全国統一マニュアル作成および研修制度化のための小児救急電話相談事業

文献情報

文献番号
201424003A
報告書区分
総括
研究課題名
全国統一マニュアル作成および研修制度化のための小児救急電話相談事業
課題番号
H25-医療-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 穣治(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 桑島 成央(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 田中 圭一朗(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 黒部 仁(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 平松 友雅(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 飯島 正紀(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 野中 雄一郎(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 大橋 伸介(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 馬場 優治(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 松裏 裕行(東邦大学 医学部)
  • 桑原 正彦(医療法人唐淵会桑原医院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児救急電話相談事業(以下#8000事業)が、子育て世代の国民にとって、より良い事業となるために解決しなければならない改善点を明確にして、その対応策を提唱することが研究の目的である。その改善点の一つが、「電話相談対応者の緊急度判断の精度の向上をどのようにおこなうか」であった。そして、精度向上には、緊急度判定を支援する電話対応電子マニュアルの作成と研修の制度化や資格制度が必要であると考え、2年間の研究期間で、電子マニュアルを作成・普及させることを研究班の具体的な目標として、電話対応者の研修・教育について検討することを研究の目的とした。
研究方法
平成26年度には以下の調査を実施した。1) 47都道府県別#8000事業の実態調査:全国の自治体別#8000の相談件数・緊急度別件数などについて調査した。2) 電話相談対応者講習会:開発したソフトを用いた講習会を開催した。3) 電話相談対応者実態調査:全国の電話相談対応者を対象に相談業務の実態調査を実施した。4) #8000事業費の有効活用に関する調査:6自治体で電話相談によって不要・不急の受診件数が減少して、自治体が負担する乳幼児医療費助成制度や子供医療費助成制度経費がどれくらい縮減できたのかを調査した。5) 保護者・電話相談対応者・医療機関の三者を結ぶトライアングル調査:広島県において全電話相談者を対象として、電話相談対応者が、共通番号を保護者に伝え、医療機関を受診時にはこの番号を保護者が医療機関へ伝えることで、三者を結び付けたアンケート調査を実施した。6) 自治体別#8000事業稼働率調査:自治体別に電話相談件数と小児人口や事業費との関係、さらに電話対応回線数や時間から算出した電話対応可能件数と実際の対応件数から稼動率を算出し、現状の分析をおこなった。7) 小児救急受診行動調査:夜間・休日に医療機関を受診した患児の保護者を対象として、受診行動調査を実施した。8) 子どもの事故と対策のオンライン版の充実化:交通事故と誤飲の項目追加を計画した。
結果と考察
1) 平成25年度には568,204件の電話相談がよせられた。回線数の増設予定の自治体があるので、今後も増加見込である。2) 参加者は約230人であった。携帯電話を用いて質問に対して回答できるシステムを用いて、参加者の考えを聴取しながら、講習をおこなった。緊急度判定の事例提示では、回答にばらつきがあり、統一マニュアルの必要性を裏づけるものであった。3) 314名(約63%)の電話相談対応者から回答を得た。年齢は50歳以上が60%であり、年齢層が高い傾向がある。緊急度判断に51%の電話相談対応者が自身をもてていないと回答した。講習会や研修会への参加希望が84%であった。4) 6県で1週間に1,254人の調査をおこなった。電話相談対応者が、電話相談終了時に電話相談をしなかったら、医療機関を受診していいたか否かの質問を行い、緊急度判定との関係を調査した。584人(44.6%)が受診しなかった、651人(51.9%)が受診していたと回答した。さらに相談前に受診を考えていた651人中445人が受診しないこととなった。これは、自治体の乳幼児医療費助成制度や子供医療費助成制度での医療費用負担を#8000事業が軽減していることを示している。5) 電話対応者の回答は407件、保護者の回答は67件(16.4%)であった。そのすべてで「電話相談が役に立った。」という回答であった。6) 年少人口当たりに#8000相談件数と稼働率には自治体間格差が大きかった。7) 平成26年2月2~9日までの全国76小児救急医療機関で保護者3,861人から回答を得た。#8000の利用は6.3%であった。8) 「交通事故・異物」の項目を追加した。
