国内で流行するHIVとその薬剤耐性株の動向把握に関する研究

文献情報

文献番号
201421017A
報告書区分
総括
研究課題名
国内で流行するHIVとその薬剤耐性株の動向把握に関する研究
課題番号
H25-エイズ-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター感染・免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 宗宏(独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター薬剤科)
  • 豊嶋 崇徳(北海道大学大学院医学研究科)
  • 渡邊 綱正(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科)
  • 貞升 健志(東京都健康安全研究センター 微生物部病原細菌研究科)
  • 近藤 真規子(神奈川県衛生研究所微生物部)
  • 南 留美(独立行政法人国立病院機構九州医療センター 免疫感染症科臨床研究部)
  • 松下 修三(熊本大学エイズ学研究センター)
  • 古賀 道子(東京大学医科学研究所先端医療研究センター 感染症分野)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター 臨床研究センターエイス先端医療研究部HIV感染制御研究室)
  • 健山 正男(琉球大学大学院医学研究科 感染症・呼吸器・消化器内科学)
  • 石ヶ坪 良明(横浜市立大学大学院医学研究科病態免疫制御内科学)
  • 潟永 博之(独立行政法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター)
  • 西澤 雅子(国立感染症研究所エイズ研究センター)
  • 加藤 真吾(慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室)
  • 椎野 禎一郎(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 森 治代(大阪府立公衆衛生研究所)
  • 太田 康男(帝京大学医学部・内科学)
  • 田邊 嘉也(新潟大学医歯学総合病院第二内科)
  • 伊藤 俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター)
  • 中谷 安宏(石川県立中央病院 免疫感染症科)
  • 内田 和江(埼玉県衛生研究所)
  • 藤井 輝久(広島大学病院 輸血部)
  • 山元 泰之(東京医科大学医学部・臨床検査医学講座)
  • 高田 清式(媛大学医学部付属病院総合臨床研修センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
54,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦の薬剤耐性HIVの発生動向を主軸に国内で流行するHIV株の動向を明らかにする。
研究方法
以下3項目の研究に取り組む。(1) 分子疫学調査研究:新規に診断されるHIV/AIDS症例を対象とする。年間700症例の登録を目標とする。本年度は治療中患者の薬剤耐性についても現状調査を実施する。
① 薬剤耐性検査: プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼの遺伝子配列解析を実施。
② 指向性検査: env C2V3領域の配列からGeno2Phenoを用いて指向性の推測を行う。CRF01_AEは指向性の推測が困難でありGeno2Pheno開発グループとの共同研究を行なう。
③ サブタイピング: env C2V3領域およびgag p17領域の配列解析を行う。
④ 薬剤耐性検査の外部精度管理: 収集する遺伝子配列の質的担保のためにと検査精度の評価を行う。
⑤ 微少薬剤耐性集属の検出: 高感度PCR法による薬剤耐性検出法を確立する。
⑥ 次世代シーケンサーによる薬剤耐性検査技術の実用化:次世代シーケンシングによる配列解析を行なう。
⑦ 合併する感染症の調査: HIV感染者におけるHBV G/A 組換え体の発生伝播を系統樹学的に解析し更なる発生の予防策を検討する。
(2) 薬剤血中濃度モニタリング研究:
抗HIV薬剤の血中濃度を指標にした至適治療を実現するために、①血中濃度測定検査の提供。900検体の測定を目標とする②薬物動態解析研究:日本人における薬物動態のデータ収集を行う。③抗HCV薬との相互作用等の解析を行う。
(3) 情報分析研究:
① 収集したHIV遺伝子配列と疫学データを統合•分析することにより感染予防策や新薬開発に有益な情報の抽出を目指す。②env配列による本邦流行株の変遷を統計学的に分析する。③HPを介しての本研究班の調査結果の公表を行う。
倫理面への配慮:研究実施にあたっては各種倫理指針を遵守する。
結果と考察
(1)分子疫学調査研究:平成(H)25年:678例、H26年:542例(中間報告)の新規HIV/AIDS診断症例が収集された。収集症例の主体は日本人、男性、30-40歳台、MSMそしてサブタイプBであり、この傾向は2003年以来一貫している。薬剤耐性変異を有するものはH25: 62例(9.2%)、H26:45例(8.5%)確認された。薬剤クラス別内訳では核酸系RT阻害剤:1 H25: 35例(5.2%)、H26:24例(4.6%)、プロテアーゼ阻害剤: H25: 17例(2.6%)、H26:14例(3.8%)、非核酸系RT阻害剤(NNRTI):H25: 8例(1.2%)、H26:6例(1.5%)であった。インテグラーゼ阻害剤H25:1例(0.2%)、H26:0例(0%)見いだされた。個別の耐性変異をみるとT215X、M184V、M46I/L、そしてK103Nは毎年検出されており、これらを保有する株は既に流行株の一つと推測される。多剤耐性の頻度に関してはH25:1例(0.1%)、H26:2例(1.0%)と低く、いずれも2クラス耐性であった。本年度は既治療症例における薬剤耐性の状況も調査した。全国の拠点病院389施設にアンケートを送付し、回収率は56%、14,569人の情報を収集した。このうち87.8%がon-ART、その87.7%が検出限界以下に抑え込まれていた。外部精度管理に関しては国内11施設が参加して第5回目を実施した。その結果微少集族の検出能力に施設間格差がある事が明らかにされた。HIVに重複するウイルス性肝炎についてはHBsAg陽性率がH25: 7.6%、H26:8.5%、HCV-Ab陽性率はH25: 2.9%、H26:4.0%であった。
(2)薬剤血中濃度モニタリング研究:HPアクセス数はH26年10月時点で累積18249回に達している。血中濃度測定件数はH26年10月時点で489例であった。
(3)情報分析研究:本邦のサブタイプB感染者ネットワークのクラスタ構造を新規未治療患者の4398検体から分析した。その結果227の感染クラスタが同定され、最大のものは365検体であり、大きなクラスタはすべてMSM主体であった。また、中和抗体の標的であるgp120V3領域のcodon usageから、ウイルスを二つに大別出来る事が明らかにされた。

結論
今後、早期治療が薬剤耐性株の伝播にどのように影響するかを見極めていく事が重要である。また先進諸国における治療患者の薬剤耐性HIVの情報は明らかに不足しており、日本における治療患者の薬剤耐性HIVの現状調査により得られる情報は貴重である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201421017Z