地域保健事業におけるソーシャルキャピタルの活用に関する研究

文献情報

文献番号
201429003A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健事業におけるソーシャルキャピタルの活用に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 佳典(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉陽二(日本大学法学部)
  • 角野文彦(滋賀県健康福祉部)
  • 川崎千恵(国立保健医療科学院生涯健康研究部)
  • 高尾総司(岡山大学大学院歯科薬学総合研究科)
  • 澤岡詩野(ダイヤ高齢社会研究財団)
  • 野中久美子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
  • 倉岡正高(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
  • 村山洋史(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 SCと健康との関連についての研究成果を地域保健事業にどのように還元・活用できるのか具体的に提示されていない。また,SCを醸成する方法論が明確でないため,地域保健実務者には事業とSCの関連が理解されにくい。そこで、本研究では、これらの方法論を明確にし、具体的なSCの活用方法を提示することを目的とした。最終年である平成26年度にはSCを活用した地域保健事業マニュアル「地域の健康づくり実践マニュアル」を作成することを主たる目的とした研究を実施した。
研究方法
 平成26年度研究は大きく「SCを活用した様々な事例の多角的評価」と「研修プログラムの開発」から構成されている。「多角的評価」では,第一に,SCを活用した優良事例から見る専門職の関わりを調査し,保健師などの専門職が日頃どのようにSCを活かした事業に取り組んでいるのか,また地域住民の意識や活動団体の状況を把握しているのかなどを明らかにするため半構造化法によるインタビューを実施した。第二に,地域保健事業における活動の持つSCの構成概念について,平成25年実施の保健師等と地域ケアプラザ職員を対象にした調査によって得られた601事例(保健師469事例、地域ケアプラザ職員132事例)をもとに,活動の持つSCの構成を検討し、それと活動継続年数、活動箇所、活動範囲といった活動属性との関連を明らかにすることを目的とした分析をした。第三に,SC毀損事例の収集として,最終年度は毀損事例の収集について先行文献の調査、研究者の知りうる範囲での事例の検索等を行った。
 「研修プログラムの開発」では,「地域の健康づくり実践マニュアル」を活用し,各自治体が研修プログラムを企画・実施し,実践の参考となる資料を作成することを目的とし,SCに関する講義の依頼があった自治体において,講義終了後に受講者80名に対してアンケートを実施した。



結果と考察
 専門職が日頃どのようにSCを活かした事業に取り組んでいるのか,また地域住民の意識や活動団体の状況を把握しているのかインタビュー調査の結果,専門職がSCを活かした事業に取り組むためのポイントとして,地域住民が主体になって地域の課題を解決していくプロセスを重視したサポートを行うことや,活動の継続および拡大を目指す上で,共通の普及ツール(映像等)を活用することの重要性が示された。
 次に,活動の持つSCの構成を検討したところ,『地域への波及』,『発展性』,『多様性』の3因子が抽出された。これらの下位因子と活動属性との関連を調べたところ,地域への波及得点は継続年数が長いほど高い傾向がみられた。多様性得点は小学校区,中学校区くらいの活動で得点が高かった。それぞれの活動の持つSCの現状を正確に把握し,現状のSCに見合った活動展開方法をとる必要があることがわかった。
 SCの醸成に関する要因を検討するにあたっては,良好な事例の収集だけはなく,毀損された事例の検討も有用であると考えられる。しかし,インタビューに応じてくれた事例においても報告書への詳細の記述については了承が得られなかった。SCの毀損事例を収集することは,容易ではないことが分かった。
 自治体がSCについての研修プログラムを企画・実施する上で,参考となる資料を作成することを目的として自治体のSCに関する研修受講者を対象に「SCを活かした地域保健事業を進める上で必要だと思う研修内容」についてアンケートを実施した。その結果,SCの評価方法、組織内部での連携方法等,研究班が設定したすべての項目について研修を希望することがわかった。
結論
 保健師や地域コーディネーター等の専門職がSCを活かした事業に取り組むためのポイントとして,1)専門職は,地域住民が主体になって地域の課題を解決していくプロセスを重視し,そのサポートを行う。2)共通の普及ツール(映像等)を活用することが指摘され、住民の主体的の活動はSCの醸成に寄与するだけでなく,専門職の業務の効率化や負担軽減にもつながり得ることがわかった。
 地域保健事業・活動の持つSCは、その活動がどの程度地域のSCや保健福祉に影響を与えているかといった「地域への波及」,活動への参加者や関与者の程度を含む「発展性」,そして連携する資源や活動関与者の年齢構成のバリエーションが含まれる「多様性」の3つの概念で構成されることが明らかになった。また,これらの下位概念と活動属性との関連の仕方には違いが見られた。一方、SCの優良事例の検討と共に,毀損事例のレビューが重要であるが,毀損事例を収集することは,諸般の事情により容易ではないことが分かった。
 「地域の健康づくり実践マニュアル」を活用した研修方法は,各自治体によって多様である必要があり,地域に共通した最善の回答はないと考える。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201429003B
報告書区分
総合
研究課題名
地域保健事業におけるソーシャルキャピタルの活用に関する研究
課題番号
H25-健危-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
藤原 佳典(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 陽二(日本大学法学部)
  • 角野 文彦(滋賀県健康福祉部)
  • 川崎 千恵(国立保健医療科学院生涯健康研究部)
  • 高尾 総司(岡山大学大学院歯科薬学総合研究科)
  • 澤岡 詩野(ダイヤ高齢社会研究財団)
  • 和 秀俊(田園調布大学)
  • 広松 恭子(渋谷区保健所)
  • 深谷 太郎(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
  • 野中 久美子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
  • 倉岡正高(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
  • 村山洋史(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 東京都健康長寿医療センター研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ソーシャルキャピタル(以下、SC)は地域保健事業が健康や生活にもたらす効果を強化したり,事業自体を評価する際に活用可能な理論基盤である。しかし,SCと健康との関連についての研究成果を地域保健事業にどのように還元・活用できるのか,或いはSCを醸成する方法論が明確でないため、地域保健実務者には事業とSCの関連が理解されにくい。そこで,本研究では、これらの方法論を明確にし,具体的なSCの活用方法を提示することを目的とした。初年度(平成25年度)はその基礎資料の収集と分析および総括を行い,平成26年度は,ソーシャルキャピタルを活用した地域保健事業マニュアルを作成することを目標とした。
研究方法
 初年度(平成25年度)の主な調査として,横浜市,東京都北区,多摩市,埼玉県和光市,滋賀県の自治体保健師,高齢者福祉担当者等を対象にした質問紙調査(1次調査)を実施した。質問調査で収集した事例の中からSCを活用した多種多様な地域保健事業の優良事例を抽出し,その事業・活動団体代表者等を対象にした面接調査(2次調査)及び活動視察などを通して評価をした。
 最終年度(平成26年度)では,SCを活用した優良事例から見る専門職の関わりを調査し,専門職が日頃どのようにSCを活かした事業に取り組んでいるのか,また地域住民の意識や活動団体の状況を把握しているのかなどを明らかにするため半構造化法によるインタビューを実施した。平成25年度実施の横浜市の保健師等と地域ケアプラザ職員を対象にした調査によって得られた601事例(保健師469事例,地域ケアプラザ職員132事例)をもとに,活動の持つSCの構成を検討し,それと活動継続年数,活動箇所,活動範囲といった活動属性との関連を分析した。

