HIVエンベロープの治療標的構造に関する研究

文献情報

文献番号
201421019A
報告書区分
総括
研究課題名
HIVエンベロープの治療標的構造に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉村 和久(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 横山 勝(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 武内 寛明(東京医科歯科大学医歯学総合研究科 ウイルス制御学分野 )
  • 細谷 紀彰(東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター )
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 鳴海 哲夫(静岡大学工学部  大学院工学研究科 )
  • 桑田 岳夫(熊本大学 エイズ学研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
16,024,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この研究班では、HIVの侵入を阻害する物質から逃避する過程で誘導されるEnvの立体構造が、新たな免疫原として、もしくは薬剤のターゲットとしてどのように形成されているかをウイルス学的側面と構造シミュレーションの面から検討する。また、対応する標的細胞(受容体や膜内因子)からのアプローチもあわせて行い、Envの立体構造上の脆弱性の発見を目指す。
 そこで本研究では、(1)変異Envの立体構造変化と薬剤及び抗体感受性の関係の研究と、(2)変異Envと受容体の関係を2つの柱として研究を進め、相互にデータを参照し、新規治療方法の確立をEnvの立体構造のダイナミズムを解き明かしつつ目指す。
研究方法
平成26年度は、柱(1)では新規薬剤開発とそれらの薬剤からの逃避ウイルスを誘導し解析を行った(吉村、鳴海、井上、桑田)。また、逃避変異Envの立体構造および動的性質の影響を解析するため、HIV-1 gp120全長分子モデルおよびV1/V2を除いたHIV-1 gp120分子モデルを、ホモロジーモデリング法と分子動力学計算を組み合わせることにより構築を試みた(横山)。また、構築したモデルで耐性Envとgp120の結合様式をシミュレートした。柱(2)では、変異Envと受容体との関係を、迅速かつ様々な組み合わせで調べるため、分割タンパク質を用いた新規アッセイ系の構築を行い、それらを用いて臨床ウイルスのEnvを組込んで、genotypeとphenotypeの比較を行った(細谷)。また、受容体の発現や、感染効率を変化させ得る膜近傍細胞内因子を独自のshRNAの系を用いて探索した(武内)。
結果と考察
(1)変異Envの立体構造変化と薬剤及び抗体感受性の関係の研究:本研究により得られたHIV-1 gp120全長分子モデルをもとにCD4MCや抗体からの逃避変異の解析を進めていく。オレアノール酸誘導体OKS2-045およびOKS4-007では3位アセトキシ基およびスタチンのC末端はエステル基であることが抗HIV活性発現に重要である。これはベツリン酸誘導体IC9564とは異なる結合様式でEnvと相互作用していることを示唆しており、新たなシード化合物を見出したと言える。B404抗体が結合するEnv gp120ではなく、gp41の変異により抗体から逃避することがわかった。この結果は、gp41の変異によるEnv三量体の立体構造や翻訳後修飾の変化が、抗体から逃避するメカニズムとして重要であることを示唆している。
(2)変異Envと受容体に関する研究:DSP-Pheno assayはP3や生ウイルスを使用せず安全に最短5日でco-receptor usageを測定可能である。この検出系を使用して細胞膜融合を比較した結果、CCR5に対する細胞融合能に経時的変化は見られなかったのに対し、CXCR4に対する細胞膜融合能は上昇する傾向が見られた。昨年度に引き続き候補因子の探索を行った結果、新たに1種のHIV-1感染制御因子を見出すことが出来た。この細胞因子は細胞膜上の受容体であり、その受容体に対する特異的拮抗剤が抗HIV-1活性を有することが分かった。
結論
耐性変異のgp120とNBD誘導体の結合様式への影響は、NBD誘導体によって異なることが示された。今後、多くの逃避ウイルス変異との比較検討を行う事で、モデリングの精度をより上げて行く事が可能となるといえる。また、Env三量体の構造変化を制御する新規のケミカルプローブの創製を目指して、様々な株に対し顕著な抗HIV活性を示すベツリン酸誘導体IC9564の構造活性相関研究を行い、新たなシード化合物となるOKS2-045およびOKS4-007を見出した。SIVモデルを用いてgp41の変異による抗体からの逃避を示すことができた。逃避メカニズムを解析していくことでEnvの構造の特徴をあきらかにし、ワクチンや薬剤開発につなげていきたい。HIVで行っている研究との比較により、感染モデルとしてのサルの有用性の議論が可能となるといえる。新たなフェノタイプ検査系のDSP-Pheno assayにより解析したHIV感染者40例80検体全例で細胞指向性の決定が可能であった。また、細胞膜上の受容体として機能している宿主因子が、HIV-1侵入過程を制御する新規細胞因子であることを見出し、その拮抗剤が抗HIV-1活性を有することが分かった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201421019Z