血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究

文献情報

文献番号
201421004A
報告書区分
総括
研究課題名
血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 窓岩 清治(自治医科大学 医学部)
  • 大森 司(自治医科大学 医学部)
  • 小澤 敬也(自治医科大学 医学部)
  • 水上 浩明(自治医科大学 医学部)
  • 嶋 緑倫(奈良県立医科大学小児科)
  • 菱川 修司(自治医科大学 医学部)
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 瀧 正志(聖マリアンナ医科大学)
  • 稲葉 浩(東京医科大学臨床検査医学分野)
  • 竹谷 英之(東京大学医科学研究所附属病院)
  • 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部)
  • 峰野 純一(タカラバイオ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
119,700,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交替 長谷川護(平成26年4月1日~平成26年9月30日)→井上誠(平成26年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病は血液凝固第VIII因子(FVIII),第IX因子(FIX)活性が欠損する先天性出血性疾患である.治療に用いられた非加熱血漿製剤によるウイルス感染が,社会的に多くの問題を生んだ.製剤によるウイルス感染症は,薬害被害から30年が経過した今も患者QOLを阻害している.本研究では,HIV感染者を含む血友病患者の合併症を克服するために,遺伝子治療,インヒビター対策,ならびに患者ニーズ抽出によるQOL改善を目的とした調査研究を3本の柱として研究を推進する.
研究方法
遺伝子治療: アデノ随伴ウイルスベクター(AAV8)血友病B遺伝子治療のサルにおける長期治療効果を観察し,本手法の血友病Aへの応用を試みた.バキュロウイルスベクターによる効率的なAAV製造の条件検討を行った.サル免疫不全ウイルスベクター(SIV)によるヒト,サル間葉系幹細胞(MSC)への凝固因子発現に対する適切な感染・培養条件を探った.インヒビター対策:ケースコントロール研究,ならびに我が国初の患者登録システムを用いたコホート研究によりインヒビター発症要因を分析した.新規インヒビター検出法の再現性,免疫寛容療法(ITI)の機序を検討した.マウスモデルでiPS由来胸腺組上皮投与によるインヒビターの発生制御を試みた.QOL調査研究:血液凝固異常症全国調査で構築されたネットワークをもとに配布したQOL調査用紙の統計解析を行った.個別調査により対象者の支援特性を解析し,支援計画を行った.血友病整形外科手術に発生した合併症の頻度・その機序を解析した.
結果と考察
遺伝子治療: AAV8による血友病B遺伝子治療は1回のベクター投与により,サルで7年以上の治療域の凝固因子発現を確認した.臨床研究に必要なベクター量はバキュロウイルスによる製造より150L培養系によって得られる試算となった.患者数の多い血友病Aに対してはFVIIIのコドン最適化によって治療効果が40倍改善した.コドン最適化FVIII を搭載したSIVベクターによるサル,ヒトMSCでの効率的な凝固因子発現を確認した.インヒビター対策: FVIII発現iPS細胞由来胸腺上皮細胞の投与により血友病Aマウスで免疫寛容が誘導された.前向きコホート(J-HIS2)では 245例の登録を完了した.遺伝子背景からはインヒビター群においてnull変異が高率であり(77%),サイトカイン遺伝子多型TNFα -308のAアレルの存在に相関を認めた.遺伝子解析に次世代シークエンス法を導入し,F8同義的変異を同定した.新規インヒビター検査法Tokyo変法は再現性,特異性も優れていた. ITI治療の再燃時にIgG4の上昇を認めた.QOL向上のための調査研究:SF36を用いたQOL調査では,血友病患者の身体に関する下位尺度が我国の国民標準値よりも低かった.機縁法,自記式質問票を用い,保因者の新たな潜在的な支援要因として「支援準備性」が明らかとなった.「血友病女性・保因者のための情報サイト」を開設し,準備性に関する支援を行った.関節障害に対する整形外科的手術の際に,製剤によるウイルス感染,インヒビターの存在が予後と関連した.
 欧米でのヒト血友病B遺伝子治療は記憶に新しいが,血友病患者全体を見据えた遺伝子治療法の開発は開発途上である.特にAAV中和抗体陽性患者への対応,血友病A患者への応用発は特に重要な鍵となる.本年度,血友病Aに対して従来法よりも40倍高率な投与手法が得られたこと,新たなベクター精製技術を開発し得たことは大きい.インヒビター対策は,新規血友病患者データベースは多症例が集積されつつある.中間段階であるもののインヒビター発症に対する遺伝子要因との関連が見出され,今後の症例集積からも新たな知見が導き出せると期待される.新規インヒビター測定法Tokyo変法は標準化をさらに進めたい. QOL調査は800症例を超える世界でも最も大規模な調査となった.本邦の血友病患者QOLは諸外国と同様に身体的側面の低下が大きく,関節症に対する対策が重要である.また,血液製剤によるウイルス感染は,薬害被害から長期経過がたった今もQOLや術後の早期死亡にも影響を及ぼしている.具体的な支援技術の向上とともに,地域,保険,発達等の専門家の参画を検討し,支援とその内容の改善が今後の課題である.
結論
本研究班は,遺伝子治療,インヒビター対策,QOL調査というこれら3つの研究結果を有機的に統合し,日本における血友病患者・HIV薬害患者を取り巻く環境の改善に寄与している. 本研究班の取り組みは,根治的な血友病治療・包括支援に結びつき,国民への還元を考慮した政策への提言,診療ガイドライン策定や治療の標準化,効果的な医療財源の節約にも寄与すると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421004B
