食品由来細菌の薬剤耐性サーベイランスの強化と国際対応に関する研究

文献情報

文献番号
201426008A
報告書区分
総括
研究課題名
食品由来細菌の薬剤耐性サーベイランスの強化と国際対応に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 治雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田誠(国立感染症研究所)
  • 秋庭正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 五十君静信(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西路子(農水省動物医薬品検査所)
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター)
  • 倉園貴至(埼玉県衛生研究所)
  • 泉谷秀昌(国立感染症研究所)
  • 田口真澄(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 田村 豊(酪農学園大学)
  • 柴山恵吾(国立感染症研究所)
  • 富田治芳(群馬大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班ではWHOへの対応を見据え、家畜現場の耐性菌モニタリングJVARM (Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System)と院内感染菌耐性モニタリングシステムJANIS(Japan Nosocomial Infections Surveillance)のデータの統合を目指し、わが国の耐性菌のサーベイランス体制の強化を行う。また、動物等で選択された耐性菌が食品を通して実際の臨床の場に入り込んで、ヒトに健康危害を及ぼしているのかに関しての解析を行うため、動物や臨床で分離される耐性菌およびその耐性遺伝子のゲノムレベルでの比較解析を行い、その伝播ルートの解明を目指す。
研究方法
WHO AMR-TAG 会議に出席し、情報を集めるJVARMのデータをJANISデータフォーマットに準じたものに変換し、JANISシステムの集計プログラムを用いて、人由来株と家畜由来株のデータの比較が出来るようにする。ヒトおよび食品由来株について、CP, TC, SM, KM, GM, ABPC, ST, NA, CTX, CPFX, OFLX, FOM, NFLX, Su, VCMなどの各種薬剤に対する薬剤耐性菌出現動向を調べる。次世代シークエンサーを用いて菌の染色体および耐性プラスミドの全ゲノム配列の解析を実施する。特に、増加傾向にある第三世代セファロスポリン耐性大腸菌を中心に解析を行う。現在公開されているプラスミド 2981配列の特徴(Incタイプ、薬剤耐性因子、Insertion sequence、Transposon等)を用いたPlasmidome ネットワーク解析と、プラスミド保有菌種の情報(菌種、分離年・国・地域・宿主、各種タイピング結果等)を網羅しデータ・ベース化を行う。
結果と考察
WHO AMR-TAG 会議に出席し、情報を集めた。JVARMのデータをJANISデータフォーマットに準じたものに変換し、JANISシステムの集計プログラムを用いて、人由来株と家畜由来株のデータの比較を行った。腸内細菌科におけるESBL(CTX-M) およびカルバペネマーゼ(NDM-1, KPC)のプラスミドを介した伝達頻度をPlasmidome ネットワークとして図示化することに成功し、俯瞰的な解析法の基盤を作成した。このネットワーク・データベースを重厚なものとするため、プラスミド配列解析ソフト GPAT、そして得られたプラスミド配列の関係性を明確にするネットワーク解析ソフトiPAT を開発した。ブロイラー由来第3世代セファロスポリン耐性大腸菌の性状解析:2012年3月に国内の生産者団体からセフチオフ
ルの使用に関する注意喚起が自主的に行われ、2012年および2013年のブロイラーにおけるセファロスポリン耐性は、2011年に比べて有意に減少した。(2011年18.0%→2012年9.7%、2013年4.6%)。その耐性遺伝子はblaCMY-2が優勢であった。blaCMY-2を保有するプラスミドのレプリコン型は、2010年から2013年の分離株においていずれの年もIncK次いでIncI1であった。2010年度まで主要なIncA/Cは
2013年に1株認められたものの減少傾向であった。セフチオフルの自主規制に伴う当該製剤の選択圧の減少によって、プラスミドの維持に関連する負荷(biological cost)の差異が関連したと推察された。
結論
サーベーランスのデータを維持するためには、動物、食品、ヒトで分離される細菌の耐性情報を継続的に収集し、その状況の解析、および相互間の関連性に関する科学的データの蓄積が重要である。そのデータに基づき、各分野での科学的対策に活かせる。また対策を行ったその成果のアセスメントも可能となる。今回の研究で得られた国内の生産者団体が養鶏にセフチオフルを投与することを自主的にやめた結果、農場の鶏糞からのESBL/AmpC産生大腸菌の検出が減少した結果が得られたことはその良い事例であろう。しかし、小売店の鶏肉の耐性菌の減少は見られていなかった。この差がどこからきているのか、動物等への対策の結果がすぐには消費者レベルには到達しない結果は、流通レベルにあるのか、今後の解析が必要であろう。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201426008B
