大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201427007A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴 雅之(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 下池 貴志(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 寺田 周弘(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 野島 清子(国立感染症研究所 血液安全性研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,140,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、大規模自然災害や輸血を介して感染する感染症のパンデミックが発生した場合に備えて、1)赤血球製剤の保存温度による品質の変化、2)血小板製剤の低温保存のための低温下における血小板活性化機序の解析、3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発、4)C型肝炎ウイルス(HCV)のCohn分画による挙動と不活化機序の解析、等の研究を実施し、輸血用血液の供給と安全性の確保を目的としている。
研究方法
1)大規模災害によって電気の供給が停止し、赤血球製剤の保存温度が維持できなくなった場合の赤血球製剤の品質を評価した。現状の赤血球製剤は、4±2℃で保存されているが4、10、15、20、25、30℃の各温度条件で96時間保存し、pH、ATP濃度、溶血、2,3-DPG、赤血球変形能を経時的に測定した。2)血小板の低温による血小板の活性化メカニズムを解明するために低温保存時と37℃に再加温した時の血小板膜タンパク質、上清のGPIb複合体について解析した。3)赤血球製剤の病原体不活化法として10mMメチレンブルー(以下MB)に白色の可視光を照射して病原体の不活化を実施したが、不活化効率の向上のために赤血球に吸収し難い赤色光を用いて不活化効率を検討した。4)実験室用にスケールダウンしたCohn分画法を確立した。血漿にin vitroで増殖可能なC型肝炎ウイルス(JFH-1)株、感染者由来HCV、HCVのモデルウイルスである牛下痢症ウイルス(BVDV)それぞれ添加し、 Cohn分画法を行った(クリオ~fraction IIまで)。クリオ~fractionIIの各沈殿や上清のウイルス量と感染価をそれぞれ測定した。また、60℃の液状加熱によって不活化したHCVの不活化機序を核酸や細胞への吸着及び侵入過程から解析した。  
結果と考察
1)赤血球製剤を現行の保存剤である MAP液で保存した場合、 10℃ では 72時間、20℃では66時間保存しても検討した品質に関係するバラメーターに大きな変化は認められなかった。生体内生存率に関与する赤血球変形能も同様であった。20℃以内であれば3日程度は赤血球の品質を保てることが判明した。2)低温保存による血小板の活性化メカニズム解析では、長期間低温保存した後の加温によって血小板表面にあるGPIb複合体が分解されて低下することが明らかになり、血小板の形態変化に関与することが推定された。また、レクチンによる血小板の凝集では低温保存時に凝集能が低下していた。3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発では、MBに赤色光を照射することによって白色光に比較して不活化効果が約 1000倍増加した。さらに赤色光は赤血球に吸収されずに深部まで到達でき、深さ10mmの赤血球液でも約 3Logシンドビスウイルスを不活化することができた。この実験によって赤色光の有効性を示すことができた。赤色光は赤血球に吸収され難いことから照射エネルギーを増量しても赤血球に対してダメージが少ないことが期待できるため、現行よりも多量に照射することによって現行の血液バックでもどの程度病原体が不活化されるのか検討したい。4)JFH-1株、感染者由来HCV、BVDVをそれぞれ添加し、 Cohn分画法を行った。クリオ~fractionIIの各沈殿や上清のウイルス量と感染価は3種のウイルス間で類似していた。これらからBVDVはHCVの適したモデルウイルスであることが確認できた。さらにJFH-1株は感染者由来のHCVと類似した挙動を取ることが明らかになりJFH-1株はHCVの良いモデルウイルスであることも明らかにできた。また、液状加熱によって不活化されたJFH-1株は、不活化前後で核酸の量に差が無く、不活化されたウイルスから精製した核酸から感染性のウイルスが産生されたことから細胞への吸着や侵入過程での障害が不活化の機序であることが示唆された。
結論
自然災害等で赤血球製剤の保存温度が保てなくなった場合、気温が20℃以内であれば3日間程度は赤血球製剤の品質は保持できた。また、血小板の低温での活性化機序としてGPIb複合体の減少と低温保存時でのレクチンに対する反応性の低下が認められた。血漿分画製剤におけるHCVの不活化の評価はBVDVが用いられて実施されてきたがJFH-1株と同様な挙動をすることが確認され、BVDVのHCVのモデルウイルスとして適していることが確認できた。また、液状加熱による HCV不活化の機序として細胞への吸着や侵入過程が障害されることが示唆された。さらに赤血球の病原体不活化では、MBと赤色光照射によって不活化効率が飛躍的に向上した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427007B
報告書区分
総合
研究課題名
大規模自然災害等に備えた血液製剤の保存法と不活化法の開発に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 義昭(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴 雅之 (日本赤十字社 血液事業本部)
  • 下池 貴志 (国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 寺田 周弘(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 野島 清子(国立感染症研究所 血液安全性研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、大規模自然災害や輸血を介して感染する感染症のパンデミックが発生した場合に備えて、1)赤血球製剤の保存温度による品質の変化、2)血小板製剤の低温保存のための低温下における血小板活性化機序の解析、3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発、4)C型肝炎ウイルス(HCV)のCohn分画による挙動と不活化機序の解析、等の研究を実施し、輸血用血液の供給と安全性の確保を目的としている。