結果と考察
 25年度の研究において,一次調査で得られた事例とSCの関連を検証した結果,1.活動範囲が広いほどメンバーや関わる人・団体が増加している,2.活動箇所が多いほど関わる人・団体が増加している,3.メンバーの年齢層が多様であるほど様々な地域資源を活用していること,4.活動継続年数が長くなるほど活動に対する地域住民の信頼が高くなっていること等が明らかになった。優良事例を抽出するために各事例を得点化したところ,上位に位置づけられた優良事例は,相対的に構造的SCの得点が高いという特徴が認められた。この特徴は,インタビュー調査でも確認され,優良事例では組織体制や役割,責任などが明確であった。
 26年度の研究結果から,専門職がSCを活かした事業に取り組むためのポイントとして,地域住民が主体になって地域の課題を解決していくプロセスを重視したサポートを行うことや,活動の継続および拡大を目指す上で,共通の普及ツール(映像等)を活用することの重要性が示された。横浜市の優良事例調査を用いて活動の持つSCの構成を検討したところ,『地域への波及』,『発展性』,『多様性』の3因子が抽出された。これらの下位因子と活動属性との関連を調べたところ,地域への波及得点は継続年数が長いほど高い傾向がみられた。多様性得点は小学校区,中学校区くらいの活動で得点が高かった。それぞれの活動の持つSCの現状を正確に把握し,現状のSCに見合った活動展開方法をとる必要があることがわかった。
結論
 SCの地域比較についてはコミュニティの構成員の特性(ミクロレベル),それを反映したコミュニティの特性(メゾレベル),また社会全体への寛容度(マクロレベル)を,全国平均などのベンチマークとの比較に基づいて可視化できる。
 構造的なSCは,住民による地域保健活動の強化や維持において重要である。一方,認知的SCは,保健師などの第三者による評価が難しく,実務者がより客観的に活動を評価できる基準と方法を検証する必要があることがわかった。これらをふまえ,実務者による活動の強化や支援方法を提示することが求められる。一方,保健師や地域コーディネーター等の専門職がSCを活かした事業に取り組むためのポイントとして,1)専門職は,地域住民が主体になって地域の課題を解決していくプロセスを重視し,そのサポートを行う。2)共通の普及ツール(映像等)を活用することが指摘され,住民の主体的の活動はSCの醸成に寄与するだけでなく,専門職の業務の効率化や負担軽減にもつながり得ることがわかった。
 これら,2年間の研究をもとに,「地域の健康づくり実践マニュアル」を制作し,自治体に向けてマニュアルを活用した研修方法を提示した。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201429003C

収支報告書

文献番号
201429003Z