違法ドラッグに関する分析情報の収集及び危害影響予測に関する研究

文献情報

文献番号
201427009A
報告書区分
総括
研究課題名
違法ドラッグに関する分析情報の収集及び危害影響予測に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 奈穂子(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 栗原 正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 豊岡 利正(静岡県立大学 薬学部)
  • 裏出 良博(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 分子睡眠生物学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,指定薬物制度に対応し,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.次々と出現する新規危険ドラッグに対し,より迅速にかつ的確に危害影響を予測しうる迅速分析法及び活性評価手法の検討に主点をおいた.
研究方法
危険ドラッグ製品の流通実態調査を行うと共に,新規流通危険ドラッグの構造決定,分析用標品の調製及び迅速分析法の開発を行った.活性未知成分については,in silico, in vitro及びin vivoによる活性評価法を検討した.また,いわゆる脱法ハーブ製品に使用される植物の遺伝子解析による基原種識別を行った.
結果と考察
危険ドラッグ製品241製品を入手し,新規化合物2種類を含む60種類の新規流通危険ドラッグ成分を同定した.そのうち平成26年度内に37化合物が指定薬物に指定された.3,4-ジクロロメチルフェニデートのトレオ体とエリスロ体の分析用標品を合成した.平成24~26年度に指定薬物に指定された168化合物のうち,確認分析に注意が必要であるいくつかの化合物群の識別法を示した.超臨界流体クロマトグラフィー質量分析法よる合成カンナビノイド類及び実試料の分析法を検討した結果,GC-MSやLC-MSに続く第三の方法となり得ることが示唆された.活性未知危険ドラッグの中枢神経系へ作用を及ぼす蓋然性を評価するため,in silico活性予測手法として,包括範囲外長鎖アルキル基を有する新規流通カチノン系化合物等35化合物の活性値を組み入れたQSARモデル式を構築した.In vitro評価手法では,新規流通合成カンナビノイド26化合物について,カンナビノイドCB1及びCB2受容体に対する結合親和性を評価した.また,測定済化合物も含め54化合物について,構造と結合親和性の関係性を評価した結果,特に平成26年度内に流通が目立った特定の骨格を有する化合物群は,極めてカンナビノイドCB1受容体に対する結合親和性が高く,健康被害が懸念された.In vivo評価手法としては,23種類の新規流通合成カンナビノイド投与マウスの自発運動量変化を検討した結果,15化合物において自発運動量が有意に減少し,特にアミドエステル類は,強力な行動量抑制作用を示した.なお,一部の化合物で,死亡を含む,痙攣,歩行失調,挙尾反応,四肢の硬直及び無動状態などが観察され,これら薬物による健康被害が懸念された.合成カンナビノイド5-fluoro-ADBおよびJWH-018,大麻活性成分delta9-THCのマウス脳における神経活動マーカー遺伝子(c-fos m-RNA)発現への影響を検討した結果,共通して扁桃体中心核のc-fos発現の上昇を誘発した.また,delta9-THCとは異なり,5-fluoro-ADB, JWH-018は,室傍核や視索上核における顕著なc-fos発現の上昇も誘導した.さらに,全脳活動マッピング結果から,5-fluoro-ADBおよびJWH-018はdelta9-THCよりも大きな影響を脳活動に与えると推定された.CB2受容体選択的アゴニストであるJHW-015及びHU-308はラット初代培養ミクログリアのERK1,2のリン酸化を誘導し,このリン酸化はCB2受容体選択的アンタゴニストで抑制された.5-Fluoro-ADB及びJWH-018をマウスに投与し,自発運動量および脳波の変化について検討した結果,5-Fluoro-ADBは自発運動量を有意に減少させ,4匹中1匹が死亡した.その抑制作用はJWH-018より強力であり,長時間にわたり持続した.また,両化合物はマウスの脳波パターンに変化を与えた.植物系危険ドラッグ製品については,遺伝子分析による植物基原種同定に関する検討を行い,化学分析に用いた製品のメタノール抽出残渣試料を用いても植物種の同定は可能であることを示した.また,幻覚成分,メスカリン,DMT,LSAが各々検出された植物製品から植物の基原種を同定した.
結論
平成26年度においては危険ドラッグのさらなる規制強化が実施され,指定薬物総数は平成27年3月末時点で1470物質となった.本研究成果の一部は,平成26年度に9回実施された指定薬物指定の根拠資料として用いられた.また,分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出されると共に,国立衛研危険ドラッグ検索システムに登録され,公的分析機関に公開された.危険ドラッグ取締強化により,平成26年度末には販売店舗数は激減したが,引き続き,厳重な監視体制が必要である.今後も問題となる薬物を随時指定薬物として指定し規制していくことになるが,本研究結果はこれらの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427009B
報告書区分
総合
研究課題名
違法ドラッグに関する分析情報の収集及び危害影響予測に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 内山 奈穂子(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 )
  • 合田 幸広(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 )
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部 )
  • 栗原 正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 豊岡 利正(静岡県立大学 薬学部)
  • 裏出 良博(筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 分子睡眠生物学研究室)
  • 和田 光弘(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 生命薬科学専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
【研究分担者交替】 合田幸広 平成24年度~25年度 和田光弘 平成24年度~25年度 緒方潤  平成26年度 【研究分担者所属変更】 裏出良博 財団法人大阪バイオサイエンス研究所分子行動生物学部門(平成24年度~25年度)から筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構分子睡眠生物学研究室(平成26年度)に変更         

