水疱性口内炎ウイルスを用いたアレナウイルス感染中和抗体開発に関する基盤研究

文献情報

文献番号
201420054A
報告書区分
総括
研究課題名
水疱性口内炎ウイルスを用いたアレナウイルス感染中和抗体開発に関する基盤研究
課題番号
H24-新興-若手-016
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
谷 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,275,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 ウイルスのエンベロープ蛋白質に対する中和抗体薬は、特に出血熱ウイルス感染症のような急性期に劇症化する疾患の場合、ウイルスの生体内への感染そのものを阻止することができ、非常に効果的である。ラッサウイルスをはじめ各種南米アレナウイルス、近年新たに同定された重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) ウイルス (SFTSV) においては、未だ効率良くウイルスの感染を中和できるような抗体は得られておらず、治療薬としての開発が必要とされている。
 昨年度までに、SFTSVの感染を中和できるモノクローナル抗体が複数得られたので、本年度はこのモノクローナル抗体を精製し、さらなる性状解析を行う。またアレナウイルス種のほうは未だに感染を中和できるモノクローナル抗体は得られておらず、引き続き抗体作製を行いつつ、実際の感染患者においての中和活性価の程度を評価する。感染を中和出来ずとも、エンベロープ蛋白質(GP)を検出できる抗体が作製できれば、こうしたウイルス感染症対策に関する基礎研究の有用なツールとして活用できるだけでなく、抗原検出のための迅速診断法への開発にも応用することが期待できる。
研究方法
 SFTSV感染中和試験は、Huh7細胞を96wellプレートに播種し、24時間前培養する。SFTSV各株と精製した抗体を1時間室温にて混合後、細胞に接種する。2時間吸着後、反応液を捨て1%メチルセルロース添加培地にて3日間培養後、細胞をホルマリンで固定し、NPに対するポリクローナル抗体にて免疫染色し、ウイルスの感染中和活性を評価した。
 感染症疑い患者血清を用いた感染中和試験は、ラッサウイルス流行地の一つであるナイジェリア北東部、ボルノ州の感染症疑い患者297名から採取された血清を用いて、ラッサウイルスGPおよびコントロールとしてリフトバレー熱ウイルスGPを外套したシュードタイプウイルス(それぞれLASVpv、RVFVpv)による感染中和を、ルシフェラーゼ活性を指標に評価した。なお、患者血清サンプルは、ナイジェリア、マイドゥグリ大学のDavid Bukbuk博士から提供されたものである。
結果と考察
SFTSVのGPに対するモノクローナル抗体は、間接蛍光抗体法やELISA法で用いることができるだけでなく、生のウイルスの感染を中和することも可能であった。またアイソタイプの決定も行った。本研究により、シュードタイプウイルスの感染中和を指標としたスクリーニング方法を用いて、目的とするウイルスの感染を中和できるモノクローナル抗体を簡便に選別する手法を確立できた。アレナウイルス種に関しては、研究期間中何度もラッサウイルスをはじめ、フニンウイルス、ルジョウイルスのGPを免疫して、SFTSVのGPと同様に感染を中和できるモノクローナル抗体の選別を試みるも、感染を中和できる抗体は一向に得られなかった。また、蛍光抗体法でのスクリーニングにおいてもGPに反応できる抗体は得られなかった。これは、アレナウイルス種のGPがなんらかのメカニズムで中和抗体が出来にくい性質を持つことが考えられた。そこで、実際にアレナウイルス感染症に罹患した患者血清中のウイルスに対する中和抗体価が、一般的なウイルス感染症と比較して低いかどうかを検証してみた。ラッサウイルスの流行地の一つであるナイジェリア北東部、ボルノ州の感染症疑い患者297名から採取された血清を用いて、ラッサウイルスGPおよびコントロールとしてリフトバレー熱ウイルスGPを外套したシュードタイプウイルス(それぞれLASVpv、RVFVpv)による感染中和を、ルシフェラーゼ活性を指標に測定した結果、RVFVpvでは99%以上の強い中和活性を示すものが多く存在したものの、LASVpvでは多くが60-90%程度しか中和活性を示さなかった。このことから、患者血清においても、ラッサウイルスの感染中和抗体価は、他のウイルス感染症のものと比較して低いことが明らかとなった。
結論
本研究で、ブニヤウイルス科のSFTSVに関して、感染を中和できる抗体産生細胞の選別ができた。更に精製したこのモノクローナル抗体はウイルスの感染中和だけでなく、蛍光抗体法やELISA法にも利用できることがわかった。アレナウイルス科においては、検討したウイルス種では感染を中和できる抗体を得ることが難しく、これは感染疑い患者血清においても同様の傾向を示すことが明らかとなった。ラッサウイルスは、ウイルスの細胞侵入時に複雑なステップで結合や融合することが明らかになり、こうしたステップが抗体産生の出来にくさに影響を及ぼしていることも考えられ、今後抗原の工夫も必要になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201420054B
