リアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法を用いた統合失調症の認知リハビリテーション

文献情報

文献番号
201419029A
報告書区分
総括
研究課題名
リアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法を用いた統合失調症の認知リハビリテーション
課題番号
H24-精神-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松田 哲也(玉川大学 脳科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松島 英介(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 大久保 善朗(日本医科大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,116,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
統合失調症を対象にリアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法を用いた認知機能改善プログラムを作成し、統合失調症の症状の改善・回復への有用性を調べる。昨年度までは、リアルタイムfMRIによるバイオフィードバックの効果について、脳活動、自覚的評価の変化といった観点から情動刺激を用いて検討を行った。本年度は、統合失調症を対象に使用するための課題の作成を行った。課題内容は、統合失調症の症状として自分と他人との区別がつきにくくなるがあり、その症状の改善を試みるために自他認知課題とした。また、トレーニングの効果を測定する方法として安静時脳活動の変化によって、評価できるかについても検討を行った。
研究方法
自他認知課題
 自他認知に関連する領域を抽出する課題を作成した。画面に性格を示す形容詞を画面中心の上下に1つ提示し、①自分がその性格にあてはまるか(自己認知)、②母親がその性格にあてはまるか(他者認知)、③自分にとってその単語が良いイメージか悪いイメージか(自分自身の知識)、④世間一般的にその単語が良いイメージか悪いイメージか(社会的知識)の4条件で回答させた。  
 コントロール課題として、単語が上下どちらに提示されているかを回答させた。主に①と②の条件の比較で行われた研究報告はあるが、自他認知と知識の読み出しの区別がついていないことが考えられるため、③と④の条件を加え検討を行った。
 さらに、リアルタイムfMRIでこの領域の脳活動をフィードバックして、自己条件時にはACCの活動を、他者条件時にはPCCの活動を高めるようにトレーニングを行う実験を行った。昨年度行った情動課題で用いた、1ブロック40秒のブロックデザインを用いて5回繰り返し行った。
安静時脳活動課題
心地よい匂いを嗅いでいる時の安静時脳活動を測定し、快な匂いが安静時の脳活動に与える影響を調べ、心的状態が穏やかになった時に、安静時脳活動を測定することで評価できるかについて予備的な検討をおこなった。
被験者に本実験の内容と危険性について、口頭ならびに書面にて説明し同意をとれた方を被験者とした。また、実験については、所属機関の倫理委員会の承認を得て行っている。
結果と考察
自他認知課題
 その結果、①自己認知に特異的に活動を示す領域は前部帯状回(ACC)、②他者認知に特異的に活動を示す領域は後部帯状回(PCC)であった。その後ACCとPCCをシードとして、リアルタイムfMRIによるフィードバックトレーニングを行った。自己について考えている時はACC、他者のことを考えている時はPCCの活動を高めるように教示した。その結果、トレーニングにより有意に脳活動を高めることはできなかった。
安静時脳活動課題
 被験者は、自覚的な尺度として快と感じる匂いを嗅いでいる時は、心地よい感じがすると回答していた。
 安静時脳活動は、匂いを嗅いでいないコントロール時に内側前頭葉(MPFC)に加えて、線条体、後部帯状回(PCC)、前頭眼窩野、前頭前野背外側部などの脳活動がみられた。一方、快条件では、MPFCに加え、PCC、前頭前野、島皮質などの活動がみられた。また、快条件とコントロール条件を比較し、快条件により強く活動している領域を求めたところ、有意な領域は認められなかった。快条件でコントロールと比較してより強く働く領域を調べたところ、統計的に有意な領域はでてこなかった。今回の解析では、快条件ではコントロール条件と比較して、安静時脳活動に有意な差を認めなかった。
結論
統合失調症の症状として自分と他人との区別がつきにくくなるがあり、その症状の改善を試みるために自他認知課題を用いた、リアルタイムfMRIによるフィードバックトレーニングを行った。その結果、自己についてはACC、他者についてはPCCの脳活動を高めるように教示したが、1トライアル⒌回の繰り返しで、3セッション行ったが、脳活動を有意に高めることはできなかった。これは、繰り返し回数を増やす、さらにトレーニングを数日かけて行うなどの必要があると考えられる。昨年度まで行っていた情動課題より高次な機能の制御になるので、脳活動の制御についても十分な時間をかけて行う必要が示唆された。
 また、トレーニングの効果を評価する方法として安静時脳活動により測定できるかについて検討を行った。強制的に、匂いを使い精神的な状態を変化させて、その変化前後の比較を行った。その結果、自分の好きな匂いを嗅ぐことで自覚的な評価は心地良いと変化していたにも関わらず、安静時脳活動(default mode network)に有意な変化は認められなかった。今回は、MPFCにシードを置き、解析を起こったが、今後ICAなどの解析を行うことで違いが見いだされる可能性はあるのではないかと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201419029B
報告書区分
総合
研究課題名
リアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法を用いた統合失調症の認知リハビリテーション
課題番号
H24-精神-一般-013
