筋ジストロフィー患者のリハビリテーションに用いる尿中病態マーカー物質の測定法

文献情報

文献番号
201419082A
報告書区分
総括
研究課題名
筋ジストロフィー患者のリハビリテーションに用いる尿中病態マーカー物質の測定法
課題番号
H24-神経・筋-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
裏出 良博(国立大学法人茨城大学 WPI国際統合睡眠医科学研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 松尾 雅文(神戸学院大学 総合リハビリテーション部)
  • 竹内 敦子(神戸薬科大学)
  • 岩田 裕子(国立循環器病研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,412,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィン遺伝子異常による脆弱な筋肉が壊死と再生を繰り返すことで筋幹細胞が枯渇し、歩行困難から死に至る疾患である。その治療法は遺伝子治療、幹細胞治療などが試みられているが、現在患者に適応可能なものは筋力低下の防止を目的としたリハビリテーションのみである。リハビリテーションも運動の過負荷は逆に筋傷害を進行させる危険を伴うが、現状では運動負荷量の選定は試行錯誤で行うしかなく、病態進行指標の確立が強く求められている。
我々は、DMDモデル動物を用いて尿中プロスタグランジン(PG)D2代謝物量が筋断裂に伴う逸脱酵素としての血中CPK値とは異なる筋繊維の二次炎症傷害の指標となることを見出した。本研究では、PGD2代謝物による筋ジストロフィー病態進行予測指標の確立と簡易測定法の実用化、これを指標としたリハビリ運動メニューのマニュアル化を目指す。

研究方法
1) DMD病態と尿中PGD2代謝物の相関
神戸大学医学部附属病院小児科を受診し、同意の得られたDMD患者およびその家族から尿を収集した。尿中のPGD2代謝物 (tetranor-PGDM)を高速液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析 (LC・MS/MS) 法を用いて測定した。

2) 尿中PGD2代謝物簡易測定法の開発
酵素免疫測定(EIA法の開発を目的として、尿中のPGD2代謝物 (tetranor-PGDM)特異的モノクローナル抗体の作製を行った。

結果と考察
1) DMD病態と尿中PGD2代謝物の相関
4歳から15歳までのDMD患者の尿中PGD2代謝物は対照に比べて有意に高値を示すこと、加齢と共に高値を示すことが判明した。
2) 尿中PGD2代謝物簡易測定法の開発
PGD2合成酵素遺伝子欠損マウスを用いて5つのモノクローナル抗体を得た。
結論
尿中PGD2代謝物は、DMD病態の進行予測指標となることが判明した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
-

文献情報

文献番号
201419082B
報告書区分
総合
研究課題名
筋ジストロフィー患者のリハビリテーションに用いる尿中病態マーカー物質の測定法
課題番号
H24-神経・筋-一般-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
裏出 良博(国立大学法人茨城大学 WPI国際統合睡眠医科学研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 松尾 雅文(神戸学院大学)
  • 竹内 敦子(神戸薬科大学)
  • 岩田 裕子(国立循環器病研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
筋ジストロフィー患者にとり、リハビリテーションは有効であるが、運動の過負荷は逆に筋傷害を進行させる危険を伴う。従って、運動負荷量の選定に有効な病態マーカーが求められている。
本研究では、動物実験および臨床試験により、尿中PGD2代謝物の病態進行評価指標としての有効性を統計学的処理により検証し、モノクローナル抗体を用いた安価かつ簡便な尿中PGD2代謝物の測定技術を開発する。
研究方法
(1)H-PGDS阻害剤(TAS-205)の昆餌飼料(0.01% & 0.1% w/w)の長期投与によるmdxマウスの運動量、筋壊死体積と尿中PGD2代謝物の変動の測定
(2)心筋症モデル動物の尿中PGD2代謝物の測定
(3)DMDとBMD患者の尿中PGD2代謝物の測定
(4)抗PGDM-tモノクローナル抗体の作製と結合特異性の検証
結果と考察
(1)H-PGDS阻害剤(TAS-205)の混餌飼料(0.01% & 0.1% w/w)の長期投与によるmdxマウスの運動量、筋壊死体積と尿中PGD2代謝物の変動の測定
5週齢のmdxマウスに、普通の飼料とTAS-205を0.01%w/w(低用量群)と 0.1% w/w(高用量群)を含む混餌飼料を4週齢与えた結果、尿中PGDM-t量は、普通食を与えたmdxマウス (4.0±0.3 ng/day) から、両群とも野生型マウス (2.4±0.2 ng/day) 以下にまで低下した。一方、横隔膜の壊死筋繊維の容積は、普通試料を与えたmdxマウスに比べて有意に減少し、夜間12時間の行動量が用量依存的に増加した。一方、逸脱酵素であり、筋炎症の生化学マーカーとされた血中CPKの値は、TAS-205の投与で変化しなかった。以上の結果は、尿中PGDM- t量はDMDの病態進行の新たな指標として有効であり、H-PGDS阻害剤(TAS-205)がDMDの病態進行軽減薬として有効であることを示している。
(2)心筋症モデル動物の尿中PGD2代謝物の測定
拡張型心筋症モデルハムスターとマウス、及び、T3投与mdxマウスでは、心臓組織でのH-PGDS蛋白質の発現量が2 - 5倍程度増加していた。そして、拡張型心筋症モデルハムスターとマウスでは同週齢の野生型動物に比べ、尿中-PGDM-t量が2 - 5倍程度高値を示した。これらの心筋症モデル動物へのH-PGDS阻害薬 (TFC-007, 30 mg/kg/day) の投与により、尿中PGDM-tが減少し、心臓組織の繊維化が抑制され、小動物用超音波高解像度イメージングシステムにより評価した心機能も改善した。従って、尿中PGDM- t量は心筋変性の病態進行の指標としても有効であり、H-PGDS阻害剤が心筋症の病態進行軽減薬としても有効であると考えられる。
(3)DMD患者の尿中PGD2 代謝物の測定
DMD患者532例、BMD患者80例、健常者116例の早朝第一尿の尿中 PGDM-t 量は、DMD患者が健常者の約3倍、BMD患者が約2倍高い値を示した。そして、尿中PGEM-t 量は、いずれもPGDM-t 量の3倍程度高い値を示し、DMD患者が健常者の約3.5倍、BMD患者が約2.3倍高い値を示した。
ロボットスーツを用いたリハビリテーションを行なっているBMD患者の尿中PGDM-t 量は、リハビリテーション後に1.4倍に増加した(p<0.001)。しかし、尿中PGEM-t 量に変化は見られなかった。
結論
尿中PGDM-t量はDMDの病態進行の新たな指標として使用でき、H-PGDS阻害薬はDMDの病態進行軽減薬として有効である

