文献情報
文献番号
201423019A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎ウイルスに起因する肝硬変に対する抗線維化治療薬の開発に関する研究
課題番号
H25-肝炎-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木村 公則(東京都立駒込病院 肝臓内科)
研究分担者(所属機関)
- 小嶋 聡一(理化学研究所 微量シグナル制御技術特別開発ユニット・分子細胞病態学 ケミカルバイオロジー)
- 池嶋 健一(順天堂大学大学院医学研究科 消化器内科学)
- 奥坂 拓志(国立がん研究センター中央病院 肝胆膵内科)
- 原田 憲一(金沢大学医薬保健総合研究科 形態機能病理学)
- 井上 和明(昭和大学藤が丘病院 消化器内科)
- 大澤 陽介(東京都立駒込病院 肝臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
36,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HCV感染者は現在世界で約1億7千万人、国内では約200万人いると推定される。また肝硬変患者は国内で約40万人に上るといわれ、約70%がHCVに起因している。この感染症の問題点は高率に持続感染化し、持続的肝障害が線維化を誘導し肝硬変から肝細胞がんを発症させることである。また肝硬変の進行は、蛋白質合成などの肝臓の様々な機能の低下をもたらし、腹水や門脈圧亢進症等の合併症を誘発する。C型慢性肝炎の治療薬としての抗ウイルス剤の開発はかなり進んでいるが、未だ肝硬変に対する抗線維化薬は実用化されていない。従って、抗ウイルス療法が実施出来ないあるいは治療効果を認めなかったC型肝硬変患者への対策が肝細胞がん発症予防への鍵となっている。PRISM PharmaはWntシグナル伝達を阻害し、β-カテニンとCREB-binding proteinの蛋白相互作用を選択的に阻害できる化合物、PRI-724を見いだした。この化合物は、米国での がん臨床試験(Phase Ia、固型がん)において単剤での安全性の確認試験が終了し、現在健常人での経口投与による臨床薬理試験および通常治療薬との併用における臨床試験を実施中である。研究代表者らはPRI-724が抗線維化作用を有するかHCV蛋白発現肝線維化(HCV-Tg)マウスを用いて検討した。17ヶ月齢のHCV-TgマウスにPRI-724(1mg/kg/day)を42日間持続静脈投与し肝臓組織を観察したところ、PRI-724投与群ではコントロール群と比較して肝線維化像の著しい改善が認められた。HCV-Tgマウスの長期にわたる持続的肝障害を経て形成された肝線維化はヒトHCV肝硬変の病態に類似していると考えられ、この治療効果は特筆すべきである。また同様の効果は肺線維症マウスモデルでも確認されており(PNAS;2010)、抗線維化薬としてのPRI-724の可能性が示唆された。本研究では、Wntシグナル阻害剤が抗線維化作用を有するという新しい知見をもとに、有効な治療薬がないHCV肝硬変に対するPRI-724の安全性と忍容性を確認する医師主導治験(Phase I試験)を行うとともに線維化のメカニズムを実験マウスモデルで解明する。
研究方法
1) PRI-724のHCV肝硬変症例に対する安全性・忍容性の医師主導治験;Phase I試験
本試験の適格基準に一致したHCV肝硬変患者に対して症例登録をおこない、投与可能な患者に対して駒込病院にてPRI-724の持続静脈内投与を開始し、プロトコールに準じて3ヶ月間の治験をおこなう。
PRI-724の安全性:PRI-724投与後の各症例の全身状態、血液検査や画像検査により有害事象の有無を確認する。
PRI-724の治療効果:PRI-724投与前後において肝生検を実施し線維化の治療効果を病理学的に評価する。
基本デザイン;単施設,持続静脈内投与,オープンラベル,用量漸増試験
(2) PRI-724のHCV発現肝線維化モデルにおける抗線維化作用機序の研究
上記マウスモデルを用いてPRI-724の抗線維化作用のメカニズムを解析する。PRI-724投与後の肝臓組織を用いて星細胞の関与を検討すると同時にTGF-βやPDGF-βなどのサイトカイン、MMP、 TIMP等の線維化因子、新規fibrogenesisマーカーTGF-βLAP分解産物の発現解析をおこなう。肝臓、脾臓リンパ球を採取し炎症細胞の免疫学的解析をおこなう。また、星細胞株(LX-2)を用いてPRI-724投与後の遺伝子解析をおこなう。
本試験の適格基準に一致したHCV肝硬変患者に対して症例登録をおこない、投与可能な患者に対して駒込病院にてPRI-724の持続静脈内投与を開始し、プロトコールに準じて3ヶ月間の治験をおこなう。
PRI-724の安全性:PRI-724投与後の各症例の全身状態、血液検査や画像検査により有害事象の有無を確認する。
PRI-724の治療効果:PRI-724投与前後において肝生検を実施し線維化の治療効果を病理学的に評価する。
基本デザイン;単施設,持続静脈内投与,オープンラベル,用量漸増試験
(2) PRI-724のHCV発現肝線維化モデルにおける抗線維化作用機序の研究
上記マウスモデルを用いてPRI-724の抗線維化作用のメカニズムを解析する。PRI-724投与後の肝臓組織を用いて星細胞の関与を検討すると同時にTGF-βやPDGF-βなどのサイトカイン、MMP、 TIMP等の線維化因子、新規fibrogenesisマーカーTGF-βLAP分解産物の発現解析をおこなう。肝臓、脾臓リンパ球を採取し炎症細胞の免疫学的解析をおこなう。また、星細胞株(LX-2)を用いてPRI-724投与後の遺伝子解析をおこなう。
結果と考察
17ヶ月齢のHCV蛋白発現肝線維化マウスにPRI-724(1mg/kg/day)を42日間持続静脈投与し肝臓組織を観察したところ、PRI-724投与群ではコントロール群と比較して肝線維化像の著しい改善が認められた。PRI-724投与後肝臓内に活性化したマクロファージ、単球、好中球の増加を確認した。PRI-724の医師主導治験にあたりPMDAと薬事戦略相談(事前面談)を2回実施し、対面助言をH26年1月30日に実施。2月12日に対面助言後面談を行い、治験内容およびプロトコールについて概ね合意となった。
H26年5月PMDAに治験届を提出し9月より登録開始となった。H27年3月時点で、登録症例は5名(男4女1)、Child A2例、Child B3例投与開始した。現在治験薬に関係する重篤な有害事象は認めていない。
H26年5月PMDAに治験届を提出し9月より登録開始となった。H27年3月時点で、登録症例は5名(男4女1)、Child A2例、Child B3例投与開始した。現在治験薬に関係する重篤な有害事象は認めていない。
結論
本研究班では現在有効な治療薬のないC型肝硬変に対するPRI-724の安全性、忍容性を医師主導治験で検証するとともに抗線維化作用機序の解明をマウスモデルでおこなう。
公開日・更新日
公開日
2017-01-20
更新日
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