脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究

文献情報

文献番号
201419054A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究
課題番号
H24-身体・知的-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 河島 則天(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 運動機能系障害研究部)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院 総合文化研究科)
  • 筑田 博隆(東京大学医学部附属病院 整形外科脊椎外科)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科痛みセンター)
  • 金子慎二郎(村山医療センター 整形外科)
  • 山内 淳司(成育医療研究センター研究所 薬剤治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,179,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷者に対するリハビリ分野では、残存する神経回路の再学習を通じて麻痺部位の機能回復を誘導するニューロリハビリが注目されている。しかし、この訓練の対象となる亜急性期の不全脊髄損傷者の病態は個人差が非常に大きく、訓練前の適応判定・個別評価と訓練効果判定法は確立していない。本研究では脊髄損傷の評価を脊髄神経回路における運動制御プログラム(ソフトウェア)と回路自体の状態(ハードウェア)を評価するアプローチの二つに分け、これらを体系化することで脊髄損傷者の個別評価の問題を解決することを試みる。本研究は、下肢の動きが残存するが実用歩行困難な不全脊髄損傷者を対象に、歩行再獲得をめざしたニューロリハビリへの適応判定と訓練プロトコール選別、さらに訓練効果判定の評価システムを構築することを目的としたものである。
研究方法
1)バイオマーカー臨床データベースの構築:平成26年度は脊髄損傷の際に合併しうる他の疾患におけるpNF-Hの動態も明らかにすることをめざし、外傷性脳損傷、頸椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症についてデータ収集を行い、血中pNF-H値の臨床利用における注意点を検討した。
2)筋トーヌス・痙縮の客観的評価とそれに応じた訓練方法の作成:神経回路のソフト面の評価の中で痙縮をとりあげた。足関節を他動的に設定された角速度で動かしながら、その抵抗力を測定する機器を作成し、脊髄損傷者に対する測定を実施した。
3)固有脊髄経路の残存評価:歩行生理学のこれまでの知見を踏まえ、歩行時の筋電図を脊髄神経支配のモデルに当てはめる方法で固有脊髄路の機能を検討した。
4)脊髄損傷症例に対する介入の臨床課題の検討:本研究では亜急性期の脊髄損傷者に対する訓練前評価とそれに応じた訓練実施、をテーマにしている。実際の臨床場面での実践は病院におけるシステム整備の遅れから困難であった。そこで、システム整備に向けた課題整理および必要な訓練設備の検討を行った。
結果と考察
1)バイオマーカーのデータ収集は急性期脊髄損傷、慢性期脊髄損傷にとどまらず、腰部脊柱管狭窄症、外傷性脳損傷、意識障害、認知機能障害など、多岐に及んだ。平成26年度は腰部脊柱管狭窄症の症例について、解析を行いその成果を論文として投稿した。今回の解析は脳脊髄液を対象としたところ、手術適応となるような重症度の腰部脊柱管狭窄症症例ではほとんどすべてのケースでpNF-Hが脳脊髄液中で上昇していることが明らかとなった。さらに、その値は疼痛症状と一定の相関がみられることも示された。今回の結果からは血中でのpNF-H値は明らかではないが、腰部脊柱管狭窄症を有する脊髄損傷者の場合、すでに上昇している脳脊髄液中のpNF-Hが血中pNF-H値に影響を及ぼす可能性が考えられるため、測定値の解釈に注意を要すると考えられる。
2)筋トーヌス・痙縮の評価:開発した客観的計測法による麻痺下肢の筋特性評価と現在臨床現場で用いられている徒手的評価法であるModified Ashworth Scoreを比較することで、より質的な診断を試みた。その結果、横断調査のデータではあるが、受傷からの期間が長い症例ほど、筋の粘弾性が下がっていくことが明らかとなり、この結果を論文として発表した。
3)固有脊髄経路の評価:解析の結果、健常者、不全脊髄損傷者、完全麻痺脊髄損傷者の間にはそれぞれ脊髄神経の活動パターンの相違があり、今後、これを定量評価することで脊髄固有神経路の状態を捉えることができる可能性が示唆された。
4)脊髄損傷症例に対する介入の臨床課題の検討:免荷式歩行支援器の問題点を現場より抽出し、患者を免荷姿位に設置することが理学療法士1名によって容易に実施できることが、実際の訓練実践には重要であるとの指摘をした。
結論
 脊髄損傷の個別診断に向けて、神経損傷の量的評価(バイオマーカー)、神経回路の状態把握(筋電による機能マッピング)、症状の把握(痙縮評価)の多方面からの評価が可能となった。これらによって一定の損傷度であることを確認したうえで、痙縮が強い症例に対して、今後免荷式歩行訓練を実施していくことが可能となった。その実施上の問題点も適切な免荷式歩行器を導入することでクリアできることが見込まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

