文献情報
文献番号
201418011A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の介護・医療地域体制の実態・課題の可視化と系統的把握方法の研究開発
課題番号
H26-認知症-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 武地 一(京都大学 医学研究科)
- 林田 賢史(産業医科大学 産業保健学部)
- 大坪 徹也(京都大学 医学研究科)
- 廣瀬 昌博(島根大学 医学部)
- 猪飼 宏(京都大学 医学研究科)
- 徳永 淳也(九州看護福祉大学 看護福祉学部)
- 本橋 隆子(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,962,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
当該研究は、認知症の介護・医療地域体制の実態を可視化し系統的把握方法を開発することを計画している。そのために、初年度である当該年度は、認知症に関する疫学的解析を行い、認知症が、要介護度悪化や介護費用に及ぼす影響を定量的に明らかにすることを、目的とした。即ち、広域地域の悉皆的な医療レセプトデータベースと介護レセプトデータベースの両方を用いることで、認知症の地域別の有病率を推計し、認知症および他の因子の要介護度や介護費用に及ぼす影響を定量化した。
研究方法
2010年4月から2012年3月までの京都府国保および後期高齢者医療制度における医科入院・外来・DPCレセプトおよび介護レセプトを解析対象とした。データベースを構築し小テーマごとに必要なデータを抽出して解析の対象とした。統計手法には、各種多変量解析、マルチレベル分析、地理空間分析等を用いた。臨床現場と行政・政策の現場からのヒアリングを進めながら解析と考察を進めた。
結果と考察
(要介護度悪化について)
50,268の介護保険利用者の解析により、認知症、施設ケアサービス、男性、高齢、そしてもともとの介護度が低いことが、その後の介護度の悪化に有意に関連していた。要介護度が高いと、サービスの違いによるオッズ比の違いは小さくなった。さらに、年度初めに認知症とは診断されておらず、1年間に認知症と診断された症例では、年度初めに認知症と診断されていた症例によりも要介護度悪化に関連していた(オッズ比 1.71)。ただし、もとの要介護度が高いほど要介護度の悪化に対するオッズ比は小さくなる傾向であった。
(介護費用について)
年齢、性別、要介護度で調整後、認知症の場合に介護費用の増加がみられたが、要介護度が高くなるにつれ、その増分は少なくなった。施設ケアに比べ、在宅ケアや地域密着型サービスの利用は介護費用の増加に関連していた。しかも、認知症で施設サービスを利用している場合は、介護費用が比較的少なくなっていた。
また、暫定結果としては、自地域外でのサービスの利用は、施設サービス、居宅サービスでは介護費用の増大に、地域密着サービスでは介護費用の減少に関連していたが、さらなる検証を要する。なお、居宅サービスのみの利用者が61%を占めそのうち約4割が自地域外でのサービスを利用していた。
(医療・介護レセプトデータによる認知症ケア実態の把握)
65歳以上被保険者数に対し、京都府全域で約12%の認知症症例が同定された。このうち約8割では介護サービスを受けていた。また約半数の症例で、2年間に医療入院がみられた。全年齢で病名としては約半数がアルツハイマー病、約5%が脳血管性と診断されており、約4分の1がその他の認知症(ICD-10コードとしてF03)とされていた。
地域(市町村)別に推計“有病率”を算出すると、65~69歳で約0.4~2%、70~74歳で約2~7%、75~79歳で約以上で約5~12%、80歳以上で約15~32%と、地域により違いがみられた。ドネペジル塩酸塩がこれらの症例の約4割に、メマンチン塩酸塩が約5%に、ガランタミン臭化水素酸塩およびリバスチグミンは約1%に処方されていた。
(考察)
認知症、ならびに施設サービス利用が、1年後の要介護度悪化に繋がっていたことが、明らかとなった。これにより、施設から地域へ誘導する政策や、認知症の発症を予防する政策の重要性が、当研究によって客観的データにより裏付けられた。
さらには、解析の結果、認知症である場合、介護費用がかなり増加することが分かった。介護保険の持続可能性には、認知症の予防への介入がカギとなると考えられる。
