アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明と画期的治療法の開発

文献情報

文献番号
201419077A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明と画期的治療法の開発
課題番号
H24-神経・筋-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 吉田 眞理(愛知医科大学加齢医学研究所神経病理部門)
  • 桑原 聡(千葉大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 錫村 明生(名古屋大学環境医学研究所神経免疫学)
  • 星野 友昭(久留米大学内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門)
  • 萩原 綱一(九州大学大学院医学研究院臨床神経生理学分野)
  • 城戸 瑞穂(九州大学大学院歯学研究院 分子口腔解剖学分野)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
  • 松瀬 大(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
21,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害には、アトピー性脊髄炎、Churg-Strauss症候群(CSS)が含まれるが、さらに広範囲な神経疾患病態にアトピー素因が関与している可能性が示唆されている。しかしながら末梢におけるアレルギー炎症と中枢神経系の炎症を直接的に結びつける研究はない。本研究課題では、これらのアトピー関連疾患に共通する末梢アレルギー炎症が神経障害を惹起するメカニズム解明および、疾患毎に特徴的な病態を多角的に明らかにし、それらを標的とした治療法の開発を目的とする。
研究方法
(1)アトピー性脊髄炎モデルマウスの作成と解析(吉良、錫村、城戸):気管支喘息マウス中枢神経におけるグリア炎症を免疫組織学的に解析した。また感覚障害の有無を確認し、脊髄ミクログリアで発現修飾されている遺伝子の探索とグリア細胞の機能抑制による治療を試みた。
(2)アトピー関連サイトカインの中枢神経系での作用(錫村、吉良):新生仔由来の混合グリア細胞培養よりミクログリア・アストロサイトを分離し、各細胞についてアトピー関連サイトカインとその受容体の発現を検討した。
(3)アトピー性皮膚炎と脊髄炎の合併症例の解析(楠):近畿大学医学部附属病院を受診した患者で、カルテ病名上でアトピー性疾患と脊髄炎の合併例を解析した。
(4)アトピーに関連した臨床像の十分に解明されていない神経障害の解析(吉良、桑原、萩原):アトピー性脊髄炎患者の128チャネル脳波計による精密な脳波解析や脳磁図による解析を行った。
(5)平山病患者血清におけるアレルギー炎症関連サイトカインの解析(桑原):平山病の悪化リスクとしてのアトピー素因について明らかにするため、平山病12例、正常対照12例について、血清サイトカイン・ケモカイン27種類の同時測定を行った。
(6)脱髄疾患が疑われた剖検例での免疫病理学的解析(吉田):4例の脳生検標本において脱髄疾患が疑われた症例の病理学的解析を通してその浸潤細胞種類等の特徴や病態を解析した。
結果と考察
(1)気管支喘息モデルマウスではアロディニアを認め、脊髄ではグリア炎症が惹起されていた。これらのマウスミクログリアでは、EDNRB遺伝子の発現上昇が見られた。EDNRB拮抗薬BQ788の連日投与によりアロディニアは軽減し、脊髄グリア炎症も抑制された。
(2)IL-19はミクログリアが発現し、受容体(IL-20Rα/β)もミクログリアが発現していたことから、オートクリン的に働くと思われた。また、IL-19欠損マウスミクログリアは炎症性サイトカインの発現が亢進していたことから、IL-19は炎症抑制的に働くことが示唆された。
(3)2005年から2014年に近畿大学医学部附属病院を受診した患者で、アトピー性皮膚炎患者10238例、脊髄炎関連疾患529例を渉猟したところ、アトピー性皮膚炎と脊髄炎関連疾患の合併は5名であった。アトピー性皮膚炎患者の0.05%に脊髄炎を合併し、脊髄炎患者の0.85%にアトピー性皮膚炎を合併していた。
(4)アトピー性脊髄炎患者の一次および二次体性感覚野、SI(エスワン)とSII(エスツー)についての脳磁計を用いた検討。 AM患者7名について正中神経刺激による誘発磁場反応を記録した。 結果、SIについては、異常の頻度はやや高いと考えられた。
(5)平山病患者血清中のEotaxin、MCP-1、RANTES、 MIP-1bは有意に上昇していた。好酸球はMMP-9などを介してcollagen産生に抑制的に作用し、硬膜管の成長発達に影響する可能性が考えられた。
(6)2013年と2014年に脳腫瘍が疑われ脳生検が施行され、病理学的に脱髄疾患が疑われた4症例を検討した。
脱髄疾患の急性期では、血管周囲性に好酸球の出現が高頻度にみられた。好酸球出現は多発性硬化症の病理像として成書に記載されているが、剖検例で観察することは稀であり特記すべき所見であった。
結論
 平成26年度の研究により、アレルギー疾患伴う中枢・末梢神経障害の原因が部分的に解明され、治療法の提案ができたことは、非常に有意義であった。また、従来は軽微な兆候として見逃されていた可能性が高いアロディニアや、アレルギー炎症とは関連性が低いと考えられてきた疾患の病態生理に、末梢のアレルギー性機序やグリア炎症の関与が疑われたことは、今後の診断・治療における大きなパラダイムシフトともなりうる発見であった。本年度の研究成果は、今後のアトピー関連中枢・末梢神経障害の臨床診断・治療に大きく貢献できるものと思われた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201419077B
報告書区分
総合
研究課題名
アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明と画期的治療法の開発
課題番号
H24-神経・筋-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人九州大学 大学院医学研究院脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 楠 進(近畿大学神経内科)
  • 吉田 眞理(愛知医科大学加齢医学研究所神経病理部門)
