沈降インフルエンザワクチン(H5N1株)の新規株の有効性、安全性ならびに至適接種間隔ならびに異種株に対する交叉免疫性の検討

文献情報

文献番号
201420048A
報告書区分
総括
研究課題名
沈降インフルエンザワクチン(H5N1株)の新規株の有効性、安全性ならびに至適接種間隔ならびに異種株に対する交叉免疫性の検討
課題番号
H25-新興-指定-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(独立行政法人国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 沈降インフルエンザワクチンH5N1(H5N1ワクチン)は、ベトナム株(クレード1)を用いて2007年に開発された。その後世界各地の流行状況から、ベトナム株、インドネシア株(クレード2.1)、アンフィ株(クレード2.3)、チンハイ株(クレード2.2)を用いて国家備蓄ワクチンが製造された。2012年度に製造されたエジプト株は、チンハイ株と同じクレードであるが免疫原性が異なっている。本研究では、1)新たに製造されたエジプト株の免疫原性を確認すること、2)初期2回接種間隔を60日、90日、180日としたときの免疫原性と交叉免疫性を検討し、至適接種間隔を検討すること、3)エジプト株の安全性を確認すること、を目的とした。
研究方法
(1)エジプト株免疫原性確認試験
 H5N1ワクチンの接種歴がない健常成人50名を対象に3週間隔で2回接種した。初回接種前と2回目接種3週後に採血し、エジプト株、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株に対する中和抗体価を測定した。また、将来のH5N1由来株のパンデミックに備え、採取した血清を保存した。
(2)初期2回至適接種間隔検討試験
 90名の健常者を対象に、60日、90日、180日の接種間隔でエジプト株ワクチンを2回接種した。初回接種前、2回目接種3週後に採血し、エジプト株、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株の中和抗体価を測定した。本研究でも、将来のパンデミック等に備え、採取した血清を保存した。
(3)安全性確認試験
「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」の「予防接種に関するガイドライン」に基づき、A(H5N1)ウイルスを扱う研究者、トリインフルエンザ発生時に防疫業務等に従事する者、医療従事者、積極的疫学調査に従事する者、指定公共機関等で国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務に従事する者436名を対象に、3週間隔で2回接種し、各回接種後の発赤、腫脹、疼痛などの局所反応(観察期間1週間)、発熱、全身倦怠感などの全身反応(観察期間1週間)、脳炎、ギランバレー症候群などの重大な副反応(観察期間4週間)の出現率を調査した。
結果と考察
(1)エジプト株免疫原性確認試験
 接種前に対する2回目接種後の中和抗体の幾何平均抗体価(GMT)増加倍率は、ホモのエジプト株に対しては16.7倍であったが、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株に対しては、それぞれ2.5倍、1.5倍、1.6倍と低率であった。この結果は、今まで他の株でみられた結果、即ち接種した株に対する抗体価は高く上昇するが、他のクレードの株に対する抗体価の上昇が低いと、同様であった。
(2)初期2回至適接種間隔検討試験
 初期2回接種間隔を60日、90日、180日とした場合、すべての被験者にエジプト株に対する抗体価の上昇を認めた(GMT上昇率;60日:23.2倍、90日:34.3倍、180日:52.9倍)。その他の株に対する2回目接種後の抗体価は、接種間隔が長くなるほど上昇し、90日、180日間隔接種では、幅広い交叉免疫性が認められた(ベトナム株、インドネシア株、エジプト株、アンフィ株におけるGMT増加率は、それぞれ90日間隔では4.0倍、2.8倍、34.3倍、3.2倍、180日間隔では5.2倍、3.4倍、52.9倍、5.2倍)。
今回の検討結果から、90日以上接種間隔をあけて2回目を接種すれば交叉免疫が誘導されることが明らかになった。この結果は、A(H5N1)のパンデミック時には、素早くプレパンデミックを1回接種し、パンデミックワクチンが製造された段階で1回追加接種すれば、発症リスクが軽減されることを示唆している。
(3)安全性確認試験
