母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究

文献情報

文献番号
201426021A
報告書区分
総括
研究課題名
母乳のダイオキシン類汚染の実態調査と乳幼児の発達への影響に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岡 明(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 多田裕(東邦大学)
  • 中村好一(自治医科大学地域医療センタ-公衆衛生学部門)
  • 板橋家頭夫(昭和大学医学部小児科)
  • 河野由美(自治医科大学小児科)
  • 松井永子(岐阜大学医学部附属病院小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
母乳栄養は乳児の最適な栄養法であるが、母乳も環境からの汚染を受け児に影響する可能性がある。特にダイオキシン類人体に蓄積し分解処理を受けず、母乳中に高濃度に分泌される。本研究班は平成9年より母乳中のダイオキシン濃度を継続して測定しモニタ―をするとともに、乳児期の心身体の発育発達について、これまで継続調査をしているコホート群での影響調査を行い、母乳の安全性を科学的にその安全性を検証することを目的としている。
研究方法
初産婦より産後1か月の母乳の提供を受けダイオキシン類濃度(PCDD7種類、PCDF10種類、Co-PCB12種類)を測定し、母乳中の総ダイオキシン類の濃度の変化を検討した。
1997年からこれまでに母乳中のダイオキシン類濃度を測定した1153名について、ダイオキシン類濃度が1か月および1歳時の身体発育への影響について検討した。
2012年に行ったコホート群の保護者への質問紙の回答(529名)について、アレルギー症状との関係、行動面について行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート」(SDQ)を用いた児の情緒、行為、多動性、仲間関係などについての行動発達、発達性協調運動障害質問紙であるDevelopmental Coordination Disorder Questionnaireの日本語版(中井昭夫博士提供)を用いた発達性協調運動障害の傾向について調査を行った。
結果と考察
母乳中のダイオキシン類濃度は、WHO1998年の毒性等価係数による等価量の計算では平均10.17 pg-TEQ/g-fatであり、昨年度より軽度上昇傾向を認めるが、基本的に横ばいであり長期的には漸減傾向であると考えられた。また調査した3地域の間では明らかな母乳中ダイオキシン類濃度の差は認めなかった。
全体および年齢別の母乳中ダイオキシン類レベルの分布と変化を3つの観察期間に分けて比較を行い、PCDDs,PCDFs,Co-PCBs,総ダイオキシン類濃度の平均値および中央値は,前期→中期→後期にかけて,すべての項目で漸減傾向を示し,すべての項目で有意な低下が検出された。その背景として,環境汚染の減少と食品からの摂取量の減少があると考えられ、ダイオキシン類対策特別措置法によってダイオキシン類の排出削減対策が進み,わが国におけるダイオキシン類の環境汚染レベルは全国的に軽減していると考えられる。
出生体重・身長は重回帰分析にて、出生時と1歳時の頭囲については母乳中ダイオキシン類濃度区分が有意な項目として挙げられた。ただし予想に反してポジティブな関与であり、この理由については明らかでなかった。生後1か月では、体重および身長に対するネガティブな影響が見られたが、1歳時点での関与は認められなかった。
これまで母乳中ダイオキシン類濃度が測定され、乳児期の哺乳方法から母乳からのダイオキシン類の摂取量が推定可能な1998年~2008年出生の児の保護者に、郵送での調査を行った。アレルギー症状の有無を調査したが、特に関連は認めず、アレルギー発症に関連していることを示すことは現時点では否定的であった。
同じアンケートでの行動スクリーニング尺度「子どもの強さと困難さアンケート」を用いた児の行動発達に関する調査では、全体および5分野のサブスコアの平均値について母乳中の総ダイオキシン類濃度およびダイオキシン推定摂取量との相関について相関を検討したが、明かな関連は認めなかった。重回帰分析でも母乳中のダイオキシン類との明らかな関連を認めなかった。
発達性協調運動障害に関する質問紙を用いて発達との関連を検討したが、小学生、中学生ともに母乳中ダイオキシン類との有意な相関は認めなかった。重回帰分析でも母乳中のダイオキシン類によるスコアへの影響は認めなかった。発達性協調運動障害では不器用、運動技能における遅さ、不正確さなどが問題となるが、母乳中のダイオキシン類とこうした微細な機能障害との明らかな関連は示されなかった。
結論
初産婦の産後1か月の母乳中のダイオキシン類濃度を引き続き調査し近年と同レベルであり、長期的には漸減傾向を示していた。母乳中ダイオキシン類レベルの年次推移は,ダイオキシン類の環境への排出削減や食事からの摂取量減少などを反映する指標として有用と考えられ、母乳中ダイオキシン類レベルのモニタリングを継続する意義は十分にあると考えられる。
最近の母乳中のダイオキシン類濃度でも、1か月の時点で母乳から摂取するダイオキシン類の総量はダイオキシン類対策特別措置法に定める耐用一日摂取量の約20倍であり、乳児期1年間に摂取するダイオキシン類の総量も約10倍の摂取量と予測され、発達的影響も含めて,今後も母乳中ダイオキシン類レベルのモニタリングと追跡調査が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201426021Z