報告書区分
総合
研究課題名
水疱性口内炎ウイルスを用いたアレナウイルス感染中和抗体開発に関する基盤研究
課題番号
H24-新興-若手-016
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
谷 英樹(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレナウイルスやブニヤウイルスを起因とするウイルス性出血熱は、発熱、出血、多臓器不全などを誘発し、致死率の高い重篤な疾患として知られている。しかしながら現在まで、これらのウイルス感染症に対して治療薬をはじめ有効なワクチンや抗ウイルス剤の開発は進んでいない。ウイルス感染症に対する効果的な治療薬としては、複製阻害剤の他、ウイルスの細胞侵入を阻害できる侵入阻害剤がある。その中でもウイルスのエンベロープ蛋白質に対する中和抗体薬は、特に出血熱ウイルス感染症のような急性期に劇症化する疾患の場合、ウイルスの生体内への感染そのものを阻止することができ、非常に効果的である。本研究では、ラッサウイルスや各種南米アレナウイルス、近年新たに同定された重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) ウイルス (SFTSV)の感染を阻害できるような中和抗体の作製を試みる。現在、こうしたアレナウイルス種のエンベロープ蛋白質に対する抗体作製の取り組みは、世界的にもほとんど報告されておらず、感染を阻害できるような中和抗体が得られなくとも、エンベロープ蛋白質(GP)を検出できる抗体が作製できれば、アレナウイルス感染症対策に関する基礎研究の有用なツールとして活用できるだけでなく、抗原検出のための迅速診断法への開発にも応用することが期待できる。
研究方法
モノクローナル抗体の作製にあたり、本来のウイルスを抗原として用いることは本邦ではバイオセーフティー上、不可能なため、代替モデルとしてそれぞれ目的のウイルスエンベロープ蛋白質を外套したシュードタイプVSVもしくは、GP発現細胞を用いる。免疫抗原をBALB/cマウスに免疫し、ハイブリドーマの作製を試みる。得られたハイブリドーマ上清から、それぞれの抗原に対するGP発現細胞を用いた蛍光抗体法および、それぞれのGPを外套するシュードタイプVSVを用いた感染中和活性によるスクリーニングを行う。
中和活性が得られたクローンにおいて、SFTSVは生ウイルスによる感染中和実験を行い、本来のウイルスでも感染を中和するか調べる。また、蛍光抗体法以外にもELISA法やウェスタンブロット法でも検出することができるか検証する。
 ラッサウイルスの感染中和活性を検証するための、感染症疑い患者血清を用いた感染中和試験は、ラッサウイルス流行地の一つであるナイジェリア北東部、ボルノ州の感染症疑い患者297名から採取された血清を用いて、ラッサウイルスGPおよびコントロールとしてリフトバレー熱ウイルスGPを外套したシュードタイプウイルス(それぞれLASVpv、RVFVpv)による感染中和を、ルシフェラーゼ活性を指標に評価する。なお、患者血清サンプルは、ナイジェリア、マイドゥグリ大学のDavid Bukbuk博士から提供された。
結果と考察
シュードタイプVSVを免疫したものでは、VSVGを外套したウイルスでは十分な中和活性を示す抗血清が得られるものの、他のウイルスGPを外套したウイルスではGP蛋白質の絶対量が少ないためか、十分な中和活性を示すものが得られなかった。そのため、GP発現細胞を用いて、再度免疫し、スクリーニングを行った結果、アレナウイルス種GPを外套したシュードタイプウイルスの感染を中和できる抗体産生細胞は得られなかったものの、SFTSVのGPを外套したシュードタイプウイルスの感染を中和できる抗体産生細胞は複数クローン得られた。
ラッサウイルスをはじめアレナウイルス感染症に罹患した患者血清中のウイルスに対する中和抗体価は、一般的なウイルス感染症と比較して低いかどうかを調べると、やはりRVFVpvに比べ、LASpvでは中和活性価が低いことがわかった。アレナウイルスGPがなんらかのメカニズムで中和抗体が出来にくい性質を持つことが考えられた。
結論
本研究で、ブニヤウイルス科のSFTSVに関して、感染を中和できる抗体産生細胞の選別ができた。更に精製したこのモノクローナル抗体はウイルスの感染中和だけでなく、蛍光抗体法やELISA法にも利用できることがわかった。アレナウイルス科においては、検討したウイルス種では感染を中和できる抗体を得ることが難しく、これは感染疑い患者血清においても同様の傾向を示すことが明らかとなった。ラッサウイルスは、ウイルスの細胞侵入時に複雑なステップで結合や融合することが明らかになり、こうしたステップが抗体産生の出来にくさに影響を及ぼしていることも考えられ、今後抗原の工夫も必要になると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201420054C

収支報告書

文献番号
201420054Z