文献情報
文献番号
201427030A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞・組織加工製品の開発環境整備に向けたレギュラトリーサイエンス研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-医薬-指定-027
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 陽治(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
研究分担者(所属機関)
- 堤 秀樹(公益財団法人実験動物中央研究所)
- 澤田 留美(国立医薬品食品衛生研究所)
- 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所)
- 安田 智(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は,新たなガイドライン作成に資する細胞・組織加工製品,特に幹細胞加工製品の品質・安全性評価法の開発を行うことを目的とする.
研究方法
①幹細胞製品の造腫瘍性試験法の開発,②細胞のがん化指標の設定,③-1次世代シークエンサーを用いた細胞の遺伝的安定性評価指標の開発,③-2遺伝的安定性評価ツールとしての次世代シークエンサーの性能評価と遺伝的安定性評価リファレンスとしての日本人ゲノムのde novo配列決定,④分化プロペンシティを指標とした細胞特性解析法の開発,に関する研究を実施した.
結果と考察
①我々は Rag2遺伝子とIL-2Rγ遺伝子をダブルノックアウトし,BALB/c系に遺伝子置換した免疫不全マウス(BRGマウス)を開発・維持しており,さらにヌード化あるいはヘアレス化した系統(BRG-nuマウス,BRG-hrマウス)も作出している.新たな造腫瘍性試験用動物としての適性を判断するために,これらの系統のHeLa細胞を用いてのTPD50によるヒト細胞生着能評価を行った.BRG-nuマウスが造腫瘍性試験用動物として NOGマウスや BRGマウスよりも優位であった.異種細胞生着感度の点からヌード化(nu遺伝子導入)した系統が優位であることが考えられた.②ヒト間葉系幹細胞(hMSCs)において,レトロトランスポゾンLINE-1sの発現とさらにその抑制因子と報告されているAPOBEC3B (A3B)の遺伝子型との関連や,さらに幹細胞の未分化性とLINE-1sの発現との関連についても検討を行った.次世代シーケンサーを用いてA3B野生型ホモとA3B欠失型ホモの RNA配列を網羅的に解析し比較したところ,両者で転移活性の残ったLINE-1sの発現量には大きな違いが見られなかった.日本人に多いとされるA3B欠失によりhMSCにおけるLINE-1sの転移によるゲノムの安定性を損なう危険性は示されなかった.また,hMSCを脂肪へ分化させることにより,LINE-1s mRNAの発現量が低下した.LINE-1sの発現がhMSCsの分化能を示すマーカーの一つとなり得る可能性が示唆された.③-1次世代シークエンサーによって,未知のゲノムリアレンジメントにおける遺伝子増幅は比較的詳細に検出可能であった.しかし染色体転座などの切断点の同定には,通常のアラインメント解析結果の利用は難しく,特にゲノム上に顕在する単純なリピート配列が解析を困難とした.また,遺伝的不安定性のモデルとしてBLMを破壊した細胞を用い,次世代シークエンサーによる変異の検出に関する検討を開始した結果,通常のホールゲノム解析においては,顕著な変化は検出されなかった.③-2品質管理や医療診断などに次世代シーケンサーを用いる場合には,各種解析ごとにエラー率を考慮する必要があり,そのエラー頻度を正確に予測する技術が要求される.そこで,標準ゲノムDNAの読み間違いエラー率を各変異箇所において検証し,それら解析結果についてのバラツキの程度をCV値(変動係数)によって評価した.シーケンスの精度を高めるためには,カバレッジを深くすることの他に,独立した複数の解析を実施することも重要であることが示唆された.一方,それぞれの人種は,さまざまな多型を保持していること知られ,既存のリファレンス配列とは大きく異なる構造多型等を検出するためには,リファレンス配列に頼ることなく,de novoアセンブリを行う必要がある.日本人を対象とした再生医療を念頭に,第一段階として一人の健常日本人男性を選び,既存のリファレンス配列を用いずに全ゲノム配列決定を行った.日本人を対象とした医療を考える場合,治療のための細胞品質評価も含め,de novoアセンブリと第3世代シークエンサーを利用し,日本人ゲノムのリファレンス配列を用意することが有効であると考えられ,本研究においてその最初のデータを産出することができた.④遺伝子ネットワーク・パスウェイ解析により絞り込んだ分化プロペンシティと発現量との相関のあるmiRNAのヒトiPS細胞安定発現株を樹立し,神経細胞/心筋細胞の分化実験および胚葉体形成に供し,分化効率を比較し,これらmiRNAがヒトiPS細胞の分化において機能的な役割を果たしているのかを確認した.今回報告した手法を利用することにより,最終製品に適したヒトiPS細胞株の選択が可能になると思われる.
結論
本研究の成果により,細胞・組織加工製品の有効性・安全性に関する品質評価に必要な指標・評価法が示され,迅速で適切な製品開発・審査および再生医療の実用化推進に貢献できると考えられる.
公開日・更新日
公開日
2015-06-29
更新日
-