害保護液を用いることで、臍帯採取から凍結まで無血清での製品化を達成した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
70件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

特許の名称
試料容器取出具および低温保管システム
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-167570
発明者名: 大志茂純、綿貫 啓一、長村登紀子、高橋 敦子
権利者名: 椿本チェイン社、東京大学、埼玉大学
出願年月日: 20141212
国内外の別: 国内
特許の名称
制御性T細胞製造方法及び制御性T細胞増幅装置
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5464641号
発明者名: 長村登紀子、東條有伸、白数昭雄、吉川義洋、中谷奈穂美
権利者名: 東京大学、ニプロ株式会社
出願年月日: 20080121
国内外の別: 国内
特許の名称
動物細胞又は動物組織の凍結保存用溶液、凍結物、及び凍結保存方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-216346
発明者名: 長村登紀子、森有加、島津貴久
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20161104
国内外の別: 国内
特許の名称
臍帯由来細胞を含む脳障害の治療剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2016-103711
発明者名: 長村登紀子、向井丈雄
権利者名: 国立大学法人東京大学
出願年月日: 20160524
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimazu T, Mori Y, Nagamura- Inoue T et al
Serum- and Xeno-free Cryopreservation of Human umbilical cord tissue as mesenchymal stromal cell source
Cytotherapy , 17 , 593-600  (2015)
http://dx.doi.org/10.1016/j.jcyt.2015.03.604
原著論文2
Nagamura-Inoue T., and He H.
Umbilical cord-derived mesenchymal stem cells: Their advantages and potential clinical utility
World J Stem Cells , 6 , 195-202  (2014)
原著論文3
Mori Y, Ohshimo J, Nagamura-Inoue T. et al
Improved Explant Method To Isolate Umbilical Cord-derived Mesenchymal Stem Cells And Their Immunosuppressive Properties
Tissue Eng Part C Methods , 21 , 1-6  (2014)
10.1089/ten.tec.2014.0385
原著論文4
He H. Nagamura-Inoue T.et al
Stage-Specific Embryonic Antigen 4 in Wharton’s Jelly-derived mesenchymal stem cells is not a marker for proliferation and multipotency.
Tissue Engineering.Part A , 20 , 1314-1324  (2014)
10.1089/ten.tea.2013.0333
原著論文5
Nagamura-Inoue T, Mukai T.
Umbilical Cord is a Rich Source of Mesenchymal Stromal Cells for Cell Therapy.
Current Stem Cell Research & Therapy , 11 , 634-642  (2016)
原著論文6
Mukai T, Nagamura-Inoue T, Tsunoda H, Tojo A. et al
Neurosphere formation enhances the neurogenic differentiation potential and migratory ability of umbilical cord-mesenchymal stromal cells.
Cytotherapy , 12 (47) , 47-53  (2016)
10.1016/j.leukres.2016.04.017.
原著論文7
Mukai T., Tsunoda H., Tojo A., and Nagamura-Inoue T.er al.
Intravenous injection of umbilical cord derived mesenchymal stromal cells attenuates reactive gliosis and hypomyelination in a neonatal intraventricular hemorrhage model
Neuroscience, , 印刷中  (2017)
10.1016/j.neuroscience.2017.05.006
原著論文8
Honda1 I, Morita I.et al.
Mesenchymal stem cells ameliorate intra-amniotic inflammation-related neonatal complications in rats
Inflammation and Regeneration , 35 , 261-268  (2015)
原著論文9


原著論文10


公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-06-19

収支報告書

文献番号
201432009Z