DART-OT/MSおよびqNMRを用いた迅速かつ簡易な可塑剤分析法の検討

文献情報

文献番号
201426050A
報告書区分
総括
研究課題名
DART-OT/MSおよびqNMRを用いた迅速かつ簡易な可塑剤分析法の検討
課題番号
H26-食品-若手-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
阿部 裕(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 合成樹脂やゴム等には様々な添加剤が使用されるが、その中でも柔軟性を付与するために添加される可塑剤は特に使用量が多い。そのため、合成樹脂やゴム製の器具・容器包装および乳幼児用玩具に含まれる可塑剤は、食品や唾液を介してヒトが摂取する可能性が高い。また、代表的な可塑剤であるフタル酸エステル(PAEs)の一部には毒性が疑われるものがあるため、我が国では、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ベンジルブチル(BBP)、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジ-n-オクチル(DNOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)およびフタル酸ジイソデシル(DIDP)の6種のPAEsの乳幼児用玩具への使用が禁止されている。また最近では新たに開発された多種多様の可塑剤が製品に使用されつつある。そのため、製品中の可塑剤を分析し、使用実態を把握することはリスク管理および食品衛生上重要である。しかし、一般的な可塑剤の分析においては、試験溶液の調製およびGC/MSによる測定に時間がかかるうえ、精度よく定量することが困難である。さらに使用するガラス器具や分析装置を汚染しやすい。そこで本研究では、試験溶液の調製をせずに試料中の可塑剤のイオン化が可能なDARTイオン源に、MSおよびMS/MSの同時測定が可能なオービトラップ型質量分析計(OT/MS)を組み合わせたDART-OT/MSを用いて、可塑剤の簡易かつ迅速スクリーニング法を検討するとともに、SIトレーサブルな定量が可能な、quantitative NMR (定量NMR、qNMR)を用いた可塑剤の定量法を検討することとした。このうち本年度はDART-OT/MSを用いた可塑剤の簡易かつ迅速スクリーニング法の検討を行うこととした。
研究方法
可塑剤標準品約40種類のDART-OT/MSによるMSおよびMS/MSスペクトルを比較し、これらが判別可能な測定条件を決定する。可塑剤の含有量既知の試料を用いて決定した測定条件により含有可塑剤の同定が確実に行えるか評価する。最終的には、DART-OT/MSを用いて可塑剤が汎用されるポリ塩化ビニル製玩具約500検体中について可塑剤の使用実態調査を行う。
結果と考察
PVC製玩具中の大部分の可塑剤はDART-OT/MS分析により得られたMSスペクトルのみで同定が可能であったが、異性体など同一組成の可塑剤の判別は困難であった。しかしDIBPとDBPを除き、MS/MSスペクトルにより判別可能であった。また可塑剤含有量が既知の試料を用いてDART-OT/MSによる同定法を評価した結果、6種のPAEsを有する試料を見逃すことなく検出可能であり、さらには主に使用されている可塑剤をほぼ正確に同定可能であった。さらに、DART-OT/MSではGC/MSで定量下限値以下の可塑剤も検出できた。また一試料あたりの分析時間はわずかに1分程度であった。このようにDART-OT/MSによる分析は迅速かつ簡便であり、ほぼ正確に可塑剤を同定可能であることから、可塑剤のスクリーニング法として優れた方法であると考えられた。
 DART-OT/MSを用いて市販のPVC製玩具約500検体の実態調査を行った結果、17種類の可塑剤が検出された。指定おもちゃには規制対象のPAEsの使用は認められず、指定外おもちゃへの使用頻度も大幅に減少していた。しかし、一部の空気注入玩具やシール等の乳幼児が接触する可能性のある玩具ではPAEsが使用されており注意が必要であった。一方その他の可塑剤ではテレフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHTP)、アセチルクエン酸トリブチル(ATBC)、クエン酸トリブチル(TBC)、シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル(DINCH)などの使用が増加していたが、これまでPAEsの代替可塑剤として汎用されていたアジピン酸エステルのアジピン酸ジイソノニル(DINA)やアジピン酸ジ(2-エチルヘキシル)(DEHA)の使用は減少していた。
結論
本研究により、新たな可塑剤分析法を提案することが出来た。また現在の市販製品に使用される可塑剤使用傾向は5年前に比べわずかに変わっていたことが明らかとなった。今後新たな可塑剤が使用される可能性もあることから、引き続き定期的な調査が求められる。以上の研究成果は、我が国の器具・容器包装及び玩具の食品衛生行政の発展に大きく貢献するとともに、安全確保に大きく寄与するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201426050Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,661,568円
人件費・謝金 0円
旅費 209,960円
その他 128,472円
間接経費 0円
合計 5,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-02
更新日
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