報告書区分
総合
研究課題名
食品由来細菌の薬剤耐性サーベイランスの強化と国際対応に関する研究
課題番号
H24-食品-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 治雄(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 黒田誠(国立感染症研究所 )
  • 秋庭正人((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 五十君静信(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 川西路子(農水省動物医薬品検査所)
  • 甲斐明美(東京都健康安全研究センター)
  • 倉園貴至(埼玉県衛生研究所)
  • 泉谷秀昌(国立感染症研究所 )
  • 田口真澄(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 田村 豊(酪農学園大学)
  • 柴山恵吾(国立感染症研究所 )
  • 富田治芳(群馬大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国で行っている家畜由来耐性菌サーベーランス(JVARM)とヒト由来細菌の耐性菌サーベーランス(JANIS)の統合を行い、家畜―ヒトの耐性菌の流れを総合的に解析する体制を作る。網羅的に解析するために、動物およびヒトから分離される耐性プラスミドのデータベースを構築し、バイオインフォーマティクスの技術を使い詳細に解析し、耐性遺伝子の移動を明らかにする。WHO等への国際的なネットワークへの対応を可能とする。
研究方法
サルモネラ、大腸菌、カンピロバクターについて菌株の収集、耐性パターン、耐性遺伝子の解析を行う。家畜、ヒト由来セファロスポリン、セフェム耐性大腸菌が保有する薬剤耐性伝達因子のうち、特にプラスミド性耐性因子を解析し、プラスミドの伝播過程の関連性を調べる。JANIS院内感染由来大腸菌の収集、解析および、動物由来株等との比較解析を行い、JANISとJVARMの情報を相互乗り入れするためのソフトの構築を行う。各菌株の遺伝子型(PFGE,MLVA,MLST等の分子疫学的解析手法による解析)の解析結果、遺伝型の整理を行い、データベースの構築を行う。それらの中から耐性プラスミドのゲノムを比較するためのデータベース構築のプラットフォームを作成する。WHO主催の世界的な耐性菌のサーベイランスの会議に参加し、我が国としての世界的貢献を行う。
結果と考察
WHO AMR-TAG(2015年5月)において、WHO総会に提出される今後5か年間のglobal action planについて討議した。WHOは、薬剤耐性菌が環境―動物―食品―ヒトの総合的問題として取り組まなければ最終的解決が図れない点を強調している。JANISデータフォーマットに準じた新JVARMデータフォーマット(Ver1.0)を作成した。そして、JVARMデータを新JVARMフォーマットに変換するプログラムを作成し、家畜由来細菌のアンチバイオグラムを作成するシステムを構築した。鶏の大腸菌とヒトの大腸菌のST遺伝型には違いが見られるが、耐性遺伝子はST遺伝型が異なる鶏とヒトの大腸菌で共通性が見られた。耐性菌(耐性遺伝子も)はヒトー動物(食品も含)―環境(土壌、水系など)を循環しており耐性菌の最終的なコントロールのためには、上記3者を対象としての総合的対策が重要である。世界における耐性菌の現状を科学的に裏打ちされたデータにより周知させ、対策に結びつけるため、グローバルな耐性菌サーベイランスの強化が重要である。
結論
我が国で行っている家畜由来耐性菌サーベーランス(JVARM)とヒト由来細菌の耐性菌サーベーランス(JANIS)の統合を行い、家畜―ヒトの耐性菌の流れを総合的に解析する体制を作ることを行った。ブロイラーの耐性大腸菌はヒトの中で定着をしていなく、耐性遺伝子がヒトの大腸菌に伝播している可能性が示唆された。一端ヒトの大腸菌に入り込んだ耐性遺伝子は、ヒトにおいて抗菌薬の選択圧がかかっている限りは、耐性菌は維持される可能性がある。WHOは、2015年5月の総会で「微生物(細菌ばかりでなくウイルス、寄生虫、真菌を含む)の薬剤耐性に対処」するためのGlobal action planを提出する。5年間の行動計画を立て、それを履行することを各国に求めている。

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-05-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201426008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
