採血基準の見直しに関する研究

文献情報

文献番号
201427035A
報告書区分
総括
研究課題名
採血基準の見直しに関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-035
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
河原 和夫(東京医科歯科大学大学院 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 一格(日本赤十字社関東甲信越ブロック血液センター)
  • 松崎 浩史(東京都赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、献血者のうち肝機能の評価指標の1つであるALTの基準設定の合理性ならびに有効性について、個別NAT結果をもとに分析し、基準見直しに寄与する結果を得ることを目的とした研究である。また、献血回数がHb値に及ぼす影響を知ることも目的としている。
研究方法
surrogate marker (代用マーカー)としてのALT検査の意義を調べるために、2014年8月1日から同年9月30日の期間に献血を行なった献血者を日本赤十字社の献血者データ統一システムのデータから抽出した。そして個別NAT結果と対比してALT検査の意義を統計解析等により評価した。加えて、2012年8月1日から同年9月30日の期間に献血を行なった献血者を日本赤十字社の献血者データ統一システムのデータから抽出し、献血者の属性と献血回数、そしてHb値との関係を分析した。
(倫理的配慮)
東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会および日本赤十字社血液事業研究倫理審査委員会の審査を受け承認を得ている。
結果と考察
平成26年度は8月より個別のNAT検査が行なわれることになった。このNAT検査結果をもとにALT検査の意義について評価した。
 その結果、現行のALT検査のcut off値である61IU/Lを100 IU/Lに変更しても真のHBVおよびHCV肝炎感染者を大量に見逃すなど、これら肝炎ウイルスに対するsurrogate markerとしてのALT検査の意義は極めて低いことが判明した。
つまりALTのcut off値を100IU/Lとした場合のHBVの surrogate markerとしてのALTであるが、cut off値を61IU/Lとしている現行検査と同様に、感度は0.02と非常に低い。これは疾病異常者を見逃す(偽陰性)確率が高くなるという問題を抱えている。また、特異度は1.00と非常に高い。この点からは健常者をスクリーニングで正確に陰性と判定する確率が高い検査であると言える。
 個別NAT免疫学的なウイルス検査を施行していることを考えると、少なくとも現行のALTのcut off値の61IU/Lは撤廃等を含めて見直すことが妥当である。加えて平成26年度は、献血回数がヘモグロビン値(以下Hb値とする)に及ぼす影響について検討した。
 その結果、献血回数が増加するほど、それぞれの群の献血者の平均Hb値が低下していく。これは、献血回数が増加することは、加齢の影響が献血者に及んでいることと思われる。少なからず献血者は、献血回数を競いがちである。しかし、献血者の健康保護を考えると中高年以上で献血回数が多い献血者には注意を払う必要がある。
結論
ALT検査については、もはやB型およびC型肝炎のsurrogate markerとしての機能を喪失していると考えるべきである。
 本研究ではHEVについては言及していないし探索を試みていない。北海道血液センターの松林圭二氏によれば、HEV検査の代替検査としての意義は他の肝炎ウイルス同様小さいと考えられている。さらにHEV陽性献血者を効果的に排除するためにはHEV-NATを導入するのが最も効果的であると述べている。HBVとHCVに対するsurrogate markerとしてのALT検査の位置づけが本研究により示されたことから、ALT検査の位置づけを総合的に考え、改善すべき点は改めていく時期に来ている。
また、献血回数とHb値との関係であるが、少なからず献血者は献血回数を競いがちである。しかし、献血者の健康保護を考えると中高年以上で献血回数が多い献血者には注意を払う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427035B
報告書区分
総合
研究課題名
採血基準の見直しに関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-035
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
河原 和夫(東京医科歯科大学大学院 大学院医歯学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 中島 一格(日本赤十字社関東甲信越ブロック血液センター)
  • 松崎 浩史(東京都赤十字血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ALT高値の原因を検討するとともに献血者のうち肝機能の評価指標の1つであるALTの基準設定の合理性ならびに有効性について、個別NAT結果をもとに分析した。
 本研究は、献血におけるALT基準見直しに寄与することを目的として実施したものである。また、過去に行われた「男性400mL献血の年間4回実施の可能性に関する研究」をレビューし、免疫・生化学的な採血基準のほかに体重・身長と言った理学所見や献血量や献血回数などの量的・時間的基準の妥当性を検証するための研究デザイン確立のために資する情報を得ることも目的としている。
研究方法