結論
A) 平成26年度に本ソフトウエアを#8000事業に活用している自治体があった。B)多くの相談対応者が講習会参加を望んでいるので開催回数増加が必要である。C)電話相談対応者の新たな資格制度の確立は、若手看護師・保健師がこの事業へ参加をするきっかけともなり、今後の事業の維持発展のために重要な施策であり、研究班で継続検討が必要である。D) #8000事業によって不要不急の受診が抑制され、乳幼児医療費助成制度や子供医療費助成制度で自治体の負担する医療費支出額は、#8000事業費よりも高額となることが本調査で明らかになり、#8000事業の有効性が自治体の負担する医療費の面から証明された。E) #8000事業は自治体間格差がり、A:周知度が低く#8000事業費が有効活用されていない、B:相談件数が一定数あり、#8000事業費が有効活用されている、C:周知度が高く、電話相談件数が多いため、回線数不足となっている、の3タイプがある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201424003B
報告書区分
総合
研究課題名
全国統一マニュアル作成および研修制度化のための小児救急電話相談事業
課題番号
H25-医療-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉澤 穣治(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 桑島 成央(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 田中 圭一朗(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 黒部 仁(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 平松 友雅(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 飯島 正紀(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 野中 雄一郎(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 大橋 伸介(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 馬場 優治(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 松裏 裕行(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 桑原 正彦(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、全国で統一した相談記録方式がないために自治体間の比較や全国統計ができないこと、電話対応者の経験や知識に左右されずに緊急度の適切な判断ができるツールがないことに着目して、相談内容を記録するソフトウエアと相談対応を短時間に正確に行うための電子マニュアルを一体化したものを作成することを目的とした。また、電話相談対応者の技量を担保するための研修制度や資格認定制度について検討することを目的とした。
研究方法
平成25年度:1)電話相談内容記録と相談対応マニュアルを兼ね備えたソフトウエアの作成, 2) 子どもの事故と対策オンライン版作成, 3) 「こどもの救急」ウエブサイトへのアクセス数解析, 4) 自治体別小児救急医療情報ウエブサイト評価, 5) 民間委託の問題点調査
平成26年度:1) 電話相談対応者講習会: 日本小児救急医学会において講習会を企画した。2) 電話相談対応者実態調査: 全国の電話相談対応者を対象に24項目の調査を実施した。4) #8000事業の有効活用に関する調査:電話相談によって不要・不急の医療費がどれくらい削減できたのかを調査した。5) 保護者・電話相談対応者・医療機関の三者を結ぶ調査(以下トライアングル調査):広島県において電話相談対応者が、共通番号を保護者に伝え、医療機関を受診した際にはこの番号を医療機関へ伝える方法で三者を結び付けるアンケート調査をおこなった。6) 都道府県別#8000事業稼働率調査:電話相談件数を自治体毎に年少人口・事業費・稼働率(電話回線数や対応時間を基に、単位時間当たりに対応可能な件数を算出して、同時間当たりの電話相談件数と比較した値)と対比して、事業費の適正運用について検討した。7) 小児救急受診行動調査:夜間・休日に全国76の医療機関を受診した保護者を対象として、受診行動調査を実施した。
結果と考察
