ナノマテリアルの経口曝露による免疫毒性に対する影響

文献情報

文献番号
201426032A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの経口曝露による免疫毒性に対する影響
課題番号
H26-食品-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 総合評価研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
9,229,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
AgNPは、食品・食品容器包装用途として経口曝露されるのみならず、化粧品等の消臭・殺菌剤として皮膚からも曝露される。銀やチタンのアレルゲンとしての性質は低いとされるが、経口曝露では免疫寛容が成立する物質でも、ナノマテリアルとして経皮的に繰り返し曝露後の経口曝露により、アレルギー反応が惹起される可能性や微粒子のアジュバント作用が懸念される。
研究方法
AgNP(直径10、60及び100 nm)と卵白アルブミン(OVA)との混合物を1)経皮曝露後、OVAを腹腔内投与(アジュバントの陽性対照はAlum)、2)経皮曝露後、OVAを強制経口内投与(同コレラトキシン)、3)OVAとの混合物又はAgNP 単独を腹腔内投与(同Alum)し、AgNPのアジュバント作用を検討した。また、ナノマテリアルの欧州における食品分野への適用実態を調査した。
結果と考察
実験1)2)の全OVA処置群で、感作4週後のマウス血清中のOVA特異的IgG1及びIgEは溶媒対照群(Vehicle)群より有意に増加又は増加傾向を示したが、AgNPによる差は認めなかった。経皮感作脾臓細胞へのOVA再暴露によるIL-2、IL-4、IL-5及び IFN-γ分泌に、群間差はなかった。貼付部位近傍の左腋窩リンパ節の濾胞数は、全投与群でVehicle群より増加または増加傾向を示した。実験1)ではVehicle群と比較してOVA群、OVA+60 nm AgNP群及びOVA+100 nm AgNP 群で惹起30分後の直腸温の有意な低下及び血中ヒスタミン並びにアナフィラキシースコアの有意な高値がみられたが、投与群間に有意差はなかった。実験2)ではVehicle群と比較して惹起30分後の直腸温はOVA群で低下傾向を示した。惹起30分後の血中ヒスタミン及びアナフィラキシー症状スコアは群間に有意差はなかった。皮膚病変スコアはOVA+100 nm AgNP 群で有意に増加した。実験3)ではOVAの有無によらず 10 nm AgNPを腹腔内投与した動物は10匹中 9匹が死亡し 1匹は瀕死で安楽死され、腸間膜の肉芽腫及び褐~黒色色素の沈着、胸腺の細胞死、胸腺周囲リンパ節の褐~黒色色素の沈着及び濾胞細胞死増加、腸間膜リンパ節の出血及び細胞死、肝臓のうっ血、肝細胞の空胞化、変性及び細胞死並びにクッパー細胞の暗褐色色素沈着、脾臓のうっ血、白脾髄の細胞死を認めた。肝細胞障害が死亡と関連している可能性があるが詳細は不明である。60及び 100nm AgNP投与群でも腸間膜の肉芽腫の増加、腸間膜及び胸腺周囲リンパ節に色素沈着がみられ、OVA + 60 nm AgNP 群では脾臓の絶対及び相対重量がVehicle群に比べ有意に増加した。マウス血清中のOVA特異的IgG1及び IgEは OVA群と比較して OVA + Alum群で有意に増加したが、AgNP投与による有意な変化は認めず、IgG2a は OVA 群と比較して OVA + AgNP 群で有意に増加した。感作脾臓細胞へのOVA再暴露によるIL-4及び IL-5分泌には、群間に有意差はなかったが、IL-2及び IFN-γ分泌は、Vehicle群に比べOVA投与各群で有意な増加又は増加傾向がみられた。2011年にナノマテリアルの定義が確定後、欧州各国でその登録制度が普及しつつあるが、一般化学物質の登録システムが中心であり、食品及び飼料、食品接触材、医療器具、化粧品、農薬、及び廃棄物などは適用除外である。一方、新規食品規制では、ナノマテリアルに限らず、新規物質を含む食品は規制の対象だが、既存のナノマテリアルを含む可能性のある物質を含む食品は対象外である。現時点では新規ナノマテリアルの登録は見られないが、研究開発の文献調査等から、欧州と世界の食品および飼料メーカーにおける潜在的なナノマテリアル需要の存在が示された。食品及び飼料等に関する文献調査等では、潜在的需要の可能性があるナノマテリアルとして、二酸化ケイ素/シリカ、二酸化チタン、顔料およびナノキャリアシステムが、食品包装関係では、カーボンブラック、二酸化ケイ素、窒化チタン、複合ナノマテリアルなどがあげられる。評価手法が定まれば新規のナノマテリルの適用も増加すると考えられた。
結論
マウスにOVAとAgNPの経皮曝露後、OVAを腹腔内または強制経口投与する系では、AgNPの明らかなアジュバント作用はなかった。10 nm AgNPを腹腔内投与した全動物が死亡または瀕死となり、小サイズのAgNPでより毒性が強い可能性が示された。60 及び 100nm AgNP の腹腔内投与により、血清IgG2a が増加し細胞免疫への影響が示唆された。欧州では現時点で新規ナノマテリアルの登録は認めないが、潜在的需要があり、使用及び規制動向を注視する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201426032Z