文献情報
文献番号
201418003A
報告書区分
総括
研究課題名
BPSDの症状評価法および治療法の開発と脳内基盤解明を目指した総合的研究
課題番号
H25-認知症-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
新井 哲明(筑波大学 医学医療系臨床医学域精神医学)
研究分担者(所属機関)
- 池田 学(熊本大学大学院 生命科学研究部神経精神医学)
- 松岡 照之(京都府立医科大学大学院 医学研究科精神機能病態学)
- 安野 史彦(奈良県立医科大学 精神医学講座)
- 北村 立(石川県立高松病院)
- 烏帽子田彰(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院統合科学健康部門公衆衛生学)
- 横田 修(岡山大学 老年精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 認知症対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
7,570,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
BPSDは、患者の生活の質を低下させ、介護者に負担を強いる結果、在宅生活破綻の主因となる。2012年、厚生労働省により認知症患者の地域生活支援の方針が示されたが、その実現の上で最大の課題がBPSDである。本研究の目的は、BPSDの1)有症率と治療転機の実態把握、2)クリニカルパスを含めた治療プログラムの作成、3)画像・病理研究による脳内基盤解明を柱とした多施設共同研究を、認知症疾患医療センターおよび認知症専門病棟を有する精神科病院を対象として行い、認知症患者の入院期間短縮と地域での生活の確保をはかることである。
研究方法
平成24年4月1日から平成25年3月31日の間に、認知症疾患医療センターあるいは認知症専門病棟を有する精神科病院計16施設に入院した認知症患者382例を対象に、診療録・看護記録の記載に基づいて記入した調査票を用いる後方視的研究を行った。調査票は2部構成となっており、まず調査1によって上記施設に入院した患者の実態を把握するための基礎的情報の収集し、次いで対象を頻度の高いアルツハイマー病(AD)とレビー小体型認知症(DLB)に絞り、BPSDへの効果的な対応法を抽出するとともに、転帰に影響を及ぼす要因を明らかにすることを試みた。
画像・病理研究によるBPSDの脳内基盤の検討として、まず脳梗塞患者における脳器質的損傷をモデルとし、MRI撮像により半年間での灰白質容積の変化とうつ症状およびアパシー症状との相関を検討した。さらに、妄想の脳内基盤として妄想を伴う神経原線維変化型認知症患者、前頭葉性の人格変化の脳内基盤として皮質基底核変性症患者の剖検脳におけるタウ陽性構造の形態と分布について病理学的に解析した。
画像・病理研究によるBPSDの脳内基盤の検討として、まず脳梗塞患者における脳器質的損傷をモデルとし、MRI撮像により半年間での灰白質容積の変化とうつ症状およびアパシー症状との相関を検討した。さらに、妄想の脳内基盤として妄想を伴う神経原線維変化型認知症患者、前頭葉性の人格変化の脳内基盤として皮質基底核変性症患者の剖検脳におけるタウ陽性構造の形態と分布について病理学的に解析した。
結果と考察
精神科に入院した認知症患者では、1例につき平均3.25個のBPSDが認められ、疾患によって異なったBPSDの特徴を有した。入院期間は、約4割の例で7ヶ月以上と長期であり、転帰は施設入所が最も多かった。ADおよびDLBでは、入院の原因となるBPSDとして、興奮が最も多く、次いで異常行動、妄想、易刺激性、睡眠障害、幻覚、食行動異常などが多かった。BPSDに対する治療法は、薬物療法、非薬物療法、環境調整が組み合わされ、無為無関心と多幸以外のBPSDは8割以上の高い改善率を示した。妄想、幻覚、興奮、不安、抑うつ、易刺激性、睡眠障害では、薬物療法、環境調整、非薬物療法の順で有効性が高く、異常行動、脱抑制、食行動異常には薬物療法と環境調整が同程度に有効であった。しかしながら、興奮、易刺激性、無為無関心、睡眠障害の重症度が長期入院群で高いことから、BPSDの治療の成否が入院期間に影響する可能性がある。ただし、入院長期化の理由は複合的であり、患者自身の理由と社会的理由が同程度に関与することから、入院期間短縮のためには、定式化されたBPSDの治療法の確立が必要であるのみならず、家族の疾患教育や介護系施設との連携強化などの多面的な対応が重要である。
BPSDの器質的基盤としては、脳梗塞患者における後部帯状回萎縮とアパシー(無為)評価尺度得点との相関から、認知症におけるアパシーに、ハブとしての後部帯状回の障害を介した神経ネットワークの障害が関連する可能性が示唆された。一方、妄想を呈する神経原線維変化型認知症の病理学的検討から、側坐核の神経細胞内のタウ蓄積による機能異常が妄想に関連する可能性が示された。さらに、脱抑制、抑うつ、常同、攻撃性、アパシー、自己中心的行動、多幸等の前頭側頭葉変性症様のBPSDの背景病理として、皮質基底核変性症を考慮する必要があることが明らかになった
BPSDの器質的基盤としては、脳梗塞患者における後部帯状回萎縮とアパシー(無為)評価尺度得点との相関から、認知症におけるアパシーに、ハブとしての後部帯状回の障害を介した神経ネットワークの障害が関連する可能性が示唆された。一方、妄想を呈する神経原線維変化型認知症の病理学的検討から、側坐核の神経細胞内のタウ蓄積による機能異常が妄想に関連する可能性が示された。さらに、脱抑制、抑うつ、常同、攻撃性、アパシー、自己中心的行動、多幸等の前頭側頭葉変性症様のBPSDの背景病理として、皮質基底核変性症を考慮する必要があることが明らかになった
結論
BPSDの中で興奮、易刺激性、無為無関心、睡眠障害の程度は入院長期化に関連する。さらにそれ以外に、身体疾患の増悪、ADLの低下、家族が受け入れ拒否、入所施設の不足なども入院長期化に影響する。したがって、入院期間を短縮するためには、BPSDへの対応に焦点を当てつつも、身体的要因や社会的要因への対応も包含した対策が必要である。BPSDに対しては、薬物療法、非薬物療法、環境調整をバランスよく組み合わせた複合的な対応が必要であり、さらにBPSDが発生してからの対応だけでなくそれを予防する取り組みも重要である。BPSDの器質的基盤として、後部帯状回の障害を介した神経ネットワーク障害とアパシー、タウの細胞内蓄積による側坐核の機能異常と妄想、前頭葉性の人格変化と皮質基底核変性症における前頭葉のタウ病理との関連性が各々明らかになり、今後これらの機序を考慮したBPSDの薬物的あるいは非薬物的対応法の構築が必要である。その成り立ちに多様な要因が関与するBPSDの病態生理に基づいた対処法を確立するためには、本研究のような多面的アプローチをさらに進めていく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2016-03-22
更新日
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