薬用生物資源の分布調査とその活用に関する研究

文献情報

文献番号
199800425A
報告書区分
総括
研究課題名
薬用生物資源の分布調査とその活用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤勝実(京都薬科大学)
  • 神田博史(広島大学)
  • 田中俊弘(岐阜薬科大)
  • 正山征洋(九州大学)
  • 金井弘夫(東洋工業専門学校)
  • 岡田稔((株)ツムラ・中央研究所)
  • 古谷力(岡山理科大学)
  • 平岡昇(新潟薬科大学)
  • 西孝三郎(国立衛研・筑波薬用植物栽培試験場)
  • 香月茂樹(国立衛研・種子島薬用植物栽培試験場)
  • 飯田修(国立衛研・伊豆薬用植物栽培試験場)
  • 酒井英二(国立衛研・和歌山薬用植物栽培試験場)
  • 吉田尚利(北海道大学)
  • 本多義昭(京都大学)
  • 御影雅幸(金沢大学)
  • 畠山好雄(国立衛研・北海道薬用植物栽培試験場)
  • 高鳥浩介(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 関田節子(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生薬を始めとして薬用生物資源は、多くの国で伝統医療及び医薬品等の原
料に用いられいる。1988年以来チェンマイ宣言、地球サミット、リオ宣言、アジ
ェンダ21(地球再生のための行動計画)等の国際会議で、薬用生物資源の保存、保
護及び研究開発の重要性が指摘されている。また、医療におけるの重要性から、日本
、アメリカ及びヨーロッパの薬局方に薬用植物(生薬)が収載がされている。特に近
年アメリカにおいて、薬用植物利用の気運が高まり、世界各国から薬用生物遺伝資源
の導入を図っており、日本の資源にも高い関心を持っている。このような状況におい
て自国の生物資源を調査研究することは急務である。これらの世界各国で人の健康増
進のために利用されている薬用生物資源の多くのものは、従来より野生のものを採集
して利用されていたが、乱獲や自然環境の悪化などにより絶滅の危機に瀕しているも
のも多い。気候風土に順じて日本の生物資源は多様性に富んでおり、約7,000種の維
管束植物に恵まれているが、開発や環境破壊によりその約5分の1が絶滅あるいは減
少しつつある。このようなことから、わが国あるいは諸外国において絶滅の危機に瀕
している薬用生物資源の分布状況等を明らかにし、これらの効果的な保存方法を確立
することが大切である。また、保護の目的で、本来の植生を考えず外来植物を繁殖さ
せたり、自然指向によるブームが枯渇を招来させていることから、本研究班に集積す
る知識や情報を、都道府県や大学等の薬用植物園が各地域の薬用植物の観察、栽培指
導を行う際の重要な情報発生源とすることは薬用植物の有効利用に不可欠である。こ
れらの研究を通して、薬用生物が医療に用いられるための資源の確保の方策を探る。
研究方法
次の3つの研究グループに分けて実施した。
1.国内の薬用資源植物の調査研究
・薬用植物版貴重性カテゴリーの提案とそれに基づく地域調査.・昨年度のデーター
ベースを補充し、データのインプットと地図プロットを行った.・日本における代表
的標本庫調査(東京大学理学部と東北大学理学部)を行い、全標本庫調査を終了した
.・視認調査:北海道のトウキ、新潟県の薬用植物、兵庫県のホヨバヤマジソ、種子
島の薬用植物.・遺伝子解析による原植物の分類上の位置づけ:トウキ、トチバニン
ジン、ニンジン、カンゾウ、ケシ.・栽培条件の検討と栽培:種子の貯蔵条件、果実
からの発芽種子の採取法、苗条、、体細胞胚、鱗茎の保存 条件.圃場での栽培:ゲ
ンチアナ、ウワウルシ、カンゾウ、モッコウ、ダイオウ、トリカブト、シャクヤ ク
、ナイモウオウギ、ケシ、クコ
2.国外の薬用資源植物の調査研究
ウズベキスタンの薬用植物の標本作成。中国の野生地調査
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
Trichoderma10株の保存法。植物内生菌の代謝産物産生能
結果と考察
分布図へのプロット数は現在、日本薬局方、局方外生薬規格集収載薬用
植物160種、30,384件 となり、位置座標を与え得たのは、93%の28,320件。限られた
地域や環境に生育するため、採集される機会の少ない種(オオカラスウリ、サキシマボタンヅル、
サジオモダカ、マイヅルテンナンショウ、ヨロイグサ等)、元来日本には自生しておらず、栽培品が逸出
したもの(ゴシュユ、ツルゴクダミ、サンザシ、ハス等)、各地に普通に生育するが、研究者の興
味を引かないため採集されることがない種(カラスビシャク、ハマスゲ、ヒナタノイノコズチ等)は、
標本データを用いて過去の分布状況や生育量の変化を知ることは困難であるが、注意
深く視認調査をすることが必要である。視認調査として北海道のトウキについて新た
に17ヶ所を確認し、道央自生のトウキは、海岸型(日本海海岸段丘、太平洋海岸段
丘、日高エンルム岬)と、内陸型(蛇紋岩、石灰岩地帯のホソバ型、蛇紋岩地帯のト
カチ型、定山渓天狗山型)のほかに内陸型として(名寄市、富良野市)の2種が見出
された。新潟県の薬用植物:49種148個体。全国のハマボウフウ:17道県35
