震災に起因する食品中の放射性物質ならびに有害化学物質の実態に関する研究

文献情報

文献番号
201426043A
報告書区分
総括
研究課題名
震災に起因する食品中の放射性物質ならびに有害化学物質の実態に関する研究
課題番号
H24-食品-指定(復興)-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
蜂須賀 暁子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 堤 智昭(国立医薬品食品衛生研究所  食品部)
  • 渡邉 敬浩(国立医薬品食品衛生研究所  食品部)
  • 松田 りえ子(国立医薬品食品衛生研究所  食品部)
  • 畝山 智香子(国立医薬品食品衛生研究所  食品部)
  • 鍋師 裕美(国立医薬品食品衛生研究所  食品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大震災と津波により、放射性物質を含む多量の規制化学物質が環境に放出された。これら物質の食品中への移行は食品衛生上大きな問題である。食品中の放射性物質は、平成24年度から新たに食品衛生法第11条による基準値が設定され、検査の信頼性が一層重要となった。本研究では、効率的・効果的な検査手法の確立、検査結果の信頼性の向上、きめ細やかな規制のあり方等について検討する。また、震災により放出された放射性物質以外の化学物質の食品への影響は全く検討されていないことから、これらの影響を評価するための研究を行う。
研究方法
現在の出荷前検査体制による食品安全への効果を検証するため、福島周辺の17都県産の流通食品を買い上げ、放射性セシウムの濃度を測定する。放射性物質検査に適したサンプリング計画を策定するために、実測濃度分布に基づきサンプリング法の比較検討を行う。効率的な検査計画の立案に資するため、厚生労働省に報告されたモニタリング検査データを詳細に解析し、食品中の放射性セシウムの分布、変動、減衰の状況を把握する。また、放射性物質測定に伴う不確かさを評価する。調理加工による放射性物質濃度の変動を調べる。震災・津波により環境に流出した可能性が高く、健康影響へのリスク管理の観点から実態を把握すべき化学物質として、重金属並びにPCBを取り上げ、魚介類を中心とした食品中の濃度実態を調査する。また、震災前後にリスクが変化している化学物質を探索し、今後のリスクコントロールの必要性を評価する。
結果と考察
流通一般食品1516試料を購入し、放射性セシウム濃度を測定した。基準値である100 Bq/kgを超過した試料は9試料(0.6%)であり、昨年度の調査と同程度であった。乳児用食品100試料では、それらの基準値を超過する試料はなかった。
サンプリング法の検討では、食品ロットの放射性セシウム濃度分布を実測値から推定し、濃度分布が対数正規型であることを明らかにした。この実データに基づき推定した分布を対象とし、サンプルサイズの変化を伴う計数規準型及び計量規準型サンプリングの性能を、計算及びシミュレーションにより推定し、評価した。
効率的検査計画の検討では、公表されている平成26年度の食品中の放射性セシウム濃度データ79,067件につき、産地、食品カテゴリ別に検出率、濃度等を求めた。流通食品では、基準値超過食品の割合は0.03%で非常に低いが、非流通食品では検出割合が高く、高濃度の試料が見られることから、高濃度の放射性セシウムを含む食品が流通前の検査により効果的に流通から排除されていると考えられた。今後は、山菜などの天然の食品中の放射性セシウムの測定を増加させていくことが重要と考えられた。
検査の信頼性評価検討では、合成不確かさについて検討し、計数値及びピーク効率に起因する不確かさの寄与が大きいことを示した。
調理加工影響では、調味液への浸漬やゆでこぼし、水さらしなどの工程で効率的に放射性セシウムが除去できることが示された。一方、乾燥などの加工では総量に変化はないものの濃度は上昇した。よって、基準値未満の原材料を用いた場合でも加工後に基準値違反となる可能性が生じる。
津波による新たな食品汚染の発生の有無を明らかにするため、2カ年にわたり買い上げた約10種類、計1010点の食品を調査した。その結果、分析対象とした14元素類及び総PCBsと食品種の組合せに関して、津波被災地において注視すべき濃度の上昇は認められなかった。この結論をより確かなものにするためには、調査を継続することや、これまでに得られたデータをより詳細に解析することなどが効果的と考える。
震災前後に健康リスクが変化している化学物質は、環境や食品中の濃度変動よりも個人の行動変化のほうが寄与率が高そうであることが初年度の研究成果として示唆されたため、消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報について調査した。その結果、食生活全体のリスクを適切に管理するためには、特定の項目だけではなく全体のリスクに関する情報も同時に提示することが望ましいことが示唆された。また放射性物質に関する誤解が定着し正確な理解が進んでいないことも示された。
結論
放射性物質の非流通食品も含めた検査結果解析から、規格不適合食品の排除は適切になされていると考えられた。今後、監視を強化継続すべき食品群は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉のような天然の食品と考えられた。検査体制の充実により安全な食品の流通を保証すること、並びに消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報を提供していくことは、食品の安全・安心に繋がるとともに、風評被害を防止し、被災地域における農漁業の復興に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
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収支報告書

文献番号
201426043Z