家畜由来耐性菌サーベーランス(JVARM)とヒト由来細菌の耐性菌サーベーランス(JANIS)の統合を行い、家畜―ヒトの耐性菌の流れを総合的に解析する体制を構築した。その結果;鶏のセファロスポリン耐性大腸菌とヒトの同耐性大腸菌の遺伝型には違いが見られるが、耐性遺伝子には共通性が見られた。鶏の耐性大腸菌はヒトの中で定着・維持されないが、耐性遺伝子がヒトの大腸菌に伝播している可能性が示唆された。ヒトにおいて抗菌薬の選択圧がかかると、その耐性菌は維持される可能性がある。
臨床的観点からの成果
不適切な抗菌薬の使用は、ヒトの腸管内の耐性菌の選択圧として作用することが示唆される。
ガイドライン等の開発
2014年2月17日(月曜日) 農林水産省主催「食品に関するリスクコミュニケーション -畜産分野における薬剤耐性菌対策に関する意見交換会-」で研究成果を発表。
その他行政的観点からの成果
2014年12月3日のWHO主催「WHOによる薬剤耐性菌のグローバルなサーベイランスの構築に関する会議」;切り札といわれるカルバペネム剤に対する耐性菌の増加と近年新しい抗菌薬の開発が停滞していること等により、薬剤耐性菌による感染症の健康被害に対する脅威が増加してきているとのデータに反映された。
その他のインパクト
無し

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
44件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
臼井優、佐藤豊孝、大久保寅彦、田村豊
伴侶動物由来細菌へのフルオロキノロン剤曝露による耐性菌出現リスク
獣医畜産新報 , 66 , 279-282  (2012)
原著論文2
Ishihara K, Saito M, Shimokubo N, Muramatsu Y, Maetani S, Tamura Y
Epidemiological analysis of methicillin-resistant Staphylococcus aureus carriage among veterinary staff of companion animals in Japan.
J. Vet. Med. Sci , in press  (2014)
原著論文3
Ishihara K, Saito M, Shimokubo N, Muramatsu Y, Maetani S, Tamura Y.
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus carriage among veterinary staff and dogs in private veterinary clinics in Hokkaido, Japan.
Microbiol. Immunol. , 58 , 149-154  (2014)
原著論文4
Usui M, Nanbu Y, Oka K, Takahashi M, Inamatsu T, Asai T, Kamiya S, Tamura Y.
Genetic relatedness between Japanese and European isolates of Clostridium difficile originating from piglets and their risk associated with human health.
Front. Microbiol. , 5 , 513-  (2014)
原著論文5
Sato T, Yokota SI, Ichihashi R, Miyauchi T, Okubo T, Usui M, Fujii N, Tamura Y.
Isolation of Escherichia coli strains with AcrAB–TolC efflux pump-associated intermediate interpretation or resistance to fluoroquinolone, chloramphenicol, and aminopenicillin from dogs admitted to a university veterinary hospital.
J. Vet. Med. Sci. , 76 , 937-945  (2014)
原著論文6
Okubo T, Sato T, Yokota SI, Usui M, Tamura Y.
Comparison of broad-spectrum cephalosporin-resistant Escherichia coli isolated from dogs and humans in Hokkaido, Japan.
J. Infect. Chemother. , 20 , 243-249  (2014)
原著論文7
Sato T, Yokota SI, Okubo T, Usui M, Fujii N, Tamura Y.
Phylogenetic association of fluoroquinolone- and cephalosporin-resistance of D-O1-ST648 Escherichia coli carrying blaCMY-2 from fecal samples of dogs in Japan.
