顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発

文献情報

文献番号
201419080A
報告書区分
総括
研究課題名
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発
課題番号
H24-神経・筋-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田中 裕二郎(東京医科歯科大学 難治疾患研究所遺伝生化学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 横田隆徳(東京医科歯科大学 医学部脳神経病態学分野)
  • 森岡勝樹(東京医科歯科大学 難治疾患研究所生命情報学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(Facioscapulohumeral muscular dystrophy, FSHD)は、4番染色体テロメア近傍のD4Z4反復配列にコードされるホメオボックス転写因子DUX4の異常発現が原因と考えられている。D4Z4反復配列の短縮、SMCHD1遺伝子変異、ASH1ヒストンメチル基転移酵素がD4Z4の転写活性化に関係することから、FSHDはエピジェネティックな疾患である。その複雑な病態のために、本邦ではFSHDの基礎的な分子機構の解析が遅れていた。本研究では、我々がこれまでに蓄積してきたクロマチン制御因子に関する解析手法を駆使し、FSHDの病態解明と新しい分子標的治療薬及び遺伝子診断法の開発を目指している。
研究方法
昨年度に引き続きASH1を始めとするクロマチン制御因子欠損細胞の作成、ASH1ノックアウトマウスの表現型解析、D4Z4トランスジェニックマウス(FSHD疾患モデル動物)の交配、D4Z4反復配列を含むBACクローンのシーケンシング及び解析アルゴリズムの検証(森岡との共同研究)、lncRNAを標的とするノックダウン人工核酸LNA gapmerの合成(横田との共同研究)、さらに患者ゲノムからD4Z4領域を選択的に精製するための技術開発を行った。
結果と考察
【クロマチン制御因子ノックアウト細胞の作成】マウス筋芽細胞株C2C12においてASH1、Suz12、G9a (Ehmt2)、SMCHD1をそれぞれ単独或いは複合欠損する細胞を樹立した。Ash1、Suz12、G9aについてはそれぞれ12~30クローン当たり1個のホモ欠損細胞を樹立することに成功した。さらにAsh1欠損細胞を用いてSuz12またはG9aをノックアウトし、Ash1+Suz12及びAsh1+G9aの組み合わせでホモ複合欠損する細胞株を樹立した。

【ASH1ノックアウトマウスの作成】ASH1のエクソン2の2箇所に於ける4bp欠損、13bp欠損、1bp挿入といういずれもフレームシフトを来すナンセンス変異体を樹立した。生後0日まではメンデルの法則に従ってホモ欠損マウスが誕生し、マクロ形態学的には胎生期を通じて特に異常を認めないことが分かった。生後1日を経過するとASH1ホモ欠損マウスは1匹も観察されないことから、生後致死性を示すことが明らかになった。また、新たにASH1の補酵素であるS-adenosylmethionine (SAM)結合ポケットを形成するZnフィンガードメインのシステイン残基Cys2220を欠損するノックアウトマウスを樹立した。

【D4Z4ゲノム領域の精製技術開発】FLAGタグの付いたdCas9と、4番染色体のD4Z4配列或いは10番染色体のD4Z4相同領域の配列に特異的なガイドRNAを合成し、それぞれ標的DNAと選択的に結合するかどうかを検証した。それぞれ予想された標的配列と結合することを確認した。
結論
本研究は、病態解明、新規治療法の開発、新規診断法の開発という三つの柱を掲げて進めて来たが、その中、病態機構については遺伝子ノックアウト細胞やASH1ノックアウトマウス、D4Z4トランスジェニックマウスといった研究材料の準備がほぼ完成し、これから実際の解析に移行する段階になっている。治療法についても、lncRNAに対するLNA gapmerの合成とアッセイ系(DBE-T発現ベクター、D4Z4トランスジェニックマウス)の確立まで進めることが出来た。診断法については、D4Z4領域のゲノムDNA精製からシーケンシングまたはDNA蛍光染色による長さの測定まで、基本的な条件をクリアすることが出来、三つの課題の中では最も進めることが出来た。本研究は三次公募であったため、実際の研究機関が3年に満たないことから一部予定通り完成していない課題も残されているが、今後早期の完成を目指して鋭意努力したい。