発熱率、全身反応、局所反応の出現率は、1回目接種ではそれぞれ1%、9%、43%であり、2回目接種では1%、5%、34%であった。2回目の接種間隔が60日、90日、180日に拡大しても、2回目接種後の全身反応はそれぞれ7%、3%、7%(3週間隔5%)、局所反応はそれぞれ50%、30%、40%(3週間隔34%)と、接種間隔による副反応出現率は同等であった。
今回の結果は、今までからの結果と同様に、株が替わっても製造方法が同じならば副反応が増加しないことを示しており、パンデミック時にはプレパンデミックワクチンの製造方法でパンデミックワクチンを製造しても、副反応が増加することはないと推察された。また、2回の接種間隔が空いても安全性の面では問題がないと推察された。
結論
 エジプト株は他の株と同等の免疫原性と安全性が認められた。初回2回至適接種間隔検討試験結果から、2回の接種間隔は90日以上あけた方が効果的な交叉免疫が誘導されることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201420048B
報告書区分
総合
研究課題名
沈降インフルエンザワクチン(H5N1株)の新規株の有効性、安全性ならびに至適接種間隔ならびに異種株に対する交叉免疫性の検討
課題番号
H25-新興-指定-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
庵原 俊昭(独立行政法人国立病院機構三重病院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 澄信(国立病院機構本部総合研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
沈降インフルエンザワクチンH5N1(H5N1ワクチン)は、ベトナム株(クレード1)を用いて2007年に開発された。その後世界各地のH5N1亜型の流行状況から、国家備蓄ワクチンとしてベトナム株に加えて、インドネシア株(クレード2.1)、アンフィ株(クレード2.3)、チンハイ株(クレード2.2)を用いて製造された。2012年度に国家備蓄ワクチンとして製造されたエジプト株は、チンハイ株と同じクレードであるが、免疫原性が異なっている。本研究では、1)新たに製造されたエジプト株の免疫原性を確認すること、2)初期2回接種間隔を60日、90日、180日としたときの免疫原性と交叉免疫性を検討し、至適接種間隔を検討すること、3)エジプト株の安全性を確認すること、を目的とした。
研究方法
(1)エジプト株免疫原性確認試験
 H5N1ワクチンの接種歴がない健常成人50名を対象に、3週間隔で2回接種した。初回接種前と2回目接種3週後に採血し、エジプト株、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株に対する中和抗体価を測定した。また、将来のH5N1ウイルスの変異およびH5N1由来株のパンデミックに備え、採取した血清を保存した。
(2)初期2回至適接種間隔検討試験
 接種間隔を60日、90日、180日とし、各グループ30名の計90名の健常者を対象に、エジプト株ワクチンを2回接種した。初回接種前、2回目接種3週後に採血し、エジプト株に加えて、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株の中和抗体価を測定した。本研究でも、将来のパンデミック等に備え、採取した血清を保存した。
(3)安全性確認試験
「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」の「予防接種に関するガイドライン」に基づき、トリインフルエンザA(H5N1)ウイルスを扱う研究者、トリインフルエンザ発生時に防疫業務等に従事する者、医療従事者、積極的疫学調査に従事する者、指定公共機関等で国民生活及び国民経済の安定に寄与する業務に従事する者436名を対象に、1期1回目と2回目接種後の発赤、腫脹、疼痛などの局所反応(観察期間1週間)、発熱、全身倦怠感などの全身反応(観察期間1週間)、脳炎、ギランバレー症候群などの重大な副反応(観察期間4週間)の出現率を調査した。エジプト株免疫原性試験、初期2回至適接種間隔検討試験に参加した人も、安全性確認試験と同様の方法で安全性を確認した。
結果と考察
(1)エジプト株免疫原性確認試験
 接種前に対する2回目接種後の中和抗体の幾何平均抗体価(GMT)増加倍率は、ホモのエジプト株に対しては16.7倍であったが、ベトナム株、インドネシア株、アンフィ株に対しては、それぞれ2.5倍、1.5倍、1.6倍と低値であった。この結果は、今まで他の株でみられた結果、即ち接種した株に対する抗体価は高く上昇するが、他のクレードの株に対する抗体価の上昇が低いと、同様であった。