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松田 哲也(玉川大学 脳科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 松島 英介(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 大久保 善朗(日本医科大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法は、被験者本人に自分の脳活動をフィードバックさせることで、脳活動を通じて思考の変化を可視化させることができる。そのため、被験者にとって、それが客観的な目安となるため、より効率的に認知機能の改善トレーニングができるものとして期待できる。そこで、本研究では、統合失調症を対象にリアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法を用いた認知機能改善プログラムを作成し、統合失調症の症状の改善・回復への有用性を調べることを目的とする。
研究方法
平成24年度は、自分で判断した結果について他人からのはたらきかけにより、その回答が本当に正しいかを見直すという課題を用いて、統合失調症のself reflection機能異常を明らかにする為にfunctional MRIを用いて、関連する脳活動を計測することで検討した。
平成25年度は、fMRIによるバイオフィードバックによる扁桃体の活動制御が、自覚的情動評価にどのような影響を及ぼすかを調べた。そこで、トレーニング前後の情動刺激に対する扁桃体の活動と情報評価を測定した。トレーニング課題で扁桃体の活動を高めることができた被験者(成功)とできなかった被験者(失敗)を分類し、さらに成功した被験者に対して、トレーニング前後に行った情動刺激に対する評定課題を行った。
平成26年度は、統合失調症の症状として自分と他人との区別がつきにくい症状があり、その症状の改善を試みるために自他認知課題を用いたリアルタイムfMRIによるフィードバックトレーニングを行った。
結果と考察
平成24年度の結果から、統合失調症はself reflection機能が十分働かなく、自分のこととしてとらえることができないため、自身の行動、思考を十分顧みる機能に障害がある可能性が示唆された。また、ACCやPCCの脳領域の活動が統合失調症で健常者と比較してパターンが異なっていたため、この脳領域の脳活動を制御させることで症状の改善につながる可能性が見いだされた。
平成25年度の結果から、リアルタイムfMRIによるバイオフィードバック法による局所脳活動の制御トレーニングにより、脳の活動を制御することが可能であることが示された。ニューロフィードバックトレーニングにより脳活動を制御できると情動を惹起する刺激に対する感受性(主観的評価がより不快になる)が変化した(5/15名)。
また、不快画像に対する感受性が高まった場合、海馬、尾状核下頭頂小葉、前中心回などが扁桃体と協調して働いていた。つまり情動(不快)に関連する脳領域を協調的に働かせることで、情動機能も変化することが明らかになった。つまり、本研究結果からリアルタイムfMRIで扁桃体の活動を制御でき、かつ自覚的な評定も変化した被験者は、情動刺激に対する扁桃体の感受性が高まっていることが確認された。
平成26年度の結果から、自己についてはACC、他者についてはPCCの脳活動を高めるように教示したが、1トライアル5回の繰り返しで、3セッション行ったが、脳活動を有意に高めることはできなかった。これは、繰り返し回数を増やす、さらにトレーニングを数日かけて行うなどの必要があると考えられる。昨年度まで行っていた情動課題より高次な機能の制御になるので、脳活動の制御についても十分な時間をかけて行う必要が示唆された。また、トレーニングの効果を評価する方法として安静時脳活動により測定できるかについて検討を行った。強制的に、匂いを使い精神的な状態を変化させて、その変化前後の比較を行った。その結果、自分の好きな匂いを嗅ぐことで自覚的な評価は心地良いと変化していたにも関わらず、安静時脳活動(default mode network)に有意な変化は認められなかった。今回は、MPFCにシードを置き、解析を行ったが、今後ICAなどの解析を行うことで違いが見いだされる可能性はあるのではないかと考えている。
結論
これらの結果から、リアルタイムfMRIによるニューロフィードバックを行うことで、脳活動を制御させることは可能であることが確認されたが、被験者により可能な方とできない方がいるので、その違いについてはより検討する必要が示唆された。また、対象とする認知機能の内容などによってトレーニング方法、回数などの工夫が必要であると考えられ、臨床の現場で使用する前に基礎的な研究をしっかり行った後で応用することが必要であると思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201419029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究は先進的治療法の開発という意味でも非常に注目されるものであると思われる。また、ニューロフィードバックの脳活動の制御についての報告は近年多くなってきたが、その主観的評価や疾患症状の改善との因果関係について検討している研究はほとんどみられない。その点、本研究ではそのような基盤的な作用・効果についても検討していることは、今後このような技術を臨床に応用を目指す上では重要な知見となると思われる。
臨床的観点からの成果
本研究の結果から、脳活動をモニターしてフィードバックする領域を適切に設定しなければ、機能改善に結びつかないことが明らかになった。このような基盤をしっかりした上で、臨床応用を目指すことが必要とされたことから、実際の統合失調症の症状改善の検証までには到達できてないが、応用の可能性については十分検討できると思う。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
薬物療法のみでは、症状を緩和させることは可能であるが、認知機能を改善させることは時間もかかり難しい。ニューロフィードバックという手法を用いた認知リハビリテーションが進むことで、治療時間の短縮化、統合失調症の社会参加の推進に貢献できる。また、効率のよい認知リハビリテーションを併用することで使用する薬物の量についても減少させることができる可能性もあり、医療費の削減にも貢献できると考えられる。
その他のインパクト
リアルタイムfMRIによる脳活動制御により、精神症状などを緩和させる方法として、NHKの番組で紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419029Z