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,指定薬物制度に対応し,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.次々と出現する新規危険ドラッグに対し,より迅速にかつ的確に危害影響を予測しうる迅速分析法及び活性評価手法の検討に主点をおいた.
研究方法
危険ドラッグ製品の流通実態調査を行うと共に,新規流通危険ドラッグの構造決定,分析用標品の調製及び迅速分析法の開発を行った.活性未知成分については,in silico, in vitro及びin vivoによる活性評価法を検討した.また,いわゆる脱法ハーブ製品に使用される植物の遺伝子解析による基原種識別を行った.
結果と考察
平成24~26年度に危険ドラッグ1108製品を入手し,141種類の新規流通危険ドラッグ成分を同定した.3,4-ジクロロメチルフェニデートのトレオ体とエリスロ体の分析用標品を合成した.平成21年後半~25年度に入手した2084製品を対象に,包括規制前後の危険ドラッグ流通変化を検証した.機器分析による包括規制範囲化合物のスクリーニング法を提示した.カチノン系61化合物について異性体の識別法を示した.指定薬物168化合物について,分析時に注意が必要な化合物群をまとめた.超臨界流体クロマトグラフィー質量分析法よる合成カンナビノイドの分析法を提示した.152化合物を対象として,TLC,呈色反応,卓上型NMRによる簡易識別法を提示した.生体試料中薬物分析に着目し,ヒト肝ミクロソーム画分を用いて34化合物の代謝実験を行い,LC-MS/MSによる分析データを蓄積した.危険ドラッグの中枢作用評価を目的として,活性未知化合物のQSARによる活性予測を行った.11化合物についてラット脳シナプトソーム画分を用いたモノアミン再取込に対する阻害作用を,54化合物についてカンナビノイド受容体に対する親和性を測定した.合成カンナビノイド44化合物について,薬物投与マウスの自発運動量変化を評価した結果,34化合物において自発運動が有意に減少し,一部の化合物で,痙攣,歩行失調,挙尾反応,四肢の硬直,無動状態,死亡が観察された.合成カンナビノイド5化合物について,ラットもしくはマウスの脳波及び自発運動量変化の検討を行った.5F-ADB,JWH-018及びTHCのマウス脳における神経活動マーカー遺伝子(c-fos m-RNA)発現への影響を検討した結果,いずれも扁桃体中心核のc-fos発現の上昇を誘発した.また,5F-ADB及びJWH-018は,室傍核や視索上核における顕著なc-fos発現上昇も誘導し,THCよりも脳活動に大きな影響を与えると推測された.CB2受容体選択的アゴニストJHW-015及びHU-308はラット初代培養ミクログリアのERK1,2のリン酸化を誘導し,CB2受容体選択的アンタゴニストで抑制された.MAM-2201について,マウス小脳スライス標本を用いて,パッチクランプ法によりEPSCに対する抑制作用を検討した結果,小脳の運動機能と運動学習機能に影響を及ぼす可能性が示唆された.薬物併用の危険性評価を目的とし,MAM-2201及びα-PVP投与ラットの脳波及び自発運動量変化を検討した結果,併用投与では,先にα-PVPの作用が発現し,その後MAM-2201の作用が発現した.MDMA 及びメタンフェタミン投与マウスについて,マイクロダイアリシス法で脳内各濃度を測定した結果,併用投与では,脳内ドパミン濃度が有意に上昇し,薬物濃度及び滞留時間も単独投与群と比較して増加した.エトカチノン及びペンチロン投与マウスにおいて,脳内各部位のモノアミン量変化を検討した結果,側坐核においてドパミン及びセロトニンが上昇し,依存性を有する可能性が示唆された.危険ドラッグが添加された69植物製品を対象に,遺伝子分析により植物種の同定を行った結果,幻覚性植物は検出されず,多くはハーブティーなどに利用される植物種であった.遺伝子分析は,化学分析に用いた製品のメタノール抽出残渣を用いても可能であった.幻覚成分が検出された3種の乾燥植物の基原種を同定した.Salvia divinorumの簡易識別法を開発することを目的とし,LAMP法により,目視での判定が可能な比色検出法を検討した.
結論
本研究成果の一部は,平成24~26年度に19回実施された指定薬物指定の根拠資料として用いられた.また,分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出されると共に,国立衛研危険ドラッグ検索システムに登録され,公的分析機関に公開された.今後も問題となる薬物を随時指定薬物として指定し規制していくことになるが,本研究結果はこれらの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.

公開日・更新日

公開日
2015-06-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427009C

収支報告書

文献番号
201427009Z