文献情報
文献番号
201421005A
報告書区分
総括
研究課題名
抗ウイルス宿主因子を基盤とする新規抗HIV戦略の開発・確立に向けた系統的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
足立 昭夫(国立大学法人徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究分担者(所属機関)
- 岩谷 靖雅(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター)
- 大塚 雅巳(熊本大学大学院生命科学研究部)
- 徳永 研三(国立感染症研究所)
- 中山 英美(大阪大学微生物病研究所)
- 藤田 美歌子(熊本大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,193,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多剤併用療法の進歩によりHIV感染症の予後は飛躍的に改善されたが、未だ治癒状態には至らず、生涯にわたる服薬の継続が必要とされている。既存の抗HIV薬はウイルス複製を阻害するものであり、体内からウイルスを駆逐することはできない。長期の服薬による種々の医学的、社会的問題も顕在化している。これらの状況を克服していくためには、新しいコンセプトに基づく新しい抗HIV戦略が開発されなければならない。近年、強力な抗ウイルス活性を示す種々の宿主細胞因子が発見・同定され、HIVは、様々な適応変異や遺伝子組換えを経て、祖先ウイルスから進化しヒトに特化してきたことが明らかにされている。霊長類で見出されているレトロウイルスの排除機構に鑑み、本研究班は、ヒトにのみ増殖性・病原性を示すHIVの特性を規定する抗ウイルス宿主細胞因子(APOBEC3、TRIM5、BST-2/Tetherin等)に特に着目する。本研究は、これらの宿主防御因子とその働きを解除するHIV遺伝子産物(Vif、Gag-CA、Vpu等)の相互作用の分子理解に基づいた次世代型治療戦略の基盤構築を目指す。
研究方法
研究目標を達成するため、宿主防御因子・ウイルス解除因子の系統的解析とともに、抗HIV薬探索やHIV霊長類実験感染システムの確立に向けた研究も行う。研究プロジェクトにより、各種研究手法を用いる(遺伝子工学、ウイルス学、免疫学、細胞生物学、分子生物学、生化学、有機化学、計算科学、構造生物学等)。
結果と考察
主要成果として以下の成績を得た。(1)vif mRNA/Vifの発現レベルを決定し、宿主細胞因子APOBEC3Gの抗ウイルス活性に対応する塩基配列 (SA1prox)をHIV-1ゲノム中央部に同定した。(2)アカゲザルで増殖するHIV-1 (HIV-1rmt)の構築に成功し、病原性研究に必要なR5-Env(臨床分離株やサルにおいて病原性を証明された株由来)を持つ数種類のHIV-1rmtクローンも作製した。(3)Gag-CAの自己重合を標的とした抗HIV-1薬の高速スクリーニング系を構築した。(4)X線結晶構造解析により、APOBEC3F CTD (C末端ドメイン)の分子構造(2.7Å)の決定に成功した。(5)TRIM5機能を擬似化する化合物BMMPの標的宿主細胞因子としてhnRNP Mを同定した。(6)HSP70の発現を誘導する化合物HPH-1Trtを見出した。(7)宿主細胞因子MARCH8がHIV-1粒子のエントリー過程を強力に阻害することを明らかにした。(8)抗ウイルス宿主細胞因子Mx2に感受性のHIV-1がヒトで流行していることを明らかにした。
上記の研究結果に対応させた考察事項を以下にまとめた。(1)SA1proxの同定は極めて重要な学術的知見である。APOBEC3G発現レベルにHIV-1がSA1prox配列を変化させることで適応し、その複製、伝播、存続、持続を制御していることが明確に示された。(2)エイズのモデル感染実験に必須のアカゲザルで増殖するHIV-1rmtが作製されたことで、HIV-1感染エイズ発症霊長類モデルの樹立に道が拓けた。(3)Gag-CAの重合にその構造安定性が関与していることに着目した、新しい原理に基づくスクリーニング系である。構造安定性はDifferential Scanning Fluorimetry (DSF)を用いて比較する。(4)今後の創薬に向け極めて大きな成果である。APOBEC3F-Vifの結合に重要なくぼみ構造が明らかにされた。(5)siRNAを用いたノックダウン実験から、宿主細胞因子hnRNP MはGagとの相互作用を介してHIV-1粒子の感染性制御に関与していると考えられる。(6)HSP70の発現誘導はVifによるAPOBEC3Gの分解阻害に働くことが報告されているので、大変有意義な研究成果である。(7)内在性発現レベルであっても、MARCH8はウイルス粒子中へのEnvの取込を強力に阻害する。創薬に向け今後の研究が重要である。(8)Mx2の抗HIV-1活性が主なウイルス複製の場であるCD4陽性T細胞で機能していないことが考えられる。実際、これらの細胞ではMx2の発現レベルが低いか陰性であることが報告されている。
上記の研究結果に対応させた考察事項を以下にまとめた。(1)SA1proxの同定は極めて重要な学術的知見である。APOBEC3G発現レベルにHIV-1がSA1prox配列を変化させることで適応し、その複製、伝播、存続、持続を制御していることが明確に示された。(2)エイズのモデル感染実験に必須のアカゲザルで増殖するHIV-1rmtが作製されたことで、HIV-1感染エイズ発症霊長類モデルの樹立に道が拓けた。(3)Gag-CAの重合にその構造安定性が関与していることに着目した、新しい原理に基づくスクリーニング系である。構造安定性はDifferential Scanning Fluorimetry (DSF)を用いて比較する。(4)今後の創薬に向け極めて大きな成果である。APOBEC3F-Vifの結合に重要なくぼみ構造が明らかにされた。(5)siRNAを用いたノックダウン実験から、宿主細胞因子hnRNP MはGagとの相互作用を介してHIV-1粒子の感染性制御に関与していると考えられる。(6)HSP70の発現誘導はVifによるAPOBEC3Gの分解阻害に働くことが報告されているので、大変有意義な研究成果である。(7)内在性発現レベルであっても、MARCH8はウイルス粒子中へのEnvの取込を強力に阻害する。創薬に向け今後の研究が重要である。(8)Mx2の抗HIV-1活性が主なウイルス複製の場であるCD4陽性T細胞で機能していないことが考えられる。実際、これらの細胞ではMx2の発現レベルが低いか陰性であることが報告されている。
結論
創薬に直結するAPOBEC3Fの構造決定に成功した。抗Gag-CA剤の高速探索系も構築した。また、ウイルス複製制御に関与する種々のウイルス・細胞因子等(SA1prox、MARCH8、hnRNP M、BMMP及びHPH-1Trt)を同定・解析した。更に、ウイルス複製、免疫応答、病態進行、ウイルス病原性発現機構の科学的理解に必須なアカゲザル感染実験のためのHIV-1クローンの構築にも成功した。
公開日・更新日
公開日
2015-06-09
更新日
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