PTSD及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究

文献情報

文献番号
201419097A
報告書区分
総括
研究課題名
PTSD及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究
課題番号
H24-精神-指定(復興)-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
70,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災に由来する問題として以下を研究する。
1)地域住民において生じるメンタルヘルス上の問題を発災後の時系列に沿って明らかにし、具体的な対応法を示す。
2)被災地の住民において、経過の中でのうつ、PTSDの発生率、それらの関連因子を明らかにする。
3)東日本大震災によるストレスという同一要因を負う被災地域の住民のうつに生物学的観点から注目する。コホート研究参加者の臨床データ・血液サンプルを分析し、うつの人と健常者を識別する血中バイオマーカーを明らかにする。またストレス障害発症と脂肪酸摂取との関連性に着目し、うつ病やPTSD発症予防に資する栄養学的知見を検証する。
研究方法
1)時間軸上のメンタルヘルス
実際にどう対応したかの情報収集が基本作業になる。収集方法として、まず中央省庁、全国の自治体、等から発行されている自然災害後の精神医療サービスに関わる資料はインターネット等で検索し入手した。また被災地においてワークショップを開催し、演者から情報を得た。演者は、被災地で活動した保健師を含む自治体職員、ソーシャルワーカー、被災地の医療関係者などである。基本的に1回当たり5名前後の演者に依頼して、各1時間程度で講演していただき、質疑応答する形式をとる。このような演者は、本テーマの完成に貢献しうると思料された人物である。こうした得られた情報の中から注目すべきポイントを抽出し、これらは予備的なロードマップ上に配置した。
2)震災関連うつ・PTSDの疫学と介入効果
行政、市立病院と協力して、「市民健診」という形をとり、一般的な健康診断に加えメンタル検診と頭部MRI撮影を行った。さらに栄養健診として、日常生活における食生活や運動の程度などを栄養健診票に記入してもらう。いずれも震災3年後の時点として評価した。
3)震災関連うつのバイオマーカー
2014年は第3回としての過去2回の調査でデータを得た参加者で予め候補としたうつ病診断バイオマーカーを解析する。次に同一対象の血液サンプルを用いて、ストレス障害発症と脂肪酸摂取との関連性について分析する。うつ症状の評価は疫学研究用うつ病尺度(CES-D)を、心的外傷後ストレス障害診断(PTSD)にはIES-Rを用いた。
結果と考察
1)時間軸上のメンタルヘルス
成果物である「災害精神医療サービス読本」は手順書と詳細文書の2部から構成される。手順書は、時間経過に沿って継起する事象と対応の骨格を示したものである。ここには各時期において、どのような事象が発生し、どんな対応が求められるか、そして実際の対応はどうするかの概要を記述した基本テキストである。マニュアルは手順書のもとで取るべき行動の具体的指針である。
2)震災関連うつ・PTSDの疫学と介入効果
3回健診には657名が参加した。3回全てに参加したものは582名だった。CES-Dでうつと判断されたのは第1回健診で16.8%に対し、第3回(最終)健診では18.3%と微増していた。震災1年目から3年目までの結果の概要では、うつは一貫してレジリエンスや社会的サポートが関連していた。一方、3年目では主観的苦痛はうつと関連しなくなった。経過中にうつと関連する因子は直接生存にかかわるものから社会的なものに変った。一方PTSDの有病率は第1回では20.3%が、第3回では15.1%と減少した。第1回でPTSDと関連したのは様々な喪失に対する主観的辛さとレジリエンスであり、これらは第3回でも同様だった。PTSDについても同様に一貫してレジリエンスや社会的サポートが関連していた。社会的な援助のみならず個別的な心のケアがうつの場合以上に重要と考えられる。
3)震災関連うつのバイオマーカー
うつ病症状を示した者は88人(16%)であった。被害強群はうつ病発症リスクが有意に高かった。MDDおよびうつ状態患者のinterleukin-1 receptor antagonist(IL-1ra)およびinterferon(INF)-rの血中濃度は、健常者より有意に高くなっていた。
CES-D得点との関係を分析した結果、葉酸 6.3のHigh群では有意にCES-D得点が低かった。またPTSD発症者は発症しなかった者に比べ血漿中のエイコサペンタエン酸(EPA)が有意に低値であり、血漿EPAとEPA摂取状況の間に有意な相関がみられた。
結論
東日本大震災に派生して、地域住民に生じるメンタルヘルス上の問題を、時系列において明らかにして対応法をした。被災地の住民を継時的に観察し経過の中でのうつ、PTSDの発生率の変化、そしてそれに関連する因子を明らかにした。住民のうつに生物学的観点から注目して、血中バイオマーカーを明らかにし脂肪酸摂取との関連に着目してうつ病やPTSD発症予防に資する栄養学的知見を検証した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201419097B