J. Med. Microbiol , 63 , 263-270  (2014)
原著論文8
Ishimura K, Tominaga K, Yahiro S, Fujita M, Igimi S. et al.
Evaluation of the culture method NIHSJ-02 alternative to ISO 10272-1:2006 for the detection of Campylobacter jejuni and Campylobacter coli in chicken: collaborative study.
J AOAC Int. , 96 (5) , 991-997  (2013)
原著論文9
Asakura H, Hashii N, Uema M, Kawasaki N, Sugita-Konishi Y, Igimi S, Yamamoto S.
Campylobacter jejuni pdxA Affects Flagellum-Mediated Motility to Alter Host Colonization.
PLoS One. , 8 (8) , e70418-  (2013)
原著論文10
Asakura H, Taguchi M, Ekawa T, Yamamoto S, Igimi S.
Continued widespread dissemination and increased poultry host fitness of Campylobacter jejuni ST-4526 and ST-4253 in Japan.
J Appl Microbiol. , 114 (5) , 1529-1538  (2013)
原著論文11
Yamashita A, Sekizuka T, Kuroda M
Characterization of Antimicrobial Resistance Dissemination across Plasmid Communities Classified by Network Analysis.
Pathogens. , 3 (2) , 356-376  (2014)
原著論文12
Kuroda M, Akiba M, Izumiya H, Connor TR, et al.
Distinguishable epidemics of multidrug-resistant Salmonella Typhimurium DT104 in different hosts.
Science , Sep 27 (341(6153)) , 1514-1517  (2013)
原著論文13
Matsumoto Y, Izumiya H, Sekizuka T, Kuroda M, Ohnishi M.
Characterization of blaTEM-52-Carrying Plasmids of Extended-Spectrum-β-Lactamase-Producing Salmonella enterica Isolates from Chicken Meat with a Common Supplier in Japan.
Antimicrob Agents Chemother. , Dec (58(12)) , 7545-7547  (2014)
原著論文14
Sekizuka T, Lee K, Kuroda M, Kusumoto M, Iwata T, Uchida I, Tanaka K, Tamamura Y, Akiba M.
Whole-Genome Sequence of CMY-2 β-Lactamase-Producing Salmonella enterica Serovar Typhimurium Strain L-3553.
Genome Announc. , Jul 24 (2(4)) , e00711-e00714  (2014)
原著論文15
Kudo M, Nomura T, Yomoda S, Tanimoto K,Tomita H
Nosocomial infection caused by vancomycin-susceptible multidrug resistant Enterococcus faecalis over a long period in a university hospital in Japan.
Microbiol Immunol. , 58 , 607-614  (2014)
原著論文16
Kurushima J, Nakane D, Nishizaka T, Tomita H.
Bacteriocin protein BacL1 of Enterococcus faecalis targets cell division loci and specifically recognizes L-Ala2-crossbridged peptidoglycan.
J Bacteriol. , In Press  (2015)
原著論文17
Asai, T., Hiki, M., Baba, K., Usui, M., Ishihara, K., Tamura, Y.
Presence of Staphylococcus aureus ST398 and ST9 in swine in Japan.
Jpn. J. Infect. Dis. , 65 , 551-552  (2012)
原著論文18
Kawanishi, M., Ozawa, M., Hiki, M., Abo, H., Kojima, A., Asai, T
Detection of aac(6')-Ib-cr in avian pathogenic Escherichia coli isolates in Japan.
J Vet Med Sci. , 19 (5) , 823-825  (2013)
原著論文19
Hiki, M., Usui, M., Kojima, A., Ozawa, M., Ishii, Y., Asai, T.
Diversity of plasmid replicons encoding the blaCMY-2 gene in broad-spectrum cephalosporin-resistant Escherichia coli from livestock animals in Japan.
Foodborne Pathog Dis. , 10 (3) , 243-249  (2013)
原著論文20
Usui, M., Nagai, H., Hiki, M., Tamura, Y., Asai, T.
Effect of antimicrobial exposure on acrAB expression in Salmonella enterica subspecies enterica serovar Choleraesuis.
Front Microbiol. , 4 , 53-  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-27
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201426008Z