ALTに関する研究は、日本赤十字社が有する平成21年7月12日~18日の1週間の全国の献血者データ102,307名のALT値、γ-GTP値、性別、体重、身長、そして年齢について分析した。献血者不適格理由と献血者の属性については、平成22年の全国献血者データから無作為で約10%の献血者を抽出して分析した。男性400mL献血の年間4回実施の可能性については、過去の研究報告をレビューした。さらに詳細にALTと肥満および飲酒との関係を精査した。平成22年1月1日から同年12月31日の期間に献血を行なった献血者を日本赤十字社の献血者データ統一システムのデータを用いた。また、経済計算では厚生労働省の賃金センサス(賃金構造基本統計調査)2012を用いた。平成26年8月から、個別NATが導入された。surrogate marker としてのALT検査の意義を調べるために、2014年8月1日から同年9月30日の期間に献血を行なった献血者を日本赤十字社の献血者データ統一システムのデータから抽出した。そして個別NAT結果と対比してALT検査の意義を統計解析等により評価した。
(倫理的配慮)
 研究を始めるにあたっては、東京医科歯科大学医学部倫理審査委員会および日本赤十字社血液事業研究倫理審査委員会の審査を受け承認を得ている。
結果と考察
ALTとそれぞれの因子の相関については、ALTとγ-GTPの相関係数は0.478で中程度の相関性が認められた。ALTとBMIの関係は、相関係数は0.373でやや相関がある程度であった。ALT値が製剤化可能である値とそうでない値について、γ-GTPとBMIのオッズ比を求めたところ、60U/Lを超えて製剤化できない場合は、製剤化可能な場合に比べてγ-GTPやBMIの値が高いことがわかった。
血色素による献血不適格者は、各年齢階級で女性が不適格者の大部分を占め、しかも年齢層が若い(平均年齢:35.5歳)。男性は平均年齢47.6歳と高い。また、女性は10歳代後半から20歳代、30歳代後半から40歳代前半にかけて不適格者が多くみられる二峰性分布を示していた。男性は中年以降に血色素不適格者が多くみられるパターンを呈していた。
個別NAT成績をもとにALT値61IU/Lをcut off値 とした現行のHBVスクリーニング検査の評価であるが、現行基準であるALT値が61IU/Lをcut off値 とした場合のHBVに対するスクリーニング検査としてのALT検査の有効性を検証した。感度は0.08と非常に低い。特異度は、0.98と非常に高い。陽性反応的中度は、0.000769と非常に低かった。
陰性反応的中度は、0.999778と極めて高かった。ALT値61IU/Lをcut off値 とした現行のHCVスクリーニング検査の有効性は、HBVの場合と比べると高いものの感度は0.36と低かった。逆に特異度は、0.98とHBVの場合と同じく非常に高かった。
 ALT値に関する本予備的研究では、肝炎ウイルスなどの病原微生物とALT値の関係を見ていないが、少なくともALT値と肥満や飲酒習慣の有無との関係があることがわかった。
 個別NATの導入により、ALT検査の有効性の評価がより厳密に行なうことが可能となった。
ALT検査については、もはやB型およびC型肝炎のsurrogate markerとしての機能を喪失していると考えるべきである。
結論
HBVとHCVに対するsurrogate markerとしてのALT検査の位置づけが本研究により示されたことから、ALT検査の位置づけを総合的に考え、改善すべき点は改めていく時期に来ている。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
個別NATが導入された現在、献血者のうち肝機能の評価指標の1つであるALTの基準設定の合理性、有効性などが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
ALT検査と肝機能との関係が明らかとなり、この研究によりALT基準が変更された。また、献血可能体重を見直す際の基礎資料を提供した。
ガイドライン等の開発
日本赤十字社から資料として提出されたと聞いている。
その他行政的観点からの成果
採血基準としてのALTの合理性・科学性を検討する資料となった。本研究成果により、平成28年度から献血におけるALT基準の見直しが行われた。
その他のインパクト
なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
8件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Daisuke Ikeda, Makiko Sugawa and Kazuo Kawahara.
Study on Evaluation of alanine Aminotransferase(ALT) as Surrogate Marker in Hepatitis Virus Test
Journal of Medical and Dental Sciences , 63 , 45-52  (2016)
10.11480/jmds.630302

公開日・更新日

公開日
2017-06-12
更新日
2021-05-28

収支報告書

文献番号
201427035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,300,000円
(2)補助金確定額
3,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 113,351円
人件費・謝金 0円
旅費 287,102円
その他 2,899,547円
間接経費 0円
合計 3,300,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
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