レセプトでは、病名が過剰につけられる可能性が指摘される一方で、認知症でありながらも、その診断がついていない症例の存在も考えられる。ただし、レセプトデータからの認知症の有病率推計値は近年の疫学調査に近い値を示していること、またレセプトデータでは認知症の約半数が入院医療を受けていることもあり、認知症の症例をレセプトデータから同定する機会はかなり高いのではないかと考えられる。
50,268の介護保険利用者の解析により、認知症、施設ケアサービス、男性、高齢、そしてもともとの介護度が低いことが、その後の介護度の悪化に有意に関連していた。要介護度が高いと、サービスの違いによるオッズ比の違いは小さくなった。さらに、年度初めに認知症とは診断されておらず、1年間に認知症と診断された症例では、年度初めに認知症と診断されていた症例によりも要介護度悪化に関連していた(オッズ比 1.71)。ただし、もとの要介護度が高いほど要介護度の悪化に対するオッズ比は小さくなる傾向であった。
(介護費用について)
年齢、性別、要介護度で調整後、認知症の場合に介護費用の増加がみられたが、要介護度が高くなるにつれ、その増分は少なくなった。施設ケアに比べ、在宅ケアや地域密着型サービスの利用は介護費用の増加に関連していた。しかも、認知症で施設サービスを利用している場合は、介護費用が比較的少なくなっていた。
また、暫定結果としては、自地域外でのサービスの利用は、施設サービス、居宅サービスでは介護費用の増大に、地域密着サービスでは介護費用の減少に関連していたが、さらなる検証を要する。なお、居宅サービスのみの利用者が61%を占めそのうち約4割が自地域外でのサービスを利用していた。
(医療・介護レセプトデータによる認知症ケア実態の把握)
65歳以上被保険者数に対し、京都府全域で約12%の認知症症例が同定された。このうち約8割では介護サービスを受けていた。また約半数の症例で、2年間に医療入院がみられた。全年齢で病名としては約半数がアルツハイマー病、約5%が脳血管性と診断されており、約4分の1がその他の認知症(ICD-10コードとしてF03)とされていた。
地域(市町村)別に推計“有病率”を算出すると、65~69歳で約0.4~2%、70~74歳で約2~7%、75~79歳で約以上で約5~12%、80歳以上で約15~32%と、地域により違いがみられた。ドネペジル塩酸塩がこれらの症例の約4割に、メマンチン塩酸塩が約5%に、ガランタミン臭化水素酸塩およびリバスチグミンは約1%に処方されていた。
(考察)
認知症、ならびに施設サービス利用が、1年後の要介護度悪化に繋がっていたことが、明らかとなった。これにより、施設から地域へ誘導する政策や、認知症の発症を予防する政策の重要性が、当研究によって客観的データにより裏付けられた。
さらには、解析の結果、認知症である場合、介護費用がかなり増加することが分かった。介護保険の持続可能性には、認知症の予防への介入がカギとなると考えられる。
レセプトでは、病名が過剰につけられる可能性が指摘される一方で、認知症でありながらも、その診断がついていない症例の存在も考えられる。ただし、レセプトデータからの認知症の有病率推計値は近年の疫学調査に近い値を示していること、またレセプトデータでは認知症の約半数が入院医療を受けていることもあり、認知症の症例をレセプトデータから同定する機会はかなり高いのではないかと考えられる。
結論
介護保険及び医療保険レセプトデータを用いることで、認知症の疫学的データを示すことができ、地域ごとの認知症の実態把握が可能となることで、政策への応用の可能性が示唆された。
また、当研究によって客観的データにより、施設から地域へ誘導する政策や、認知症の発症を予防する政策の重要性が、裏付けられた。
さらに、介護度の悪化や介護費用の増加に、認知症の罹患の有無が強く関連していりことが明らかとなり、介護・医療制度の今後の持続可能性においても、認知症の予防やケアが重要となることが示された。
また、当研究によって客観的データにより、施設から地域へ誘導する政策や、認知症の発症を予防する政策の重要性が、裏付けられた。
さらに、介護度の悪化や介護費用の増加に、認知症の罹患の有無が強く関連していりことが明らかとなり、介護・医療制度の今後の持続可能性においても、認知症の予防やケアが重要となることが示された。
公開日・更新日
公開日
2015-11-12
更新日
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