違法ドラッグの構造類似性に基づく有害性評価法の確立と乱用実態把握に関する研究

文献情報

文献番号
201427008A
報告書区分
総括
研究課題名
違法ドラッグの構造類似性に基づく有害性評価法の確立と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 富山健一(放射医学研究研究所)
  • 浅沼幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科神経情報学分野)
  • 嶋根卓也(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)の流通拡大は深刻である。本研究では、合成カンナビノイドとカチノン系化合物の運動活性および細胞毒性の評価を行い、その化学構造と有害作用発現強度の関連性を検討した。また、危険ドラッグの規制に関する周知状況および乱用状況に関する基礎資料を取得する目的で、危険ドラッグを含む薬物乱用実態に関する疫学調査を実施した。
研究方法
現在のカチノン系化合物の包括指定範囲の拡大を目指し、カチノン系化合物と類似の化学構造を有する物質に関する有害作用予測法の妥当性を検討した。2年度の成果から、実効性の高い有害作用の評価方法を確立するため、カチノン系化合物の作用点としてドパミントランスポーター(DAT)に着目して、DATに関するドパミン取り込み阻害の強度に関する文献値及びコンピュータシミュレーション法による予測値を効果的に用いることで有害作用の解析を試みた。行動解析:コンピュータシミュレーション法により、カチノン系化合物の化学構造とDATに関するドパミン取り込み阻害強度の相関性を検証した。細胞毒性の評価:合成カンナビノイドについては、ヒト筋細胞由来培養細胞に対する細胞毒性を検討した。カチノン系化合物関連薬物に関しては、ドパミン系培養神経細胞CATH.a細胞およびセロトニン系培養神経細胞B65細胞を用いて細胞毒性を検討した。疫学調査:危険ドラッグ対策の一つである指定薬物制度の周知状況を把握するために、クラブイベント来場者を対象にノートパソコンを用いた無記名自記式調査を実施した。計2回の音楽イベントで、46名を対象に解析を行った。
結果と考察
カチノン系化合物による運動促進作用の発現と、DATに関するドパミン取り込み阻害強度に関する相関性を検討したところ、正の相関が認められた。カチノン系化合物の作用強度を推測する場合、運動促進作用は行動薬理学的指標として有用である。同様に、コンピュータシミュレーション法によるドパミン取り込み阻害強度の予測値との相関性も良好であり、効果的な推測が可能であると考えられる。細胞毒性の評価:合成カンナビノイドはカンナビノイドCB1受容体を介して細胞へ直接作用して、細胞毒性を示すことが明らかになった。同様に、B65細胞およびCATH.a細胞を使用して、フェネチルアミン系危険ドラッグのドパミン系・セロトニン系神経毒性と構造との相関を包括的に検討した。覚醒剤AMP、METH構造類似体であるPCA、4FMP、PMMAは、いずれの細胞においてもAMP、METHと同程度の神経毒性を発現しており、4位の修飾によるそのモノアミン神経毒性への影響は少ないと考えられた。フェネチルアミン系「2Cシリーズ」は、2,5位にdimethoxy基を有する共通骨格によりドパミン系・セロトニン系神経細胞に対して、規制薬物のMDMA、メチロンやMETHよりもはるかに強い毒性を発揮した。さらに、4位の共通修飾構造がセロトニン系神経細胞に対して極めて強い酸化ストレス・細胞毒性をもたらす危険性があると考えられた。疫学調査:指定薬物制度に対する周知状況は、未周知群である「全く知らない」23.1%、「どちらかと言えば知らない」23.1%、および周知群である「どちらかと言えば知っている」42.3%、「詳しく知っている」15.4%に分類されたが、危険ドラッグ使用者はいずれも指定薬物制度を認知していなかった。
結論
本研究では、カチノン系化合物に関する包括指定に係る対象範囲を検討した。包括指定の範囲は、実効性の高い範囲を指定するために、DATに関する文献値及びQSAR(定量的構造活性相関)法による予測値を用いて検討した。カチノン系化合物に関して、DATに対するQSAR解析により包括指定の範囲を決定できることが示唆された。また、合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物において、筋培養細胞、DAT、SERT発現細胞およびモノアミン系培養神経細胞株と化学発光による細胞毒性評価、蛍光指示薬を用いての酸化ストレスの検出法は細胞障害性を迅速かつ感度良く、定量的に評価できる方法として有用であることが確認された。危険ドラッグに関する実態調査から、クラブ利用者層全体では「指定薬物制度による使用や所持の禁止」が概ね認知されているものの、危険ドラッグ使用者の間では十分に認知されていないことが示唆された。本研究の危険ドラッグに対する作用強度を解析する評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。カチノン系化合物の包括指定の範囲決定においても有用であると考えられる。危険ドラッグの乱用拡大は依然として深刻な状況であり、乱用防止のために規制の在り方を再考し一層の啓発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-04-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427008B
報告書区分
総合
研究課題名
