重度身体障害者のGH等や一般住宅での生活を可能にする建築的条件に関する研究

文献情報

文献番号
201419017A
報告書区分
総括
研究課題名
重度身体障害者のGH等や一般住宅での生活を可能にする建築的条件に関する研究
課題番号
H25-身体・知的-若手-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松田 雄二(国立大学法人お茶の水女子大学 大学院人間文化創成科学研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
794,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、重度身体障害者が地域で生活するために、既存住宅の改修や新築住宅において重度身体障害者が生活を営めるための、各種建築的要件を明らかにすることを目的とする。また、本研究における「重度身体障害者」とは、身体のみならず知的・精神障害を併せ持った障害者を意味する。
 障害者自立支援法(現障害者総合支援法)にて、障害者へのサービスは「日中活動」と「住まいの場」に分離された。「住まいの場」としては「施設入所支援」と「グループホーム・ケアホーム(以下「GH等」、2014年4月よりグループホームに一元化)」が設けられ、地域で小規模な暮らしを営むGH等への移行が期待された。しかしながら知的・精神障害者に比べ、身体障害者のGH等の利用者数は少なく、建築的環境整備に何らかの問題が存在することが予想される。
 本研究は、ヒアリングによる実態調査から現状での重度身体障害者が直面する建築的課題を明らかにし、加えて実物大のモックアップを用いて重度身体障害者が生活するための既存住宅の改修方法、また新築住宅の設計要件に関する指針を求めることを目的とするものである。
研究方法
 平成26年度においては、平成25年度に実施した実態調査より、現に重度身体障害者が居住するグループホーム1施設を選定し、その施設における浴室・脱衣室の環境を模擬的に実験室内に再現した。このグループホームを選定した理由は、このグループホームの入居者は小児麻痺による重度身体障害者で、座位を取ることができず、入浴に際しては介助者の介助を浴槽内にも必要とするという、調査事例中もっとも入浴に困難を伴う事例であったためである。
 入浴環境は、壁面を実験室の床面にテーピングで示し、また浴槽については木材を用いて簡易的に再現した。この模擬的な浴室・脱衣室内で、実際に介助を行う職員に、実物大人形を入居者に見立て、一連の介助動作を行って頂いた。その際、職員、実物大人形の両者の手足や関節など、重要と思われる部位にマーカーを取り付け、モーションキャプチャーにてマーカーの位置情報を取得した。取得された位置情報について、時間軸に沿って整理・分析を行い果、一連の入浴動作について、正確な位置データに変換した。そのデータに基づき、入浴動作と浴室・脱衣室空間の大きさについて、検討を行った。
結果と考察
 モーションキャプチャーによって、被介助者に4カ所(頭頂部、右手のひら、左手のひら、つま先)、介助者10カ所(頭頂部、右肘、右手の平、左肘、左手の平、腰、右膝、右足つま先、左膝、左足つま先)に取り付けたマーカーの3次元座標が得られた。
 本研究では平面上の動きについて分析を行うこととし、上記データからxy平面データを抽出し、それぞれのマーカーの軌跡を結んだ。このマーカーの軌跡をすべて重ね合わせ、また床と浴槽の位置を書き込んだ図面を作成した。結果、脱衣室、浴室洗い場、浴槽付近、開口部に、介助者ないし被介助者に装着したマーカーが壁と非常に接近、もしくは壁を越えている箇所が発生していることがわかる。
結論
 これまでに示した結果により、浴室・脱衣室をモックアップにて再現し、その中で入浴動作を再現すること、並びにその一連の動作をモーションキャプチャーで計測することで、介助を必要とする重度身体障害者の入浴時の動作範囲を計測することが可能であることが示された。
 今回実験に協力頂いた介助者からは、実験の再現性について「軽い分楽であり、また本人であれば発生する緊張が発生しないため、浴室と脱衣の間の扉を通過する際に気を遣わなかった」とのコメントがあったが、動作自体は実際の入浴時の動作とほぼ同じであったとのコメントを得ている。
 今回モックアップで再現した事例の浴室・脱衣室は、昨年度に調査した事例の中で、面積的にはもっとも大きい、充実したものであった。それにも関わらず、結果をみると入居者と壁が近接(実験室上では壁をこえてしまっている)箇所や、介助者の非常に複雑な動きが見られ、また介助者に対するヒアリングからは安全面についての不安も聞かれている。すなわち、現状は安全に安心して入浴できる環境とは言いがたい。
 今回の調査で対象とした入居者は、座位がとれず、小児麻痺による緊張も強いという、極めて重篤な障害を持つ方である。事前調査のヒアリングからは、天井走行リフトを用いた入浴も検討したのだが、吊り具を装着しようとすると緊張してしまい、身体がのけぞってしまい吊り具を装着することができず、断念したとのことである。そのため、このような抱きかかえによる入浴は、現状では唯一の入浴手段である。今後、今回得られたデータや来年度予定している調査によって得られたデータを詳しく検討することで、このような方でも入浴可能な浴室・脱衣室の計画について、建築計画的指針を作成することが急がれる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,028,000円
(2)補助金確定額
1,028,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 451,484円
人件費・謝金 205,200円
旅費 31,800円
その他 105,516円
間接経費 234,000円
合計 1,028,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-