報告書区分
総合
研究課題名
血友病とその治療に伴う合併症の克服に関する研究
課題番号
H24-エイズ-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
坂田 洋一(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 窓岩 清治(自治医科大学 医学部 )
  • 大森 司(自治医科大学 医学部 )
  • 小澤 敬也(自治医科大学 医学部 )
  • 水上 浩明(自治医科大学 医学部 )
  • 嶋 緑倫(奈良県立医科大学 小児科)
  • 菱川 修司(自治医科大学 医学部 )
  • 井上 誠(ディナベック株式会社)
  • 瀧 正志(聖マリアンナ医科大学)
  • 稲葉 浩(東京医科大学 臨床検査医学分野)
  • 竹谷 英之(東京大学医科学研究所附属病院)
  • 柿沼 章子(社会福祉法人はばたき福祉事業団)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部 )
  • 峰野 純一(タカラバイオ株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血友病は血液凝固第VIII因子 (FVIII),または第IX因子 (FIX)異常による遺伝性出血性疾患である.本研究は血友病患者の合併症を克服することを目的に,1) 治癒を目指した遺伝子治療の開発,2)インヒビター発症要因の解明と治療法の開発,3)支援ニーズを抽出するためのQOL調査研究・聞き取り調査を行う.
研究方法
1) 遺伝子治療:血友病B治療ではAAV8をサルに経静脈的投与し,治療効果を観察した.また,本法を血友病A治療へ応用した.AAV遺伝子導入を阻害する中和抗体の保有率を血友病患者で検討した.バキュロウイルスベクターによるAAVベクター生産性向上の検討を行った.ブタを用い,中和抗体回避投与法の安全性試験を行った.凝固因子発現MSCの血友病性関節障害への治療効果を観察した.新たな動物モデルとして血友病ブタの産生を試みた.
2) インヒビター対策:マウス血友病モデルでインヒビター制御法を検討した.実臨床では前方視野的に血友病患者の新規登録を継続し,インヒビター発症要因を分析した.インヒビター測定にはNijmegen変法であるTokyo変法の再現性を検討した.患者インヒビター存在下でのバイパス製剤による凝固制御機構を解析した.
3) QOL調査研究: SF-36のQOL下位尺度と患者データの関連性を統計解析し,諸外国,他の慢性疾患と比較した.アクションリサーチでは質問紙調査を集計し,モデル化と実際の支援計画を行った.血友病整形外科手術117例に発生した合併症と患者背景を比較・解析した.
結果と考察
遺伝子治療:血友病B治療では 1回のAAV8静脈投与でサルに7年以上の治療効果を認めたが,同手法のヒト血友病患者での適応は全体の10-15%にすぎない.血友病Aの治療開発,AAV中和抗体陽性患者への対応,安定したベクター供給,は重要な鍵となる.血友病A前臨床試験のために,サル体内でヒトFVIIIを検出するELISA法を確立した.FVIIIコドン最適化によって治療効果は40倍改善し,血友病A遺伝子治療への応用が期待された.ヒト血友病者では抗AAV中和抗体が約30%に陽性だが,中和抗体陽性サルでも門脈内カテーテル投与法により5年以上治療効果を認め,ミニブタを用いた安全性試験では循環動態の変動は認めなかった.バキュロウイルスによるAAV大量製造は臨床試験に必要な産生条件が設定出来た.FVIII発現MSCの膝関節腔内投与による新規関節症治療をマウスモデルで開発し,サル,ヒトMSCによる凝固因子発現を確認した.用いるGMPグレードSIVベクター作製の条件検討も終えた.血友病ブタはイヌ血友病と異なり関節出血を呈した.本動物モデルは遺伝子治療の効果確認だけでなく,製剤の効果確認にも使用可能である.
 インヒビター対策:マウスモデルでPAI-1阻害,FVIII遺伝子導入iPS細胞の胸腺移植によりインヒビター発症が抑制された.実臨床では,コホート研究に新規245名が登録された.定期補充療法群でインヒビター発症が少なく,インヒビター発症に特定の遺伝子背景の関与が推測された.今後の解析により新たな知見が集積されると期待される.遺伝子解析に次世代シークエンス法を導入し新規遺伝子変異を同定した.本邦の1/20にあたる血友病患者の遺伝子異常が本研究班にて同定されている.インヒビター測定法であるTokyo変法は再現性に優れ,今後標準化を進めたい.インヒビター患者の止血モニタリングとして,Elg/TF法による凝固波形解析の有効性,インヒビター存在下でのバイパス製剤MC710(FVIIa/FX)とFVIIIの相加治療効果を確認した.ITI治療中にはIgGサブクラスの変動が認められ,これがITIの効果判定,治療継続の判断になる可能性があるため,予測因子として興味深い.
 QOL調査研究:QOL調査は800症例を超える世界でも最も大規模なQOL調査となった.諸外国と同様に身体的側面の低下が大きく,関節症に対する予防・治療が重要である.参加型研究では,支援ニーズとして準備性支援が抽出され,血友病家系・保因者のための情報サイトの開設を行い,準備性に関する支援を開始した.整形外科手術に伴う解析から,術後死亡にはウイルス感染に起因する肝機能不全が関連した.血液製剤によるウイルス感染は,薬害被害から長期経過がたった今もQOLや術後の早期死亡にも影響を及ぼしている.
結論
本研究班は,3つの研究成果を有機的に統合し,日本における血友病患者・HIV薬害患者の環境の改善に寄与している.以上の本研究班の取り組みは,根治的な血友病治療・包括的支援に結びつき,国民への還元を考慮した政策への提言,診療ガイドライン策定や治療の標準化,効果的な医療財源の節約にも寄与すると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201421004C

収支報告書

文献番号
201421004Z