個体。兵庫県のホヨバヤマジソ。種子島の薬用植物は温帯(本土)植物と亜熱帯(沖
縄)植物が混在し、屋久島と共通種、熱帯・亜熱帯では常緑だが、種子島では落葉す
るもの(インドジャボク類、キダチチョウセンアサガオ等)、本土では1年草的植物
が多年草あるいは木本的に生育するもの(トウゴマ、ニチニチソウランタナ等)、越
冬可能なもの(ビャクダン、ツルドクダミ等)等特異的な性質を示すものがある。
RAPD法による遺伝子解析として北海道自生トウキ、トチバニンジン(南九州産、富士
山麓産、ホソバチクセツニンジン、三重、奈良、和歌山産)、カンゾウ、ケシについ
て類縁関係を明らかにした。また、western blotting法を開発し、RAPDを組み合わ
せることにより、簡便で確実な鑑定を可能とした。カワラヨモギの地域間の差異を、
形態、開花期、成分含量から検討し、海岸自生由来植物の「這う」タイプと河岸自生
由来植物の「直立」タイプに2分した。栽培条件の検討を行い、種子の貯蔵後10年
における発芽率を調査し、10℃、-1℃および-20℃のいずれの温度下においても発芽
率の低下するタイプ(ホウズキ、ヤマハゼ、カッコウチョロギ)、温度依存性が見ら
れ-1℃以下でのみ維持されるタイプ(サルビア、スクラレア)の2タイプを認めた。
タチバナの効率良い発芽種子の採取法を試みた。0~4℃の冷蔵保存で、オオバナオケ
ラ、ハシリドコロの苗条、エゾエンゴサクの体細胞胚、アミガサユリの鱗茎について
良好な結果を得た。ゲンチアナ、ウワウルシ、カンゾウ、モッコウ、クコを圃場栽培
し、ダイオウ、トリカブト、シャクヤク、ナイモウオウギ、ケシの交配を行った。ウ
ズベキスタンの調査を行い、標本2,000点を得た。品質の確保を目指して中国の生産
地を調査し、野生品と栽培品には土質と栄養状態、周囲の植物との混生が大きく影響
することを明らかにした。
3.薬用微生物資源の分布・分類及び生理活性物質に関する研究
植物由来Trichoderma10株を3年間観察した結果、集落性状が菌糸化の傾向を示
し、胞子産生能、代謝産物産生に与える影響が低下した。カヤツリグサ科の内生菌
Balansia cyperiを分離培養し、新規化合物を得た。
結論
研究内容を広く公表し、実践するために以下の宣言にまとめた。 
西 表(イリオモテ) 宣 言  自然のめぐみ薬用植物を次の世代に 
1998.Nov.20
ここ西表島に集まった全国の薬用植物研究者は、我々の取り組んできた研究事業『
21世紀に於ける人類の健康増進のための薬用植物の保護と活用』は望ましい展開を上
げつつあると認識した。全国で躍進する都市開発、あるいは環境の変化や悪化により
、野草等の稀少生物の絶滅危機が話題となっている。国民の自然志向の膨らみの中で
薬用植物の需要は高まっているが、我々の調査結果は他の植物同様、薬草の自生地の
減少を明確にした。また、これら薬用植物の推移を示す分布図作成の重要性と国外の
薬用資源の減少とその情報収集の困難さを痛感した。我々は先人の知恵を正確に継承
し、自然の恩恵を絶やすことのないよう早急に対策を講じて、国民の健康増進に多大
の寄与をしてきた薬用植物がこれからの21世紀に於いて更に有用であるために、次
のことを提言する。
1.国内外の薬用植物の保存と保全(生育環境の保持と保存、薬草園での栄養体の保
存栽培と種子の保存、遺 伝子技術を用いる植物の保存、薬用植物成分の科学的解明
)
2.薬用植物の栽培の重要性(野生薬用植物の栽培化、実用栽培法の確立,篤農家の
発掘と指導)
3.薬用植物の正しい知識の普及
・身近な薬用植物、・漢方薬に用いる薬用植物、・世界各国の伝統薬、ハーブ及び
香辛料植物、・麻薬・覚 醒剤・向精神作用のある植物、・安易に利用拡大が図られ
た薬用植物、・有効成分と薬効・薬理、毒性成分 とその作用、・情報ネットを用い
た知識の普及、・薬用植物観察会の開催
4.薬用植物の同定及び生薬鑑定・鑑識技術の向上
5.薬用植物の情報に関わる指導者の育成(薬学教育の中での育成、生涯学習の場の
提供、薬局薬剤師への情 報の提供、植物的知識の指導する機会の企画化、マスメデ
ィアへの正確な情報の提供、等)
6.薬用植物の探索導入とそれに関わる国際的な倫理・規制に関する情報の収集と交換
7.薬用植物に関する研究の推進と産官学研究者の協力体制の確立
最近数年間に、国外ではプライマルヘルスケア、セルフメディケーションとしての
生薬に積極的役割を与え、薬用植物に対する教育・政策に以前にも増して重点を置い
ている。しかしながら、我が国ではこれらの点において大きく立ち後れ、世界の流れ
から外すされようとしている。ここに参加した我々は薬用植物の重要性を自分達が再
認識すると共に、広く国民及び大学、行政機関、産業界の関係者に働きかけ、住んで
いる地域や日常生活を通じて健康増進に寄与することを決意する。我々は、薬用植物
が医薬品として重要であるだけでなくいつまでも身近なものとなし、健康でゆとりあ
る生活が送れる謔、に努力することを宣言する。
厚生科学研究事業『ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業』
-薬用植物資源の分布調査とその活用に関する研究班会議-
(主任研究者:佐竹元吉 分担研究者:17名 オブザーバー
:9名)

公開日・更新日

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