精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査-入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究

文献情報

文献番号
201419045A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科病院に入院する認知症高齢者の実態調査-入院抑制、入院期間短縮、身体合併症医療確保のための研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H26-精神-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
前田 潔(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 粟田 主一(東京都健康長寿医療センター)
  • 斎藤 正彦(東京都立松沢病院)
  • 北村 立(石川県立高松病院)
  • 本間 昭(認知症介護研究・研修東京センター)
  • 服部 英幸(国立長寿医療研究センター)
  • 森川 孝子(神戸学院大学 総合リハビリテーション学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神科病院の入院認知症者の実態および身体合併症医療の現状を明らかにすることにより、入院認知症者の長期入院を解消するため、退院支援の方法、退院先の受け皿のあり方などの参考資料を得ること。入院を抑制し、入院期間を短縮することは医療費を抑制することとなり、また人権擁護の点からも厚生労働行政に資する成果を得ることを目的としている。
研究方法
前田/森川は認知症治療病棟を有する西日本の精神科病院を対象に入院認知症者についてのアンケート調査を実施し、現時点での実態の解明を行った。粟田は全国の認知症疾患医療センター(疾患医療センター)を対象にアンケート調査を実施し、医療機関類型別(精神科病院vs.一般病院)の比較することで精神科病院に併設された疾患医療センターの特徴の抽出を試みた。斎藤は松沢病院などで身体合併症対応のための精神科病院と身体科病院の連携について調査した。服部は地域の一般病院と精神科病院との入院患者についての連携についての調査を行った。北村は県立高松病院の認知症訪問看護の実態とその効果について調査した。本間は向精神薬使用ガイドラインの有用性について専門医を対象にアンケート調査を行った。
結果と考察
結果:前田/森川の行った西日本の54精神科病院における調査結果では26年8月の平均在院日数は595.6日であった。全病院の合計患者について、その入院期間は60日以内が361名(12.5%)、61日-1年未満が873名(30.0%)、1年以上が1672名(57.5%)であった。61日以上入院している患者の、退院できない理由として最も多かったのが「精神症状・行動制限のため」996名(39.1%)であり、次いで「施設入所待ち」が636名(24.9%)、「家族の受入困難」が352名(13.8%)であった。粟田は精神科病院における2ヵ月以内退院率は32.9%と相変わらず低いことを見出している。斎藤は身体症状と精神症状を比較して、身体症状の方が在宅復帰の支障になりにくいという結果を得た。服部は一般病院(疾患医療センター)から精神科病院への紹介例および精神科病院から一般病院への紹介例のそれぞれの特性を抽出することに成功した。北村は訪問介護の対象者の世帯構成によって訪問看護の目的が異なる可能性を見出している。本間は認知症専門医を対象としたアンケートではBPSDに対して向精神薬の使用において、同意を得ると回答した割合は60.9%であった。ほぼガイドラインに沿った使用が行われていると結論された。今後は、かかりつけ医を対象とした本ガイドラインの有用性の検討を行う予定である。
考察:前田/森川の行った実態調査では精神科病院に入院する認知症の人の在院期間は相変わらず長期になっていることが明らかとなった。前田/森川は3年前に同様の調査を行ったが、その結果と大きくは変わっていないということになる。相変わらず平均在院日数は600日近くであり、入院期間が2ヵ月以下の患者はわずかに12.4%にすぎなかった。粟田の調査では疾患医療センターを引き受けている精神科病院の実態が抽出され、今後の精神科病院の認知症医療におけるあり方の構築に資すると考えられる。この結果からも精神科病院からの退院支援には受け皿の整備が必要であると結論された。斎藤及び服部の調査からは精神科病院と一般病院の入院医療における連携の構築に何が重要かを明らかにする可能性が認められた。北村の研究は訪問看護の重要性、効果を確認する成果が期待された。本間の調査結果からは向精神薬が適正に使用されていると言えよう。
本研究により、精神科病院における認知症の人の入院医療の実態が明らかになりつつある。同時にこれを解消するための方策の一部が明確になりつつある。そのためには医療と介護、一般病院と精神科病院のそれぞれの連携をいかに構築するかが重要となってくると考えられ、今後の課題と言える。
結論
前田/森川および粟田の調査からは、認知症の人の精神科病院入院は相変わらず長期になっているという実態が確認された。厚労省の目標(2ヵ月以内退院率50%)には遠く及ばない。入院が長期になるに従ってADLの低下などからさらに退院が困難となっている。入院が長期にわたる原因のひとつは退院先が確保されていないという点である。粟田、斎藤、服部の調査では、合併症医療の確保については一般病院と精神科病院の連携が重要と結論された。連携が具体的に担保される方策の構築が今後の課題である。北村が行っている訪問看護の充実も入院期間を短縮する有力な方策のひとつであると考え、今後の調査を続けたい。本間の向精神薬の使用に関する調査からは適切な向精神薬の使用により精神科病院入院抑制を図ることを目指したい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201419045Z