集団予防接種等によるHBV感染拡大の真相究明と被害救済に関する調査研究

文献情報

文献番号
201420052A
報告書区分
総括
研究課題名
集団予防接種等によるHBV感染拡大の真相究明と被害救済に関する調査研究
課題番号
H25-新興-指定-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
岡 多枝子(日本福祉大学 社会福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 片山善博(日本福祉大学 社会福祉学部)
  • 荻野剛史(東洋大学 社会学部  )
  • 越田明子(長野大学 社会福祉学部)
  • 田中泰惠(青森明の星短期大学)
  • 三並めぐる(広島国際大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は,集団予防接種等に起因するHBV感染被害拡大の真相究明と、被害者及び遺族の生活困難の実態を明らかにし,支援ニーズを検討して被害者救済と再発防止,恒久対策等,厚生労働行政の課題に貢献することである.
研究方法
平成26年度は,①保健医療,地域福祉,母子保健,教育啓発,社会的不利,遺族ケアの分担研究に分かれて,前年度の質的研究(KJ法)を深めて論文及び学会発表を行った.②被害者及び遺族を対象とした郵送法による無記名自記式質問紙調査(主な項目:感染判明時期,病状と治療,QOL,生活上の困難,人間関係,母子感染,国や社会への要望等)を行い,③本人6,640(回収率60.1%),遺族565(60.8%),計7,205通の回答を得て,生活上の困難などの解明と支援ニーズの検討に着手している.また,教育啓発に関する実証的研究として,当事者等による大学生に対する講義(計16回,受講者延べ1,110名)を行い,その教育効果を検証している.
結果と考察
第1に,「肝がん患者」は,感染判明時の【不十分な告知】による治療開始遅れの中で,【重篤な病苦】と生命の危機に瀕していた.また,病状悪化による【就労困難】や,長期の治療に要する医療費を【賄えない】状況,経済基盤を失うことによる親密な【絆の喪失】,摩擦を避けて自主規制する【差別不安】などを余儀なくされていた.一方,当事者による交流で【支え合う】姿や,病に【向き合う】姿,感染理解に関する【意識改革を】望む声や,恒久的な肝がん【対策の希求】も示された.以上のことから,肝がん患者の重層的な生活困難が明らかになり,保健医療や福祉制度を拡充する必要性が示唆された.
第2に,「偏見・差別」が生まれる構造として,肝炎に関する知識不足と,偏見・差別による【理不尽な仕打ち】の体験が複雑に折り重なって【おびえ】を生み出し,他者と安心して【関係を築けない】状況に追い込まれていた.人間関係の再構築には,社会のあり方と被害者への支援が求められ,【つながる】ことを支える医療従事者や一般生活者の理解と、メデイアを含む情報リテラシーのあり方が問われている.
第3に,【働く意思】があるにもかかわらず【職場の無理解】によって就労が困難となる人や,病を理由に民間【保険が組めない】中で,多額の【医療費に軋む暮らし】を余儀なくされる人がいた.また,収入の減少や途絶で家計が【逼迫】し,親密な家族とやむなく【生き別れた】人や,極限状態の中で【死がよぎる】人など,病態悪化に伴う就労困難と生活の困窮によって、「生存の剥奪」という苛烈な被害に至る状況が浮上した.一方,闘病と就労の【両立の願い】を叶えて生きる為に,現行の支援【制度への不満】と,【生きる保障を】希求する声も聞かれた.以上のことから,「病態悪化が就労困難と困窮を引き起こす」被害構造が明らかになり,保健・医療・福祉に関する支援体制の重要性が示唆された.
第4に,「母子感染」の被害として,【わが身か子どもか】という健康状態に【医療現場での屈辱】や,子に感染させた【はね返る苦しみ】を負い,子どもに【先立たれる苦しみ】や【苦悩が終わらない】など,被害の連鎖が浮上した.しかし,【子の人生こそ】大切にしたいと願い、【連鎖を断ち切りたい】,【再発防止を】と願う中で、【絶望からの一歩】を踏み出す姿もみられた.
第5に,差別を受けた「遺族」も【悩みやストレス】を感じており,【暮らし向きの悪い】世帯が約4割,【差別を受けた】遺族が約1割存在し,【心の健康】にも悪影響が及ぶ可能性が示唆された.
第6に,「教育啓発」に関する実証的研究として,当事者等による講義には、被害者への理解や共感性が明確になるなどの教育効果が示された.
結論
属性による病態や生活上の困難の解明と、支援ニーズの検討に着手している.現時点で,病態や生活困難における性差,医療機関に関する地域格差などの関係に有意差がみられる.平成26年度は,質的研究と量的研究の研究的複眼によって,被害者の深刻な生活困難と被害構造が解明されつつある.中でも, 「HBV感染被害者に固有の貧困問題」と「生存の剥奪」という深刻な被害の特徴が明らかになった.また,肝がんなど重篤な患者に対する医療費助成や生活保障,障害認定基準の緩和や希望者への就労支援等の多様なニーズが浮上した.さらに,母子感染による2次被害や、遺族を含む当事者活動(教育啓発・サロン活動等)への支援を,保健・医療・福祉の連携によって推進する重要性も示唆された.
平成27年度は,感染拡大の真相究明と被害実態の解明,効果的な支援策の検討等、研究の総括を行うとともに,厚生労働行政に対して被害者救済と再発防止,恒久対策等に関する政策提言を行う.

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201420052Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,100,580円
人件費・謝金 214,800円
旅費 4,473,169円
その他 4,211,451円
間接経費 3,000,000円
合計 13,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-