文献情報

文献番号
201419054B
報告書区分
総合
研究課題名
脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究
課題番号
H24-身体・知的-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 河島 則天(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 運動機能系障害研究部)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院 総合文化研究科)
  • 筑田 博隆(東京大学医学部附属病院 整形外科脊椎外科)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科痛みセンター)
  • 金子慎二郎(村山医療センター 整形外科)
  • 山内 淳司(成育医療研究センター研究所 薬剤治療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷者に対するリハビリ分野では、残存する神経回路の再学習を通じて麻痺部位の機能回復を誘導するニューロリハビリが注目されている。しかし、この訓練の対象となる亜急性期の不全脊髄損傷者の病態は個人差が非常に大きく、訓練前の適応判定・個別評価と訓練効果判定法は確立していない。本研究では脊髄損傷の評価を脊髄神経回路における運動制御プログラム(ソフトウェア)と回路自体の状態(ハードウェア)を評価するアプローチの二つに分け、これらを体系化することで脊髄損傷者の個別評価の問題を解決することを試みる。本研究は、下肢の動きが残存するが実用歩行困難な不全脊髄損傷者を対象に、歩行再獲得をめざしたニューロリハビリへの適応判定と訓練プロトコール選別、さらに訓練効果判定の評価システムを構築することを目的としたものである。
研究方法
1)バイオマーカー臨床データベースの構築:近年あらたにバイオマーカーとしての有用性が報告されている神経軸索損傷マーカーのpNF-H(リン酸化ニューロフィラメント)について検討した。脊髄損傷症例を救急病院への来院時に登録し、その急性期における血中pNF-H値をELISA法により測定、さらに臨床情報と関連付けた。また、脊髄損傷の際に合併しうる他の疾患におけるpNF-Hの動態も明らかにすることをめざし、外傷性脳損傷、頸椎症性脊髄症、腰部脊柱管狭窄症についてデータ収集を行い、血中pNF-H値の臨床利用における注意点を検討した。
2)筋トーヌス・痙縮の客観的評価とそれに応じた訓練方法の作成:神経回路のソフト面の評価の中で痙縮をとりあげた。具体的には足関節を他動的に設定された角速度で動かしながら、その抵抗力を測定する機器を作成し、脊髄損傷者に対する測定を実施した。
3)固有脊髄経路の残存評価:歩行生理学のこれまでの知見を踏まえ、四肢の周期的な動きを制御するパターンジェネレーターに着目した誘発電位を用いた手法と、歩行時の筋電図を脊髄神経支配のモデルに当てはめた手法の2つを検討した。
結果と考察
1)神経損傷バイオマーカーpNF-Hについて、脊髄損傷における重症度判定の目安、脳外傷を合併した際の扱い、慢性的脊髄圧迫など関連疾患の扱いなど、関連する知見が収集され、臨床的な使用方法について学会で提案をした。受傷によって損傷された神経組織の量を反映するものとして、これまで明らかでなかった不全麻痺を呈する脊髄損傷症例においても、受傷後3日目の血中pNF-H濃度を測定することが、実用的な歩行回復に至る症例か、そうでないかの予測に有用である結果が得られた。特に亜急性期のリハビリテーション効果を判定する上で、こうした予後予測は極めて重要である。一方、こうした有用性が示されたことに続いて、受傷前に脊椎・脊髄の変性疾患、たとえば頸椎症性脊髄症や腰部脊柱管狭窄症が合併している場合、値の解釈は慎重になるべきことが示された。今回得られた、脊髄損傷以外の疾患についての情報は今後さまざまな研究テーマ、臨床応用に発展しうるものと期待される。
2)痙縮の定量評価:免荷式歩行訓練の効果発揮に大きく影響する痙縮に着目し、その定量評価を試みた。足関節角度と発生トルクを簡便に計測する機器を開発し、実際に脊髄損傷者の痙縮を定量的に記録できることを英文論文として発表した 不全脊髄損傷の中でも痙縮の程度は様々で、訓練方法を選択し、さらにその効果を追跡する際に痙縮を正確に記録することは極めて重要と考えらえる。今後、痙縮を継時的に評価しながら、さらに薬理的な介入も交え、訓練が実施されることが期待される。
3)脊髄固有神経路の評価:脊髄損傷からの回復過程では受傷前に存在する神経回路が元の形に再生して機能が回復するのではなく、新たな神経回路機能が獲得されると考えられている。その中で、脊髄内の神経回路の再構築は重要な要素であり、その状況を把握することは個別診断の重要な要素となる。今後、継時的な変化などのデータを蓄積することで脊髄神経回路の経過観察手法として確立することが期待される。
結論
 脊髄損傷の個別診断に向けて、神経損傷の量的評価(バイオマーカー)、神経回路の状態把握(筋電による機能マッピング)、症状の把握(痙縮評価)の多方面からの評価が可能となった。これらによって一定の損傷度であることを確認したうえで、痙縮が強い症例に対して、今後免荷式歩行訓練を実施していくことが可能となった。その実施上の問題点も適切な免荷式歩行器を導入することでクリアできることが見込まれる。実際の臨床例の蓄積は今後の課題であるものの、今後この分野の臨床データを蓄積していき、新たなエビデンスにつなげていくための準備が整ったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419054C

収支報告書

文献番号
201419054Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,179,000円
(2)補助金確定額
10,179,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,112,325円
人件費・謝金 1,806,774円
旅費 1,535,600円
その他 2,724,301円
間接経費 0円
合計 10,179,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
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