MRIを用いた気分障害の診断補助法についての実用化研究

文献情報

文献番号
201419074A
報告書区分
総括
研究課題名
MRIを用いた気分障害の診断補助法についての実用化研究
課題番号
H25-精神-実用化(精神)-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
笠井 清登(東京大学 医学部附属病院精神神経科)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科)
  • 飯高 哲也(名古屋大学大学院 医学系研究科精神生物学)
  • 花川 隆(国立精神・神経医療研究センター 脳病態統合イメージングセンター先進脳画像研究部)
  • 福田 正人(群馬大学大学院 医学系研究科神経精神医学)
  • 國松 聡(東京大学 医学部附属病院放射線医学)
  • 中村 元昭(横浜市立大学 医学研究科精神医学部門 (神奈川県立精神医療センター、昭和大学附属烏山病院))
  • 山下 典生(岩手医科大学 医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
15,095,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
気分障害の診断は症状に基づいて行われ、過去の躁病エピソードを本人が認識していない場合や、将来双極性障害を呈する可能性があってもうつ病エピソードしか呈したことがない場合、うつ病と診断されうる。陽性症状が微弱でうつ症状が前景にたつ発症臨界期の統合失調症患者も、うつ病と誤診されやすい。これらの患者に抗うつ剤を投与すると、躁・精神病状態や自殺関連行動のリスクがある。したがって、気分障害患者の鑑別診断補助を行うバイオマーカーの必要性は高い。本研究は、代表的精神疾患ニューロイメージング拠点(東京大学、国立精神・神経医療研究センター、名古屋大学、大阪大学、群馬大学、昭和大学、岩手医科大学)が連携したオールジャパン体制により、安静時機能的MRI(resting-state fMRI [rs-fMRI])および構造MRIを用いて、うつ症状を呈する気分障害であるうつ病と双極性障害の鑑別診断や、統合失調症との鑑別診断に資する、客観的な診断に有用な脳機能・構造評価システムを構築し、診療場面における補助検査として実用化することを目的とする。
研究方法
従前の精神疾患MRI脳画像研究においては、施設間で撮像方法や臨床評価方法に相違があり、そのまま多施設共同研究を進めることは困難であった。したがって複数の中核的な研究機関が参加する本研究では、撮像プロトコルや取得する臨床指標の共通化をおこなう。そのうえで、うつ病・双極性障害・統合失調症の患者について、MRI検査を行うとともに、その背景を明らかにするために遺伝子データ収集・NIRS検査を行い、その結果にもとづいてMRI検査による標準化された補助診断システムを構築し、構築したシステムを診療場面で実用化できるよう完成度を高めてその有効性の実証を行う。
(倫理面への配慮)
 研究対象者には十分な説明を行い、文書による同意を得るなど、人権には十分配慮して研究を行う。臨床研究に関する倫理指針、ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針にのっとり、データを収集する施設の倫理委員会やヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認を得て行う。
結果と考察
初年度には、MRIベンダー主要三社(GE社、Siemens社、Phillips社)について、T1強調画像、rs-fMRIの統一プロトコルを定め、テストスキャンの品質チェックを終了させ、データ収集を開始した。第2年度には、MRI検査による標準化された補助診断システムの構築に向け、予備的な解析を進めた。単一施設rs-fMRIデータの予備的解析で、気分障害患者と健常者を8割程度の精度で判別できるという結果を得た。また、Support Vector Machineを用いた別の判別解析では、95%の精度を示した。画像品質保証のため、ファントム画像を用いた幾何歪みの補正プログラムと、灰白質・白質・脳脊髄液のコントラストを定量化するプログラムを作成した。また、日本人利き手尺度、日本人社会経済学的状態(socio-economic status)尺度、研究用修正型GAF日本語版などについても統一し、学術誌に発表したうえで、広く日本人研究者に資するためにウェブサイト(http://npsy.umin.jp/indicator.html)で情報提供した。更に、精神疾患における臨床検査実用化の理論的基盤を検討した(「臨床検査の有用性の現状とその意味」,印刷中)。第3年度には、うつ病、双極性障害、統合失調症の鑑別診断アルゴリズムを構築し、実用化に向けて有効性の実証を行う方針であるが、第2年度までは概ね順調に進捗していると考えられる。
結論
MRI統一プロトコルや臨床指標の統一は、本研究のみならず、日本の精神疾患バイオマーカー多施設共同研究全体に資する貴重な研究基盤となる。DALYsが大きく国内の経済損失が2兆7千億円とも言われる気分障害患者に対して、客観的バイオマーカーを導入して正しい診断が図られることにより、早期に適正な治療を行うことができるようになるため、労働力の損失や自殺を防ぎ、医療経済的なメリットが大きい。光トポグラフィー(near-infrared spectroscopy [NIRS])が気分障害の補助診断法として実用化されているが、MRIは脳部位間の結合や脳深部の情報を高空間解像度でとらえるため、NIRSと相補的な客観的補助診断検査法として実用化されることが期待される。さらに、MRIを用いた気分障害の診断補助法が確立されれば、うつ症状を呈する患者の脳機能・構造特徴データを、多施設で共通のプロトコルで大規模に収集し算出することが出来るため、DSM-Vでもなし得なかった、精神疾患の診断基準にバイオマーカーを組み入れることによる診断の標準化に大きく貢献するものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419074Z