違法ドラッグの構造類似性に基づく有害性評価法の確立と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 富山健一(放射医学研究所)
  • 浅沼幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科神経情報学分野)
  • 嶋根卓也(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)の流通拡大は深刻である。本研究では、合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物の行動薬理作用発現におけるカンナビノイド受容体およびモノアミントランスポーターの役割について検討し、危険ドラッグ包括規制の範囲の科学的妥当性を検証した。また、危険ドラッグの規制に関する周知状況および乱用状況に関する基礎資料を取得する目的で、危険ドラッグを含む薬物乱用実態に関する疫学調査を実施した。
研究方法
合成カンナビノイドもしくはカチノン系化合物と類似の化学構造を有する物質について、その有害作用予測法の妥当性を検討した。合成カンナビノイドに関しては、JWH-018に着目して3-(1-naphthoyl)indole構造を有する物質についてカンナビノイドCB1受容体親和性と有害作用発現の関連性を検討した。カチノン系化合物に関しては、作用点としてドパミントランスポーター(DAT)に着目して、DATに関するドパミン取り込み阻害強度と有害作用発現の関連性を検討した。有害作用予測にあたって、実効性の高い評価方法を確立するため、それぞれの文献値及びコンピュータシミュレーション法によるQSAR(定量的構造活性相関)予測値を効果的に用いることで有害作用の予測を試みた。行動解析:運動活性に与える影響を検討した。細胞毒性の評価:マウス脳由来初代培養神経細胞、ドパミン系培養神経細胞CATH.a細胞およびセロトニン系培養神経細胞B65細胞を用いて細胞毒性を検討した。疫学調査:音楽イベント来場者における危険ドラッグ使用状況および危険ドラッグ使用者の特徴を把握するために、ノートパソコンを用いた無記名自記式調査を実施した。
結果と考察
行動解析:3-(1-naphthoyl)indole構造を有する合成カンナビノイドにより、著しい運動抑制作用が確認された。合成カンナビノイドによる運動抑制作用の発現と、CB1受容体に対する親和性強度に関する相関性を検討したところ、正の相関が認められた。合成カンナビノイドの作用強度を比較する場合、運動抑制作用は行動薬理学的指標として有用である。カチノン系化合物による運動促進作用は、ドパミン受容体拮抗薬の前処置により抑制されることから、作用発現にはドパミン神経系が関与していることが確認された。カチノン系化合物による運動促進作用の発現と、ドパミントランスポーターに関するドパミン取り込み阻害強度に関する相関性を検討したところ、正の相関が認められた。カチノン系化合物の作用強度を推測する場合、運動促進作用は行動薬理学的指標として有用である。同様に、コンピュータシミュレーション法によるドパミン取り込み阻害強度の予測値との相関性も良好であり、効果的な推測が可能であると考えられる。細胞毒性の評価:マウス脳由来初代培養神経細胞、B65細胞およびCATH.a細胞において、合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物の添加により、細胞毒性が発現した。疫学調査:危険ドラッグの生涯経験率は、ハーブ系21.7%、パウダー系7.2%、リキッド系4.3%であった。ハーブ系危険ドラッグ経験者の多くが大麻経験者であった。指定薬物制度に対する周知状況は、未周知群である「全く知らない」23.1%、「どちらかと言えば知らない」23.1%、および周知群である「どちらかと言えば知っている」42.3%、「詳しく知っている」15.4%に分類されたが、危険ドラッグ使用者はいずれも指定薬物制度を認知していなかった。
結論
本研究では、合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物に関する包括指定の対象範囲の妥当性を検討した。包括指定の範囲としては、実効性の高い範囲を指定するために、文献値及びQSAR法による予測値を効果的に用いることでその範囲を検討した。合成カンナビノイドでは、カンナビノイドCB1受容体に対する親和性強度に関する解析より、包括指定の範囲として総数778化合物を抽出した。カチノン系化合物では、ドパミントランスポーター (DAT) に対する親和性強度に関する解析より、包括指定の範囲として総数504化合物を抽出した。包括指定範囲内の合成カンナビノイドおよびカチノン系化合物について、行動薬理学的解析から中枢作用を発現する危険性が示唆され、包括指定範囲の妥当性が確認された。本研究のカンナビノイド受容体およびモノアミントランスポーターに対する作用強度を解析する評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。また、培養細胞による細胞毒性の評価は迅速かつ高感度の検出法として有用である。ハーブ系危険ドラッグを筆頭に、いわゆる危険ドラッグの乱用拡大は依然として深刻な状況であり、乱用防止のため一層の啓発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-04-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427008C

収支報告書

文献番号
201427008Z