文献情報
文献番号
201428012A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコーホート研究に基づく先天異常、免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明
課題番号
H26-化学-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 水上 尚典(北海道大学大学院医学研究科)
- 遠藤 俊明(札幌医科大学医学部)
- 千石 一雄(旭川医科大学医学部)
- 野々村 克也(北海道大学大学院医学研究科)
- 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科)
- 梶原 淳睦(福岡県保健環境研究所 保健科学部 生活化学課)
- 松村 徹(いであ株式会社 環境創造研究所)
- 松浦 英幸(北海道大学大学院農学研究院 応用生命科学部門)
- 石塚 真由美(北海道大学大学院獣医学研究科環境獣医科学講座毒性学教室)
- 花岡 知之(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 佐田 文宏(東京医科歯科大学 疫学・公衆衛生学)
- 池野 多美子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 荒木 敦子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 佐々木 成子(北海道大学大学院医学研究科公衆衛生学)
- 宮下 ちひろ(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
48,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2つの前向きコーホートで妊娠中の環境化学物質曝露が胎児期および小児期に与える健康影響をリスク評価し,あわせて遺伝的感受性やエピゲノム変化を含めて解析し健康障害を予防する方策を明らかにする。
研究方法
産科施設の協力により二つの前向きコーホートを設定した。地域ベースの37病院が参加している大規模コーホート研究では,医師が記載した新生児個票から先天異常と55種マーカー奇形を調べ,思春期まで追跡をする。1産院514人の小規模コーホートの児については,母児のPCBs・ダイオキシン類や有機フッ素化合物(PFCs),有機塩素系農薬,ビスフェノールA(BPA) ,フタル酸エステル類など化学物質曝露評価を実施した。PFCs曝露による母の脂肪酸濃度および2歳児アレルギーへの影響を評価した。血液中BPAを高精度で測定する生体試料分析法を開発し,母児血でBPAを測定して母児移行を評価した。さらにBPAフリー体を測定して,試料採取や保管時の汚染の有無を確認する方法を確立した。臍帯血中BPAおよび母体血中農薬による,IgE免疫アレルギー,神経行動発達への影響を調べた。ダイオキシンの解毒代謝関連遺伝子多型の組合せが出生児体格に及ぼす影響,化学物質が臍帯血DNAメチル化に及ぼす影響についても解析した。
結果と考察
(1)登録妊婦20,929名のうち,新生児個票が得られた19,082名の妊娠転帰は,生産18,778名(98.4%),死産126名(0.7%),自然流産126名(0.7%)であった。先天異常総数は632件(3.0%),そのうちマーカー奇形は441件(2.3%)であった。(2)ダイオキシン類曝露について,超微量血液からOH-PCB類との一斉分析ができる簡便な方法を開発し,分析精度の信頼性を確認した。ケースコホート研究デザインで先天性心疾患145名のPCB・ダイオキシン類,PFCs,および尿道下裂・停留精巣78名のBPA・フタル酸エステル類の曝露評価を引き続き継続する。(3)母体血中ダイオキシン類濃度が高いほど生後42か月児の習得度尺度得点が高かったが,年収で層別解析すると関連は消失した。生後の養育環境などの影響が強く,胎児期の化学物質曝露による負の影響は見えづらくなったと考えられた。(4)PFCsについて母体血中PFUnDA,PFTrDA濃度が高いほど女児において2歳時のアトピー性湿疹の発症リスクが量反応的に低下した。(5)母体血中PFOS濃度が高くなるほど,リノール酸・アラキドン酸・DHA等の濃度が有意に低下した。(6)BPAについて臍帯血59検体で母と同程度の濃度であったことから胎児への移行が示唆された。BPAフリー体の血中濃度を測定し試料採取から保存までの操作によるコンタミネーションはなく,曝露評価の妥当性を確認した。BPA曝露により女児では6か月の精神発達スコアおよびTSHレベルと負の関連がみられた。(7)国内で使用実績のない有機塩素系農薬マイレックス,トキサフェンが母体血中から検出され,輸入食品からの曝露が示唆された。臍帯血IgEの増加と生後18か月時の感染症リスクが低下し,生後の免疫機能に影響する可能性が示された。 (8)母の解毒代謝SNPs(AHR,CYP1A1,GSTM1)の組合せにより,母体血中PCDF毒性等価量が10倍になる毎に児の出生時体重が471g低下し,化学物質に高感受性な遺伝的ハイリスク群の存在が示唆された。エピゲノム解析はPFOA,PCDFs,高塩素化PCBsのNoCBs・DeCB曝露によるIGF2低メチル化およびH19高メチル化が示された。また,IGF2のメチル化は出生時Ponderal指数と相関し,化学物質曝露によるIGF2メチル化が関与する可能性が示唆された。(9)母のCYP1A2遺伝子多型がCC/CA型ではAA型と比較してカフェイン高摂取群では出生時頭囲が有意に減少した。
結論
地域病院ベースの先天異常の発生率をより正確に把握できた。PCBs・ダイオキシン類,PFCs,BPA,フタル酸エステル類曝露の影響についてケースコホート研究で検討する。さらに,先天異常,発育など次世代影響の重要な交絡要因となる母の能動・受動喫煙の有無,生後の養育環境,代謝酵素遺伝子多型やDNAメチル化などの先天的・後天的遺伝変異を考慮した上で,先天異常,神経行動発達,および免疫アレルギーなど環境化学物質による種々の次世代影響について世界的にも初めて疫学研究で実証的に解明することが可能となる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-09
更新日
-