(2)初期2回至適接種間隔検討試験
 初期2回接種間隔を60日、90日、180日とした場合、すべての被験者にエジプト株に対する抗体価の上昇を認めたが、接種間隔が長いほど高い抗体価が誘導された(エジプト株に対するGMT上昇率;60日:23.2倍、90日:34.3倍、180日:52.9倍)。また、90日、180日間隔接種では、幅広い交叉免疫性が認められた。
今回の検討結果から、90日以上接種間隔をあけて2回目を接種すれば交叉免疫が誘導されることが明らかになった。この結果は、A(H5N1)のパンデミック時には、素早くプレパンデミックを1回接種し、パンデミックワクチンが製造された段階で1回追加接種すれば、発症リスクが軽減されることを示唆している。
(3)安全性確認試験
発熱率、全身反応、局所反応の出現率は、1回目接種ではそれぞれ1%、9%、43%であり、2回目接種では1%、5%、34%であった。2回目の接種間隔が60日、90日、180日に拡大しても、全身反応はそれぞれ7%、3%、7%、局所反応はそれぞれ50%、30%、40%と、有意な差を認めなかった。
今回の結果は、株が替わっても製造方法が同じならば副反応が増加しないことを示しており、パンデミック時にはプレパンデミックワクチンの製造方法でパンデミックワクチンを製造しても、副反応が増加することはないと推察された。また、今回の研究結果から、2回の接種間隔が空いても安全性の面では問題がないと推察された。
結論
エジプト株は他の株と同等の免疫原性と安全性が認められた。初回2回至適接種間隔検討試験では、90日以上の間隔で2回接種すれば効果的な交叉免疫が認められ、更に、2回の接種間隔をあけた方が効果的な交叉免疫が誘導されることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201420048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エジプト株を用いた結果から、本邦が開発した沈降インフルエンザワクチンH5N1は、株がかわっても優れた免疫原性と安全性が示された。また、初期2回至適接種間隔検討試験の結果から、同じ株を90日以上の間隔をあけて2回接種すると幅広い交叉免疫が誘導された。この結果はH5N1パンデミック時に、先ずプレパンデミックワクチンを1回接種し、90日以降にパンデミックワクチンを1回接種すれば、効果的な発症予防効果が期待されることを示唆していた。
臨床的観点からの成果
1期初回を3週間隔で2回接種しても幅広い交叉免疫は誘導できないが、同じ株を90日以上の間隔で接種すれば幅広い交叉免疫が誘導され、しかも接種間隔を空けるほど2回目接種後の種々のクレードの株に対する抗体価が高いことが認められた。この結果は、沈降インフルエンザワクチンH5N1は1回の接種で免疫記憶細胞を誘導していることを示唆している。
ガイドライン等の開発
ガイドラインは作成していないが、本研究班の成果は、厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会および厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会ワクチン作業班、および内閣府の新型インフルエンザ等対策有識者会議に報告され、新型インフルエンザ対策に反映される予定である。
その他行政的観点からの成果
本研究班の成果は、厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会および厚生科学審議会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する小委員会ワクチン作業班、および内閣府の新型インフルエンザ等対策有識者会議に報告され、新型インフルエンザ対策に反映される予定である。
その他のインパクト
公開シンポジウムは開催していないが、H5N1プレパンデミックワクチンの臨床試験成績に関しては、雑誌投稿している。

発表件数

原著論文(和文)
14件
インフルエンザ等感染症に関する論文
原著論文(英文等)
7件
インフルエンザ等感染症に関する論文
その他論文(和文)
67件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する論文
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
133件
ワクチン、インフルエンザ、麻疹、ムンプス等に関する学会発表
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2016-06-08

収支報告書

文献番号
201420048Z