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419082C

成果

専門的・学術的観点からの成果
病態との良好な相関を示す生化学マーカーとして、今回我々は尿中PGD2代謝物がDMD病態或いはBMD病態と相関することを証明した。尿中PGDMは、DMDの病態進行抑制を目的としたリハビリテーションメニュー作成の指標として有用である。PGD2代謝物特異的な抗体作製に、生体内でPGD2の合成ができない遺伝子改変マウスを用いると野生型マウスに比べて高い抗体価を示す血清を得られることが判明し、また低分子化合物に対する抗体作製に、遺伝子改変マウスが有用であることが証明された。
臨床的観点からの成果
4歳から15歳までのDMD患者の尿中PGD2代謝物の濃度は、対照に比べて有意に高値を示すこと、また加齢と共に高値を示し、特に筋委縮が急激に進行する小学校低学年から急激に上昇することが判明した。
ベッカー型筋ジストロフィーではDMDに比べて低値を示すが、多くの患者でロボットスーツによるリハビリテーションより増加した。
ガイドライン等の開発
特異的抗体を用いた尿中PGD2代謝物の簡易測定法を開発し、患者に尿中代謝物の変動をベッドサイドあるいは家庭で測定、追跡し、各患者毎にリハビリテーションメニューあるいは、薬物治療法の設定を行う予定である。
その他行政的観点からの成果
尿中PGD2代謝物測定は、非侵襲的に行うことができるので血清CPK測定に比べて、より精度の高い測定であるばかりでなく、患者に対する身体的負担が軽減できる。
DMDの根本的な治療法の確立を目的として、エクソンスキッピングを含む遺伝子治療、再生移植治療が試みられているが、病態の生化学マーカーがなかった為にその効果の検証が困難であった。尿中PG代謝物の測定は、DMDの治療法の確立に貢献することができる。或いは新たな治療薬の効果の検証に貢献する。
その他のインパクト
プロスタグランディン合成阻害薬(TAS-205)の知見が2014年9月に開始された。世界中の患者や家族にとって朗報であり、そのニュースはボーイング社のホームページに掲載されている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
3件
その他成果(施策への反映)
1件
H-PGDS阻害薬(TAS-205)を用いたDMD患者を対象とした臨床試験
その他成果(普及・啓発活動)
7件
著書1件、招待講演 4件、ホームページでの紹介(ボーイング社)

特許

特許の名称
TRPV2の部分ペプチド
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5644026号
発明者名: 岩田 裕子、若林 繁夫
出願年月日: 20141114
国内外の別: 日本
特許の名称
TRPV2阻害剤、疾患の予防又は治療剤、薬剤探索用リード化合物、及び薬剤探索方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第5667223号
発明者名: 岩田 裕子、若林 繁夫
出願年月日: 20141219
国内外の別: 日本
特許の名称
筋傷害の簡便検査方法及び筋傷害検査用キット 
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第4997441号
発明者名: 鈴木 治、岩田 裕子
出願年月日: 20120525
国内外の別: 日本

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakagawa T, Takeuchi A, Kakiuchi, et al.
A prostaglandin D2 metabolite is elevated in the urine of Duchenne muscular dystrophy patients and increases further from 8years old
Clin. Chim Acta , 423 (23) , 10-14  (2013)
原著論文2
Iwata Y, Suzuki O, Wakabayashi S
Decreased surface sialic acid content is a sensitive indicator for muscle damage
Muscle & Nerve , 47 , 372-378  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-09-16
更新日
2017-06-12

収支報告書

文献番号
201419082Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,535,000円
(2)補助金確定額
13,537,072円
差引額 [(1)-(2)]
-2,072円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,903,031円
人件費・謝金 4,822,633円
旅費 290,922円
その他 1,397,486円
間接経費 3,123,000円
合計 13,537,072円

備考

備考
自己負担額

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-