文献情報
文献番号
201420021A
報告書区分
総括
研究課題名
重症の腸管出血性大腸菌感染症の病原性因子及び診療の標準化に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-新興-一般-012
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大西 真(国立感染症研究所 細菌第一部)
研究分担者(所属機関)
- 井口 純(宮崎大学 農学部)
- 八尋 錦之助(千葉大学 医学部)
- 伊豫田 淳(国立感染症研究所 細菌第一部)
- 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
- 林 哲也(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター)
- 桑原 知己(香川大学 医学部)
- 綿引 正則(富山県衛生研究所)
- 勢戸 和子(大阪府公衆衛生研究所)
- 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター 微生物部)
- 五十嵐 隆(国立成育医療研究センター)
- 齋藤 昭彦(新潟大学大学院 )
- 伊藤 秀一(国立成育医療研究センター)
- 幡谷 浩史(東京都立小児総合医療センター 腎臓内科)
- 水口 雅(東京大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
107,914,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では非典型的なEHEC感染症が発生した際に遅滞無く対応できる検査体制の整備ならびに重傷例における診療の標準化を行なうことを目的とした。国内分離株の情報整理、分離株の血清群の分布、病原因子プロファイル解析、非典型病原因子, subABの機能解析、非典型的な血清群の迅速な決定/推定法の検証、血清診断の検証、ゲノム情報の蓄積、動物モデルの構築、EHEC感染症における死亡例の臨床的解析を実施した。
研究方法
昨年度に引き続き、細菌学研究グループと臨床グループを組織し、各グループにおいて研究目的に沿って研究が実施された。腸管出血性大腸菌分離株に関して、血清群別、stx遺伝子型別、eae, saa, subA, aggR 遺伝子の有無を既存の方法で検討した。O抗原合成遺伝子群特異的PCR法の開発、ゲノム解析、患者血清中の抗大腸菌抗体価の測定、動物モデルの検討、SubAB毒素の機能解析について研究を実施した。加えて本研究におけるEHECゲノム情報の蓄積と併せて、感染症研究国際ネットワーク推進プログラムとの連携でコレラ菌のゲノム解析を実施した。コレラ菌O型別参照株210株のゲノム解析と併せて、岡山大学インド拠点、大阪大学タイ拠点、長崎大学ベトナム拠点、神戸大学インドネシア拠点と連携を深めるため、感染研よりゲノムDNA調整のプロトコールを提示し、各拠点による調整し感染研に送付したゲノムDNAをIllumina MiSeqあるいはHiSeqを用いてドラフトゲノム配列を取得した。感染研保存株EHEC O111においても同様にドラフトゲノム配列を取得した。
結果と考察
国内で分離される重症者由来の非典型的な腸管出血性大腸菌について、血清型別、毒素型別、病原因子の保有状況を明らかにした。その中で、国内で分離されるEHEC O26:H11/H-の多くはstx1のみを保有するが、近年stx2のみを保有する株が重症者からいくつか分離されていることが明らかとなった。ウシ糞便50検体の精査の結果、EHECが分離された検体は、合計41検体(82%)であった。少なくとも18検体で毒素型や性状の異なる複数のEHECが分離された。食品および環境材料から分離株の調査では、血清群はO74(豚ハツ由来),O119(牛ツラミ刺し由来),O142(豚タン由来),OUT(牛小腸由来)などの報告があった。腸管出血性大腸菌(EHEC)の感染が疑われる溶血性尿毒症症候群(HUS)患者などの血清について、重症患者からの分離が多いとされている7タイプのO抗原(O157、O26、O111、O103、O121、O145およびO165)に対する抗体価を測定され情報の蓄積が進んだ。Non-O157型の腸管出血性大腸菌が産生するSubAB の機能解析が進められた。大腸菌O血清群-PCR検査系(E. coli O-genotyping PCR法)を、野生株690株(O血清群が判定できた579株に加え、判定できなかった111株を含む)を用いて本法の妥当性および有効性を評価した。
ゲノム解析においては、EHEC O111 集団事例株の配列およびnon-O157 EHEC(O121:H19, O145:HUT, O165:H-, O115:H10/H-)などの配列情報を収集した。富山県や福井県で集団食中毒を起こした菌株(Ty-1)を含むO111血清型を中心に、Stxの産生を誘導する生体内因子を検索した。感染部位に集積した好中球などの炎症細胞が産生する過酸化水素などの活性酸素種が、EHEC感染による大腸粘膜での炎症を誘導しStx2産生を促すことで組織傷害を増強する可能性が示唆するデータが得られた。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いたEHEC感染モデルから、大腸局所の炎症反応の強弱がStx2産生量に影響し、重症化への移行に重要な因子となると考えられた。
Evidence Based Medicineに基づく溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療ガイドラインを2013年度に作成し、書籍として公表すると共に、英語版を作成し日本腎臓学会英文誌Clinical Experimental Nephrology誌に公表した。本ガイドラインはMindsのガイドライン作成基準に則った溶血性尿毒症症候群の診断・治療に関するわが国発のガイドラインで、Mindsのホームページにも公表された。
ゲノム解析においては、EHEC O111 集団事例株の配列およびnon-O157 EHEC(O121:H19, O145:HUT, O165:H-, O115:H10/H-)などの配列情報を収集した。富山県や福井県で集団食中毒を起こした菌株(Ty-1)を含むO111血清型を中心に、Stxの産生を誘導する生体内因子を検索した。感染部位に集積した好中球などの炎症細胞が産生する過酸化水素などの活性酸素種が、EHEC感染による大腸粘膜での炎症を誘導しStx2産生を促すことで組織傷害を増強する可能性が示唆するデータが得られた。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を用いたEHEC感染モデルから、大腸局所の炎症反応の強弱がStx2産生量に影響し、重症化への移行に重要な因子となると考えられた。
Evidence Based Medicineに基づく溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療ガイドラインを2013年度に作成し、書籍として公表すると共に、英語版を作成し日本腎臓学会英文誌Clinical Experimental Nephrology誌に公表した。本ガイドラインはMindsのガイドライン作成基準に則った溶血性尿毒症症候群の診断・治療に関するわが国発のガイドラインで、Mindsのホームページにも公表された。
結論
国内におけるEHEC感染症の情報が整理され、非典型的なEHEC感染症発生の際に如何に対応すべきか、その細菌学的知見を蓄積した。また、Mindsのガイドライン作成基準に則った溶血性尿毒症症候群(HUS)の診断・治療ガイドラインが完成した。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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