#8000電話相談件数は、毎年増加し平成25年度には568,204件となった。本研究班では、平成25年度に「電話相談内容記録と相談対応マニュアルを兼ね備えたソフトウエア」を作成して、平成26年度にはこのソフトウエアを用いた電話相談対応者を対象とする研修会を実施した。全国約500名の電話相談対応者へ普及させるために、今後は研修会開催回数の増加が必要である。平成26年度に行った電話相談対応者へのアンケート調査結果(対象者数314名)から、電話相談対応者の年齢は、50歳以上が60%であり、また、電話対応に不安があると回答したものが51%であることから、若手育成が必要であり、そのためには、何らかの研修制度や資格制度を制定することが必要になると予想され、引き続き検討を要する。また、相談対応者の不安や疑問を解決するための意見交換の場の設置が必要である。#8000事業の有用性について、医療経済面から調査検討を行った。電話相談する前には、受診しようと思っていたが、電話相談の結果、受診しないこととなった相談者数が445人(445/1,254=35.8%)であり、#8000事業によって不要不急の受診が抑制され、乳幼児医療費助成制度や子供医療費助成制度で自治体の負担する医療費支出が抑制された。この額は#8000事業費よりも高額となることが本調査で明らかになり、医療経済面から#8000事業の有用性が認められた。今後、さらに全国の自治体別調査を行い、自治体別の有用性を検討することが重要である。年少人口と#8000事業費・相談件数の関係や、稼働率から各自治体の#8000事業の有効活用度が明らかになった。A:周知度が低く、#8000事業費が有効活用されていない自治体、B:相談件数が一定数あり、#8000事業費が有効活用されている自治体、C:周知度が高く、電話相談件数が多いため、回線数不足となっている自治体の3タイプがあることがわかった。
結論
1) #8000事業の自治体間格差と周知度改善: #8000事業への関心の高低には自治体間格差がある。周知度が高く、利用率の高い自治体は電話回線数の増加対策が必要であり、周知度が低い自治体では、人気キャラクターなどを広報利用することが早急に必要である。2)開発したソフトの普及:普及を進める対策をとり続けることが必要である。3) 全国小児電話相談支援センターの設立: 現在行われていない自治体の深夜帯の電話相談業務を一括して請け負うセンターを国が主体で設立することを提唱する。4) 電話相談対応者のひろばの設置:電話相談対応者の疑問質問に答え、意見交換ができるホームページの開設が必要である。5) #8000事業は医療経済的に有用な事業である: 電話相談によって縮減できる不要不急の医療費の自治体負担額は、#8000事業費を上回り、医療経済的に有用な事業であることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201424003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
小児救急電話相談事業の有用性を客観的に評価することを、過去の研究班でも検討されてはきたが、非常に難しい課題であった。そこで本研究班では、有効性を示す指標として自治体の負担する医療費の削減効果に注目して検討した結果、その有用性を示すことができた。また、電話対応者(多くは看護師)の緊急度判断の検証方法として、相談者・相談対応者・医療機関の三者を結びつけた調査(トライアングル調査)を実施して、調査方法の問題点を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
小児救急電話相談事業において、全国で統一した相談記録方式が行われていないために自治体間の比較や全国統計ができないこと、および、電話対応者の経験や知識によらずに緊急度の高い事案を見逃さずに、適切な緊急度判定ができるツールがないことが問題であった。そこで、相談内容を記録するソフトウエアと、相談対応を短時間に正確に行える電子マニュアルを一体化したソフトウエアを作成して、全国の自治体へ配布して、これを用いた講習会を企画して、その普及を開始した。
ガイドライン等の開発
今回作成した緊急度判断電子マニュアルは、電話相談事業内のみならず、早急の普及が待たれる国民自身が緊急度を判断できるツールや消防機関・医療機関における緊急度判定ツールのさきがけとしての役割を果たすものである。
その他行政的観点からの成果
小児救急電話相談事業によって不要不急の受診が減少して、乳幼児医療費助成制度や子供医療費助成制度において自治体が負担している医療費が削減でき、その額は、#8000事業費を上回ることが、今回調査した6自治体で明らかとなった。この結果は#8000事業を維持・発展させるための明確な理由の一つである。
電話対応者の6割が50歳以上であり、後継者の要請が急務であること、資格・研修制度化について検討の継続が必要であることが明らかになり、今後の行政の方向性が導かれた。
その他のインパクト
平成26年6月21日付け読売新聞に「小児救急判断支援ソフト」が作成され、今後普及させていく方針であることが掲載された。平成27年3月4日付け日本経済新聞に小児救急電話相談件数が56万件になったことと、緊急度判断支援ソフトの普及が進められていることが掲載された。平成27年4月28日付け朝日新聞に「こども救急迷わず#8000」という記事で支援ソフトが紹介された。平成26年6月7日に日本小児救急医学会において「電話相談のコツ」の講演をおこなった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
小児救急電話相談事業の課題とその解決方法、有用性について、日本小児救急医学会・日本小児外科学会・日本脳神経外科学会において発表した。
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本小児救急医学会で支援ソフトの普及を目的に講演をおこなった。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-12-16
更新日
-

収支報告書

文献番号
201424003Z