急速な病気進行あるいはセロネガティブ感染を伴う新型HIVの国内感染拡大を検知可能なサーベイランスシステム開発研究

文献情報

文献番号
201421027A
報告書区分
総括
研究課題名
急速な病気進行あるいはセロネガティブ感染を伴う新型HIVの国内感染拡大を検知可能なサーベイランスシステム開発研究
課題番号
H26-エイズ-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 白阪 琢磨(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・エイズ先端医療研究センター)
  • 塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所)
  • 森 治代(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課 )
  • 駒野 淳(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター・統括診療部 臨床検査科)
  • 小島 洋子(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
4,845,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 セロコンバージョンまでの期間が通常よりも長い、世界でも報告の少ないセロネガティブHIV感染の事例を端緒として、大阪府南部で局地的な増加をみた病期進行が著しく早い傾向があるエイズ患者の集団から、挿入変異を共通して持ち遺伝学的にも非常に近縁なHIV-1を検出した。この遺伝子変異が病期進行に関与する事を疑い、当該HIVの疫学的・ウイルス学的解析と、これを捕捉するための啓発・検査相談・支援・臨床が連携した検査・サーベイランスの強化・再編を本研究の目的とした。
研究方法
(1)新型変異HIV感染の病態解析
 新型変異HIVは、p6Gag領域に特徴的な5アミノ酸の重複挿入変異(以下p6変異)を共通に持っていたが、さらに詳細に遺伝子を解析する。また、新型変異HIVのウイルス学的性状を解析するため、この変異を導入した分子クローンを作出する。さらに、新型変異HIVに感染している者であっても類似した臨床像(高いViral Load (VL)とCD4数の急激な低下)を示さない者も存在するため、HIV感染に関わる宿主因子の解析を行う。
(2)新型変異HIVの遺伝子疫学解析
 新型変異HIV-1の流行実態を明らかにする目的で、大阪府立公衆衛生研究所にて保存しているHIV-1陽性検体について、遺伝子疫学解析を実施する。
(3)新型変異HIV捕捉に向けた検査体制の強化
 本年度大阪府が実施する診療所におけるMSM向けHIV/STI即日検査事業に併せ、通常検査でも診療所で受検できるよう検査体制を強化する。また、セロネガティブ感染を見逃さない目的で、即日検査陰性者から同意を得て核酸増幅検査(以下NAT)を行う。
(4) 地域におけるHIVサーベイランスの強化
 通常と異なる病期進行の事例を把握し解析するため、医師、予防啓発・検査相談・陽性者支援の各組織、大学の研究者、自治体担当者などが参加するネットワークを構築しする。
結果と考察
(1)新型変異HIV感染の病態解析
 新型変異HIVの詳細な遺伝子解析の結果、p6変異の他にインテグラーゼ領域に点突然変異を持つことを明らかにした。また、当該HIVのコレセプター指向性を鑑み、pNL4-3株のenv領域をR5-tropicとして知られるAD8に置換したpNL/AD8株を鋳型とし、新型変異HIVのp6変異とインテグラーゼ領域の変異を持つ分子クローンを作出した。さらに、次年度に予定する宿主因子のゲノム解析のため、日本人においてHIV感染症の病態進行に影響する遺伝子多型を過去の報告より割り出した。
(2)新型変異HIVの遺伝子疫学解析
 当所に保存していた2009年~2014のHIV-1陽性検体649例についてHIV-1の gag-pol遺伝子を解析したところ、17例からp6変異とインテグラーゼ領域に変異を持つ新型変異HIV-1が検出され、その大部分が2011~2012年に集中していた。
(3) 新型変異HIV捕捉に向けた検査体制の強化
 大阪府が実施したMSM向け検査を強化し、高いHIV-1陽性率(5.7%)の結果を得た。また、HIV抗体迅速検査陰性者282名から同意を得て行ったNATで、HIV遺伝子陽性の感染者1名を発見し、感染リスクの高い集団における即日検査において、実際に偽陰性(すり抜け)が起きている事を明らかにした。しかしながら、いずれのHIV-1も新型HIVでは無かった。
(4) 地域におけるHIVサーベイランスの強化
 通常とは異なる病期進行を示す新型HIV検出に向け、医師、予防啓発・検査相談・陽性者支援の各組織、大学の研究者、自治体担当者などが参加する連絡会議を開催しネットワークを構築し、本年度は新型変異HIV-1に関する情報共有を行った。
結論
 大阪府立公衆衛生研究所が保有する過去の検体の解析結果より、p6Gagとインテグラーゼの特徴的な遺伝子変異をもつ新型HIV-1 17例は、近年(2010年頃)、大阪南部に出現したと推測された。新型変異を持った分子クローンの作出は、今後ウイルス性状を解析する上で有用である。HIVの病態進行に影響するヒト遺伝子多型を過去の報告から割り出した。MSM向け通常検査の陽性率が非常に高かったことから、来年度は協力診療所を増やすなど、規模を拡大して実施し、地域におけるHIV感染者の把握を進める。迅速抗体検査では陽性者のすり抜けが起こっていることが明らかとなり、今後簡便なHIV核酸増幅検査法開発の重要性が高まった。WB法が陰性もしくは判定保留である成人HIV-1感染者の診断においては、確認検査時に核酸増幅検査を実施する必要がある。新型変異HIV-1に関する情報共有を行い、通常とは異なる病期進行を示すHIV検出に向けた地域のネットワークを構築した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201421027Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,087,000円
(2)補助金確定額
5,087,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,382,802円
人件費・謝金 857,145円
旅費 39,920円
その他 1,565,133円
間接経費 242,000円
合計 5,087,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
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