文献情報
文献番号
201419072A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病の病態を反映する血中バイオマーカーの開発・実用化研究
課題番号
H24-精神-実用化(精神)-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
神庭 重信(九州大学大学院 医学研究院精神病態医学)
研究分担者(所属機関)
- 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)
- 服部 功太郎(国立精神・神経医療研究センター精神医学)
- 加藤 忠史(理化学研究所脳科学総合研究センター神経科学)
- 清水 栄司(千葉大学大学院医学研究院認知行動生理学)
- 橋本 亮太(大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合小児発達学研究科精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
26,103,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、大うつ病をはじめとする気分障害の増加とその病態の多様化は、医療現場のみならず、地域社会、職域、教育現場に深刻な影響を及ぼしている。精神疾患を持つ者が最初から精神科を受診することは稀で、多くは精神科以外の医療機関や産業医を経由し、精神科受診は遅れがちであり、予後に影響を与えている。そこで、本研究では、健診でも有用な血液バイオマーカーの開発を目指してきた。
研究方法
九州大学の神庭らは、気分障害橋渡し研究の国内拠点を築くべく、国内初の気分障害外来を九州大学病院内に立ち上げ、共同研究者らとともに、精度の高い気分障害の診断・重症度評価を多軸的に行い、血液サンプルはじめ各種バイオマーカーを測定してきた。班員の尾崎ら(名古屋大学)は、末梢血液由来リンパ芽球様細胞株(LCL)の網羅的解析により、病態の特性を反映しうるバイオマーカー候補を見出し、客観的検査法を開発することを試みた。橋本ら(大阪大学)は、うつ病、双極性障害、統合失調症、健常者の40例ずつのサンプルセットを用いて、免疫系のバイオマーカーを検討した。功刀・服部ら(精神神経医療研究センターNCNP)は、血中アミノ酸の解析を行った。理化学研究所の加藤らは、双極性障害患者で報告されている既存のバイオマーカーの変動メカニズムを明らかにするため、うつ状態を反復する動物モデルにおいて、バイオマーカー候補物質を検討した。千葉大学の清水らは、児童・思春期の薬物未治療うつ病患児(n=23)、薬物治療中のうつ病患児、健常児を対象に血清mature-BDNF、proBDNF、MMP-9、オキシトシン濃度を測定した。
結果と考察
(1)ヒト血液由来の直接誘導ミクログリア(induced microglial cells; iMG細胞)の作製に成功し、近年話題になっている脳内免疫系の異常に関しても、末梢血由来細胞から解析できるシステムを開発した。並行して、気分障害患者の血清サンプルを用いて、ノンターゲットによる網羅的メタボローム解析を実施し、健常者、大うつ病患者及び双極性障害を判別しうる候補分子を幾つか見出した。多施設でのサンプル・データを増やし、メタボローム解析によるデータと各種臨床データとの相関解析を行い、血液で測定可能な気分障害バイオマーカー開発を目指してきた。最終的に、数種類の代謝物により抑うつ状態の重症度を予測できるシステム開発に成功した。(2)統合失調症のプロテオーム解析の結果、統合失調症マーカー候補22種類を同定し、4ないし6因子から成る統合失調症判別モデルを構築した。外部データ検証でモデルの予測性能が確認された。(3)Soluble TNF α receptor IIについて、統合失調症における再現性を検討した結果、これを確認した。(4)血中アミノ酸の解析を行い、メタアナリシスと合わせ、うつ病ではトリプトファンが減少していることを結論づけた。また、脳により近い脳脊髄液を患者・健常対照者より収集し候補分子の解析をするとともにプロテオーム解析等によりバイオマーカーの探索を行った。候補分子としてIL-6が、うつ病と統合失調症の脳脊髄液で亢進していることを見出すとともに、プロテオーム解析によりFibrinogenがうつ病の一群を反映していることが判明した。(5)薬物治療中うつ病患児は他の2群に比して血清mature-BDNF、MMP-9濃度が有意に高値(p<0.05)であった。さらに、児童・思春期の治療抵抗性うつ病患児(n=10)は、治療反応性の良いうつ病患児、健常児と比較して血清MMP-9、オキシトシン濃度が有意に高値であった。
結論
本研究によるこうした画期的な成果を、二次サンプル等によって、信頼性・妥当性を十分に評価し、産学連携により実用化していくことが将来的な課題である。こうした我々の研究成果により、近い将来、気分障害の早期発見・早期介入が可能となり、最終的には、こうした成果により国民の医療・精神医療の発展が大きく期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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