  • 桑原 聡(千葉大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 錫村 明生(名古屋大学環境医学研究所神経免疫学)
  • 星野 友昭(久留米大学内科学講座呼吸器・神経・膠原病内科部門)
  • 萩原 綱一(九州大学大学院医学研究院臨床神経生理学分野)
  • 城戸 瑞穂(九州大学大学院歯学研究院分子口腔解剖学分野)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
  • 松瀬 大(九州大学大学院医学研究院神経内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害には、アトピー性脊髄炎、Churg-Strauss症候群(CSS)が含まれるが、他にも広範囲な神経疾患病態にアレルギー素因が関与している可能性が示唆されている。一方、末梢における炎症が中枢神経グリア炎症を惹起することも知られているが、末梢におけるアレルギー炎症と中枢神経系の炎症を直接的に結びつける研究はない。本研究課題では、モデルマウスや培養細胞を用いた基礎的研究と、臨床データを多角的に解析した臨床研究により、アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明および治療法開発を目的とする。
研究方法
(1)アトピー性脊髄炎モデルマウスの作成と解析(吉良、錫村、城戸)マウスを卵アルブミン(OVA) で感作し気管支喘息を誘発し、中枢神経におけるグリア炎症を免疫組織学的に解析した。また感覚障害の有無を確認した。脊髄ミクログリアの遺伝子発現解析を行い、得られた結果をもとに異常活性化グリア細胞を標的とした新規治療を試みた。
(2)培養グリア細胞におけるアトピー関連サイトカイン産生と反応の解析(錫村、吉良)マウス新生仔由来の混合グリア細胞培養より、ミクログリア・アストロサイトを分離し、アトピー関連サイトカインとその受容体の発現を検討した。
(3)脳磁図計を用いたアトピー関連中枢・末梢神経障害患者の神経生理学的解析(萩原、吉良)アトピー性脊髄炎患者と多発性硬化症患者を対象に、脳磁図を用いて正中神経刺激による体性感覚誘発脳磁場(一次および二次体性感覚野応答)を測定した。
(4)アトピー関連中枢末梢神経障害患者における血小板機能解析(吉村、吉良)17例のアトピー性脊髄炎患者および35例の血液中glycoprotein IIb/IIIa(GP IIb/IIIa)について解析した。
(5)アトピー性脊髄炎患者剖検症例の病理学的解析(吉田)多発性硬化症の脳生検サンプルについて、アレルギー炎症を示唆する所見の有無を精査した。
(6)アトピー性脊髄炎患者におけるHLA遺伝子多型の特徴(松下、吉良) 55例のアトピー性脊髄炎患者と367例の健常コントロールDNAサンプルを用いてHLA 遺伝子多型をを解析した。
(7)平山病患者髄液中サイトカインの解析(桑原)平山病12例、正常対照12例の血清中サイトカイン27種を同時測定した。
(8)脊髄炎患者におけるアトピー性皮膚炎の合併(楠)2005年から2014年に近畿大学医学部附属病院を受診した患者で、カルテ病名上でアトピー性疾患と脊髄炎の合併例がどの程度存在するか、またその臨床像を解析した。
結果と考察
(1)気管支喘息モデルマウスでは神経障害性疼痛(アロディニア)を認めた。これらのマウス脊髄ではグリア炎症が惹起されていた。これらのミクログリアはEDNRBをコードする遺伝子の発現上昇が見られた。EDNRBの選択的拮抗薬BQ788はアロディニアを完全に抑制した。
(2)CCL11(eotaxin-1)はアストロサイトにより産生され、その受容体(CCR3,CCR5)はミクログリアに発現し、これらの遊走および活性酸素種(ROS)の発現亢進に寄与していた。また、IL-19はミクログリアが発現し、炎症抑制的に働くことが示唆された。
(3)SIについては、Area 3bの活動に特異的であるため、アトピー性疾患患者では異常の頻度はやや高いと考えられた。
(4) GPIIb/IIIaはアトピー性脊髄炎患者で有意に高く、また女性で高値を認めた。
(5)脱髄疾患の急性期(発症後2ヶ月以内)では、血管周囲性の炎症細胞に、好酸球の出現が高頻度にみられた。好酸球出現は多発性硬化症の病理像として成書に記載されているが、剖検例で観察することは稀であり特記すべき所見であった。
(6) 55例のアトピー性脊髄炎患者および367例の健常対照のDNAサンプルを解析したところ、HLA-DPB1*0201がアトピー性脊髄炎患者で有意に高値であった
(7)平山病12例、健常対照12例の血清中炎症性サイトカインを測定した結果、平山病患者ではEotaxin-1, MCP-1, RANTES, MIP-1bが高値を示した。
(8)アトピー性皮膚炎患者10238例、脊髄炎関連疾患529例を渉猟した。このうち、アトピー性皮膚炎と脊髄炎関連疾患の合併は5名であった。アトピー性皮膚炎患者の0.05%に脊髄炎を合併し、脊髄炎患者の0.85%にアトピー性皮膚炎を合併していた。
結論
 平成24年から平成26年度にかけて行った研究により、アレルギー疾患に伴う中枢・末梢神経障害の原因が部分的に解明され、治療法の提案ができたことは、非常に有意義であった。本研究班の研究成果は、今後のアトピー関連中枢・末梢神経障害の臨床診断・治療に大きく貢献できるものと思われた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

分担研究報告書
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研究成果の刊行に関する一覧表
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公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419077C

収支報告書

文献番号
201419077Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
28,500,000円
(2)補助金確定額
28,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 14,278,849円
人件費・謝金 3,046,503円
旅費 492,173円
その他 4,106,475円
間接経費 6,576,000円
合計 28,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-