これまで、FSHDの診断には放射性同位元素を用いる方法しかなく、特に本邦では確定診断例が少なかった。海外では、これまで10万人に約5人と言われていたFSHD患者が12人という統計報告が昨年出ている。本研究を契機として日本筋ジストロフィー協会に設置されたFSHD分科会においても、臨床医からFSHDを疑われる症例は非常に多い印象があるとの発言もあり、今回作動原理を証明した新しい診断法について、保険適用を目指してさらに必要とされる検出感度と特異性の検証を進めて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201419080B
報告書区分
総合
研究課題名
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発
課題番号
H24-神経・筋-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田中 裕二郎(東京医科歯科大学 難治疾患研究所遺伝生化学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 横田隆徳(東京医科歯科大学 医学部脳神経病態学分野)
  • 森岡勝樹(東京医科歯科大学 難治疾患研究所生命情報学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
FSHDは、4番染色体テロメア近傍(4q35)にあるレトロ反復配列D4Z4領域のクロマチン構造を基盤とするエピジェネティックな疾患である。本研究では、申請者らの研究背景を活かし、FSHDに関して(1)ASH1と関連するクロマチン構造制御因子によるD4Z4転写制御機構の解明、(2)エピジェネティックな病態機構に着目した分子標的治療薬の開発、(3)放射性同位元素を用いるこれまでの煩雑な遺伝子診断法に代わる新たな診断法の開発を目指している。
研究方法
病態解明については、DUX4遺伝子のプロモーター・レポーターの構築、マウス筋芽細胞株C2C12におけるASH1及び関連クロマチン制御因子ノックアウトの作成、ASH1ノックアウトマウスの作成、D4Z4を含むBACクローンのトランスジェニックマウスの作成を行った。
治療法の開発については、D4Z4領域のnon-coding RNAに対するノックダウン人工核酸(LNA gapmer)の合成とスクリーニング系の構築を行った。
遺伝子診断法の開発については、D4Z4を含むBACクローンの直接シーケンシング法の確立と、患者ゲノムからD4Z4領域を精製するためのFLAG-dCas9を用いる方法を開発した。
結果と考察
FSHDのエピジェネティック病態解明については、NDE領域のDNA断片を用いたプロモーター・ルシフェラーゼレポーターを構築するとともに、D4Z4トランスジェニックマウスを作成した。クロマチン構造制御因子については、ASH1とヘテロクロマチン制御因子Suz12(Polycombグループ)、G9a(ユークロマチン抑制因子)をそれぞれ単独またはASH1+Suz12、ASH1+G9aの組み合わせでダブル欠損細胞株を樹立した。現在進めているSMCHD1とASH1のダブルホモ変異体を含め、今後NDEレポーターやD4Z4-BACクローンを用いたD4Z4転写制御機構解析のための重要なツールとなる。同様にD4Z4の発現制御機構をin vivoで解析するためのASH1欠損マウスについても、エクソン2の二箇所におけるナンセンス変異を3種、SETドメインのシステイン残基を1アミノ酸インフレーム欠失する変異体を1種、それぞれ確立し、C57BL/6へのバッククロスを進めている。エクソン2のASH1ノックアウトマウスは、正常に発生し、形態学的異常もホメオティック変異も観察されなかったが、生後1日以降は致死性であることが明らかになった。この知見は、今後ASH1の機能を標的とするFSHDの治療薬を検証する際にはその副作用として慎重な検討が必要とされることを意味する。
治療法の開発については、D4Z4領域のnon-coding RNAに対するノックダウン人工核酸を合成し、現在スクリーニングを進めている。また、DUX4プロモーター・レポーター発現細胞を用いた低分子化合物ライブラリーのスクリーニングも今後の課題である。
FSHDの新しい診断法は、まずPacBio RSによるシーケンシングについて、de novoアセンブリに成功したシーケンス情報を用いてシミュレーション実験を行い、PacBio RSの1セル当たりのアウトプットの数十分の1のデータ量でアセンブリが可能である(即ちコストダウン出来る)ことを示した。さらに、FLAG-dCas9リコンビナント蛋白質と4番染色体または10番染色体に特異的なガイドRNAを用いてD4Z4領域を高度に精製することが原理的に可能であることを示した。よって、外来患者の末梢血から精製したゲノムDNAを制限酵素処理し、これをマグネットビーズに固相化したdCas9/sgRNAのカラムを通してD4Z4領域のみ精製し、そのDNA断片の長さを直接測定することが可能になる。
結論
本研究は、病態解明、新規治療法の開発、新規診断法の開発という三つの柱を掲げて進めて来たが、その中、病態機構については遺伝子ノックアウト細胞やASH1ノックアウトマウス、D4Z4トランスジェニックマウスといった研究材料の準備がほぼ完成し、これから実際の解析に移行する段階になっている。治療法についても、lncRNAに対するLNA gapmerの合成とアッセイ系(DBE-T発現ベクター、D4Z4トランスジェニックマウス)の確立まで進めることが出来た。診断法については、D4Z4領域のゲノムDNA精製からシーケンシングまたはDNA蛍光染色による長さの測定まで、基本的な条件をクリアすることが出来、三つの課題の中では最も進めることが出来た。今後、新しい診断法の保険適用を目指してさらに必要とされる検出感度と特異性の検証を進めて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419080C

成果

専門的・学術的観点からの成果
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーについて、病態解明のための基盤ツールとしてDUX4レポーター、クロマチン制御因子ノックアウト細胞及びASH1ノックアウトマウス、D4Z4トランスジェニックマウスを作成した。治療法については、non-coding RNA (DBE-T)に対するノックダウン人工核酸を合成し、アッセイシステムを構築した。また、遺伝子診断についてもFLAG-dCas9を用いて患者ゲノムからD4Z4領域を精製する技術基盤を完成させ、同時に反復配列をシーケンスするために必要な条件を確立した。
臨床的観点からの成果
現在顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーの確定診断には放射性同位元素を用いたSouthernブロット法が行われており、そのため診断が保険適用になっていない。本研究で確立した新しい診断法は放射性同位元素を用いず、比較的簡便に原因となる遺伝子異常を診断できるため、保険適用になれば本疾患の遺伝子診断が進み、症状が似ている他疾患との鑑別診断に利する。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
該当なし
その他のインパクト
東京都文京区シビックホールで区との共催で市民講座を開き、区報やホームページでの本疾患の紹介、講演での遺伝子のはたらきや本疾患のメカニズムから国の取り組みなどについての情報発信を行った。また、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーに関わる本学内外の研究者と患者との情報共有を図るため、日本筋ジストロフィー協会の分科会としてFSHDの集まりを立ち上げた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419080Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
24,555,000円
(2)補助金確定額
24,555,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 13,178,448円
人件費・謝金 3,455,691円
旅費 93,990円
その他 2,220,871円
間接経費 5,606,000円
合計 24,555,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
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