文献情報
文献番号
201423015A
報告書区分
総括
研究課題名
C型肝炎の病態の解明と肝癌発症制御法の確立に関する研究
課題番号
H25-肝炎-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学 微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
- 堤 武也(東京大学大学院医学系研究科)
- 鈴木 哲朗(浜松医科大学医学部)
- 森石 恆司(山梨大学大学院医学工学総合研究部医学学域)
- 武冨 紹信(北海道大学大学院医学研究科消化器外科学)
- 考藤 達哉(国立国際医療研究センター肝炎免疫研究センター)
- 勝二 郁夫(神戸大学大学院医学研究科微生物学分野)
- 山本 雅裕(大阪大学 微生物病研究所)
- 鐘ヶ江 裕美(慈恵大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
34,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV)の複製酵素を標的とした新規薬剤 (DAA )が開発され、C型慢性肝炎患者からのウイルス排除が現実味を帯びてきた。しかしながら、既に肝硬変を発症している患者、副作用を伴う薬剤投与に耐えられない高齢者、また、肝移植後の再感染に対する有効な治療法はなく、さらに、C型肝炎で最も重要な肝癌発症の予防法も確立されていない。その最大の理由は、HCVの病原性発現機構の解析が進んでいないことに起因する。HCVはヒトとチンパンジーにしか感染しないため、HCVの病原性は特定のヒト肝癌由来細胞株とHCVの実験室株の組み合わせでしか解析できないのが現状である。仮に患者からウイルスを排除できたとしても、肝発癌の危惧を払拭できる訳ではなく、実際、ウイルス排除後の肝癌発生は高齢者を中心として増加しており、今後は肝癌への進展を制御する新しい治療法の確立が重要である。本研究は、HCV感染による炎症、線維化、脂肪化、そして発癌の発症機構の解析に必須な実験モデルを作出し、慢性C型肝炎から肝細胞癌への進展を阻止できる新しい治療法の開発を目的とする。
研究方法
(1) ヒト肝癌細胞株Huh7細胞からCRISPR/Cas9を用いてSPP遺伝子を欠損させて、HCV増殖の影響を検討した。(2) オートファジー誘導剤やプロテアソーム阻害剤により細胞を処理し、mRNAや蛋白発現の解析を行った。(3) C型慢性肝炎患者からDCサブセットを分離し、培養液中に静置し24時間後のアポトーシスを評価した。(4) クロマチン沈降法によってHoxB9プロモーター領域のmUb化H2A量を解析した。(5) 初回肝切除を受けたHCV陽性肝細胞癌におけるFABP5発現と肝癌細胞株の増殖・浸潤・遊走能との相関関係を検討した。(6) HCVの感染の有無による肝細胞内への遊離脂肪酸の取り込み活性に及ぼす影響を経時的に解析した。(7) ヒト肝癌細胞にHCVを感染させ、ATF6ファミリー分子の活性化について解析した。
結果と考察
SPPを欠損させたコア蛋白質発現マウスでは、SPP阻害剤の処理によってコア蛋白質の分解が促進され、インスリン抵抗性や脂肪肝の改善が観察された。コア蛋白質を発現するマウスの肝臓や培養細胞では、Bnip3がコア蛋白質と相互作用することで不安定化され、オートファジーの誘導が抑制されることが示唆された。HCV感染により肝特異的転写因子CREBHの活性化と小胞体ストレス依存的なTGFβ2の発現制御機構が示唆された。樹状細胞は生理条件下ではアポトーシス傾向にあるが、C型肝炎患者ではその傾向がさらに強いことが示された。HCV感染によって、ホメオボックス遺伝子の一部に発現上昇が観察され、発癌や前癌状態の指標になることが示唆された。初回肝切除を受けた HCV陽性肝細胞癌を解析し、上皮間葉転換関連分子と肝細胞癌の予後予測因子として同定したFABP5との発現に相関が認められた。HCV感染細胞では、コレステロールエステル合成酵素ACAT2や胆汁酸取り込みに関与するOATPや NTCPの発現上昇が認められた。
結論
HCVの持続感染、肝線維化や肝硬変への進展、そして、肝発癌に至る過程は不明な点が多い。本邦でもCDAAの治験が開始され、極めて有望な成績が報告されているが、治療適応外の患者やウイルス排除後の肝癌発生の対策は確立されていない。HCVの病原性を解析できるマウスモデルを開発し、HCVの病原性発現に関与する宿主因子を解析することで、病態進展を抑制できる標的因子の同定が可能となり、これらの発現または機能を阻害することによって、ウイルス排除が出来ない場合でも発癌予防あるいは大幅な発症遅延が期待される。本研究事業により、肝病態進展抑制に関する新しい治療法の糸口が解明できれば、医療経済的な貢献もさることながら、肝癌発症の恐怖に曝され続けている患者にとって大きな福音になるものと思われる。
公開日・更新日
公開日
2017-01-20
更新日
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