研究方法
1)大規模災害等によって電気の供給が停止し、輸送時や保存時に赤血球製剤の管理温度から逸脱した場合の赤血球製剤の品質変化を評価した。現状の赤血球製剤は、4±2℃で保存されているが0~30℃の各温度条件で保存し、pH、ATP濃度、溶血、2,3-DPG、赤血球変形能を経時的に測定した。2)血小板の低温による血小板の活性化メカニズムを解明するために低温保存時と37℃に再加温した時の形態、血小板膜タンパク質、上清のGPIb複合体について解析した。3)赤血球製剤の病原体不活化法としてヘマトクリット40%、厚さ4mmに調整した赤血球液に6,000~20,000ルクスの可視光を照射した。照射時間から 0.6~1.2Jの照射を行なった。可視光は波長から白色光と赤色光を用いた。対象とする病原体は Sindbisウイルスと仮性狂犬病ウイルスを用いた。4)実験室用にスケールダウンしたCohn分画法を確立した。血漿にin vitroで増殖可能なC型肝炎ウイルス(JFH-1)株、感染者由来HCV、HCVのモデルウイルスである牛下痢症ウイルス(BVDV)それぞれ添加し、 Cohn分画法を行った(クリオ~fraction IIまで)。クリオ~fractionIIの各沈殿や上清のウイルス量と感染価をそれぞれ測定した。また、60℃の液状加熱によって不活化したHCVの不活化機序を核酸や細胞への吸着及び侵入過程から解析した。  
結果と考察
1)赤血球製剤を現行の保存剤である MAP液で保存した場合、 10℃ では 72時間、20℃では66時間保存しても検討した品質に関係するバラメーターに大きな変化は認められなかった。20℃以内であれば3日程度は赤血球の品質を保てることが判明した。また、現行よりも低い0℃で保存したところ、2,3-DPGの値が144時間後も保たれていた。2,3-DPG は体内で元に戻るため低下することは臨床上では問題ないが、保存法の評価のマーカーになる可能性がある。 2)低温保存による血小板の活性化メカニズム解析では、4時間の低温保存では加温によって形態が回復した。48時間の保存では形態の回復は低下し、血小板表面にあるGPIb複合体が切断され低下していた。切断は、加温時に生じ血小板の形態回復を抑制している可能性が示唆された。また、レクチンに対する凝集は低温保存で低下した。3)赤血球製剤の病原体不活化法の開発では、MBに赤色光を0.6J照射することによって白色光に比較して不活化効果が約 1000倍増加した。赤色光は赤血球に吸収されずに深部まで到達でき、深さ10mmの赤血球液でも約 3Logシンドビスウイルスを不活化することができた。その一方で2本鎖DNAウイルスである仮性狂犬病ウイルスに対しては、不活化効果が認められなかった。4)JFH-1株、感染者由来HCV、BVDVをそれぞれ添加し、 Cohn分画法を行った。クリオ~fractionIIの各沈殿や上清のウイルス量と感染価は3種のウイルス間で類似していた。これらからBVDVはHCVの適したモデルウイルスであることが確認できた。さらにJFH-1株は感染者由来のHCVと類似した挙動を取ることが明らかになりJFH-1株はHCVの良いモデルウイルスであることも明らかにできた。また、液状加熱によって不活化されたJFH-1株は、不活化前後で核酸の量に差が無く、不活化されたウイルスから精製した核酸から感染性のウイルスが産生されたことから細胞への吸着や侵入過程での障害が不活化の機序であることが示唆された。
結論
自然災害等で赤血球製剤の保存温度が保てなくなった場合、気温が20℃以内であれば3日間程度は赤血球製剤の品質は保持できた。また、血小板の低温での活性化機序としてGPIb複合体の減少と低温保存時でのレクチンに対する反応性の低下が認められた。血漿分画製剤におけるHCVの不活化の評価はBVDVが用いられて実施されてきたがJFH-1株や感染者由来のHCVと同様な挙動をすることが確認され、BVDVのHCVのモデルウイルスとして適していることが確認できた。また、液状加熱による HCV不活化の機序として、核酸が障害されるのではなく細胞への吸着や侵入過程が障害されることが示唆された。さらに赤血球の病原体不活化では、MBと赤色光照射によって不活化効率が飛躍的に向上した。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
培養可能なC型肝炎ウイルス(HCV)であるJFH-1株と感染者由来HCV、及びHCVのモデルウイルスである牛下痢症ウイルスを用いてCohn分画法を行った。解析したフラクション2までの分画では3つのウイルスの挙動は類似していた。HCVのモデルウイルスとして牛下痢症ウイルスが適していることを明らかにできただけでなくJFH-1もHCVの良いモデルウイルスであることを示すことができた。また、HCVの液状加熱による不活化機序がウイルスの細胞への吸着や侵入過程の障害によるものであることも明らかにできた。
臨床的観点からの成果
大規模自然災害等によってライフラインが破壊され、赤血球製剤の保管温度が逸脱した場合などの緊急時おいて20℃以下で66時間以内であれば赤血球製剤の品質に係るマーカーは、保たれていることが実験的に明らかにできた。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
血漿分画製剤の製造工程におけるHCVの不活化は、HCVの培養ができなかったため牛下痢症ウイルスがHCVのモデルウイルスとして世界中で評価に用いられてきた。これまで本当に牛下痢症ウイルスがHCVのモデルウイルスとして適しているのか確認できなかったが、本研究から牛下痢症ウイルスがHCVのモデルウイルスとして適していることが明らかとなった。その結果、牛下痢症ウイルスを用いた血漿分画製剤の安全性評価の信頼性がより高まったと考えられる。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-05-24
更新日
2021-05-28

収支報告書

文献番号
201427007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,900,000円
(2)補助金確定額
3,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,727,525円
人件費・謝金 0円
旅費 254,040円
その他 158,435円
間接経費 760,000円
合計 3,900,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-11
更新日
-