報告書区分
総合
研究課題名
PTSD及びうつ病等の環境要因等の分析及び介入手法の開発と向上に資する研究
課題番号
H24-精神-指定(復興)-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
朝田 隆(筑波大学 医学医療系臨床医学域)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東日本大震災に由来する諸問題のうち精神科領域における次の3ポイントを研究
1)地域住民において生じるメンタルヘルス問題を発災後の時系列において明らかにし具体的な対応法を示す
2)縦断的な評価に基づいて被災地の住民におけるうつ・PTSDの発生率とそれらに関連する因子を明らかにする。メンタルへルスの維持・雇用促進に役立つと考えられる介入の効果を検証
3)東日本大震災によるストレスという同一要因を負う被災地域の住民のうつに生物学的観点から注目する。ストレス障害発症と脂肪酸摂取との関連性に着目し自然災害時におけるうつ病やPTSD発症予防に資する栄養学的知見を検証
4)その他
研究方法
1)阪神淡路大震災以降に公刊された著書・論文、災害や精神医療に関わる学術団体、行政機関等々から発行されている自然災害後のこころのケアに関する文献を収集。並行して演者を招いて合計7回にわたって被災地でワークショップを開催し情報を得た。演者は被災地で活動した保健師を含む自治体職員、ソーシャルワーカー、被災地の医療関係者、外部からの支援者、被災者・避難者などで100名を越える。基本的に講演してもらった上で質疑応答した。注目すべきポイントを抽出して個々に検討を加えて予備的なロードマップを作成。文献検索や演者等に再質問等を行い補い手順書とし、その中のノウハウに相当する部分を詳細文書とした。
2)原則として毎年、現地の行政・市立病院の協力を得て「市民健診」として一般的な健康診断に加えメンタル健診と頭部MRI撮影を行ったうつ状態の評価、PTSDの程度の評価、精神的な回復力の評価、また地震の恐怖や人的、家屋の損害などの主観的辛さを評価。さらに栄養健診として日常生活における食生活や運動の程度などを栄養健診票に記入してもらった。
3)2012年、2013年、2014年の合計3回の調査全てでデータを得た者で候補としたうつ病診断バイオマーカーを解析。次に同一の対象とその血液サンプルを用いてストレス障害発症と脂肪酸摂取との関連性について分析し自然災害時におけるうつ病やPTSD発症予防および治療のための栄養学的効果について明らかにする。
結果と考察
1)成果物である「災害精神医療サービス読本」は手順書(プロトコール)と詳細文書(マニュアル)の2部から構成される。手順書は時間経過に沿って継起する事象と対応の骨格を示したものである。ここには上記の4期それぞれにおいてどのような事象が発生し、どんな対応が求められるか実際の対応はどうするかの概要を記述した基本テキストである。次に詳細文書(マニュアル)は手順書のもとで取るべき行動の具体的指針である。プロトコールの本文の中にコラムを設け一言アドバイスを付した。
2) 3回(最終)健診では657名が参加。3回全てに参加したものは582名(平均年齢58歳)。CES-Dでうつと判断されたのは第1回健診で16.8%に対し第3回(最終)診では18.3%と微増していた。一方PTSDの有病率は第1回では20.3%だったが第3回では15.1%と減少した。うつと関連する因子は3年間の経過の中で直接生存にかかわるものから社会的なものに変ってきていることがわかった。
3) バイオマーカーでは、DSM-IVTRによるMDDおよびうつ状態患者においてinterleukin-1 receptor antagonist(IL-1ra)は健常者より有意に高い血中濃度を示した。また血清葉酸値をHigh 群とLow群とに分け、うつ病の指標としたCES-D得点との関係について分析した結果、葉酸 6.3のHigh群では有意にCES-D得点が低く、うつ傾向が軽度であった。PTSDに関しては被害弱群/健常群は439名、被害強群・健常群15名、被害強群・PTSD傾向群91名、被害弱群・PTSD傾向群18名であった。PTSD発症者は発症しなかった者に比較して血漿中のエイコサペンタエン酸(EPA)が有意に低値であり血漿EPAとEPA摂取状況の間に有意な相関がみられた。
4)その他では大型自然災害後の長期的な課題である災害の2次的ストレッサー、放射線汚染に由来する諸問題、アルコール依存問題についてその実態を示した。
結論
東日本大震災に関して地域住民に生じるメンタルヘルス上の問題を発災後の時系列において明らかにし具体的な対応法をした。次に被災地の住民を継時的に観察し経過の中でのうつ、PTSDの発生率の変化そしてそれに関連する因子を明らかにした。加えて被災地域の住民のうつに生物学的観点から注目して臨床データ・血液サンプルを分析することで血中バイオマーカーを明らかにした。さらに脂肪酸摂取との関連に着目し、うつ病やPTSD発症予防に資する栄養学的知見を検証した。最後に大型自然災害後の長期的な課題についてその実態を示した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419097C

収支報告書

文献番号
201419097Z