剖検脳等を用いた精神・神経疾患の発生機序と治療法に関する研究

文献情報

文献番号
199800369A
報告書区分
総括
研究課題名
剖検脳等を用いた精神・神経疾患の発生機序と治療法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
高嶋 幸男(国立精神・神経センター)
研究分担者(所属機関)
  • 矢島基美(上智大学法学部)
  • 藤田昌宏(国立札幌病院)
  • 織田辰郎(国立下総療所)
  • 白倉克之(国療久里浜病院)
  • 巻渕隆夫(国療犀潟病院)
  • 松田一己(国療静岡東病院)
  • 武田明夫(国療中部病院)
  • 饗場郁子(国療東名古屋病院)
  • 杠岳文(国立肥前療養所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
28,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
急速に進歩しつつある基礎的な遺伝子・分子生物学的研究からヒトの精神・神経疾患の研究への発展・促進の際に、ヒトの剖検脳等は必要不可欠であるが、剖検例が限られるため、「精神・神経疾患の分子生物学的および分子遺伝学的」研究のヒトでの実施に非常な困難が生じている。そこで、複数の施設において剖検脳等の入手、保管、相互利用等を図って各種精神・神経疾患の発生機序と治療法に関する研究を行い、「脳を守る」疾病研究の大幅な進歩を図るものである。凍結組織の確保は研究基盤として不可欠であり、継続的に行い、システム化する必要がある。本リサーチリソースネットワークを継続することによって、年々資料は蓄積され、国立病院・療養所の活性化のみならず、難病の病態解明に役立つ。
研究方法
主任、分担および協力研究者が所属する施設において、それぞれ「脳を守る」ための研究に必要な剖検脳等を積極的に入手して集積・保管し、これらを相互に融通してそれぞれ精神・神経疾患の発生機序と治療法に関する研究を行う。
1.剖検脳組織等のリサーチリソースネットワーク(脳バンク)を軌道に乗せ、  問題点を改善し、有効に利用する。
1)承諾、保存及び利用に関する承諾書は完成する。
2)リサーチリソースネットワーク(脳バンク)のデータベース等を作成する。
3)運用のガイドラインを作成する。
4)剖検脳等の収集を増やす。
平成10年度までに、上記1)の法的倫理的面、2)のネットワークの設立  はできて、3)の研究利用の面も検討する。同時に、症例を集積し、リサー  チリソースネットワーク(脳バンク)を確立、継続する。
2.剖検脳組織等の資料を用いて、各施設の個別研究を増進させる。
1)脳組織等バンクとネットワークの改善に関する研究、
2)脳組織等バンクの有効利用に関する研究、
3)倫理的面の研究、
4)精神・神経疾患の分子生物学的、病理学的研究への応用に関する研究
結果と考察
1)剖検に際してのインフォームド・コンセントの検討と承諾書の作製
剖検脳組織等のバンクに際し、重要な問題であるインフォームド・コンセント等について、検討した。法医学者を加えた倫理小委員会を作り、剖検による診断、成因追求のための組織保存、組織を用いた研究に関する事項について、法的、倫理的な面を踏まえて、承諾書及びガイドライン(取り扱い指針)を作成した(矢島)。また、組織バンクにおける保存組織の分譲及び使用に関する標準ガイドラインと組織使用契約書に関して、書式案を検討中である。
2)リサーチリソースネットワーク(脳バンク)のシステム化
施設間ネットワークの確立とデータベースの作成を、剖検と生検ともに、合同して行い、データの入力が開始された。症例の入力と同時に、コンピュータネットワークの問題点を集め、数回にわたり修正し、改善した。剖検脳の症例は、既に360 例が入力されており、平成10年度中に500 例以上が登録される予定である。剖検症例の登録数は年々着実に増加しているが、剖検率が低下している現在、各施設が中心となって地域の病院から症例を収集することも奨励している。
3)剖検診断と個別研究
脳バンクの保存と利用に関する個別研究が各国立病院療養所で進んでおり、各自の保存資料による研究が推進され、精神・神経疾患のリサーチリソースネットワークおよび脳組織バンクの構築に関して、改善策が練られた(巻斑、白倉)。また、小児脳バンキングも並行して進行した(高嶋)。各施設には非常に稀な症例の蓄積があることも分かり、多施設での症例の蓄積の重要性が再認識された。剖検脳を用いて、遺伝性神経疾患に対する遺伝子蛋白を用いた分子病理学的病態解析、変性疾患に対する研究から分子生物学や遺伝学的研究への貢献も可能であることが分かった(高嶋、藤田、織田、白倉、武田、饗場、杠、吉野、井原)。てんかん患者の手術組織を用いた発症機構の研究、血液を含めた資料バンクからの分裂病の発生機序の研究もされた(松田、稲田)。
また、巻渕・川井班員は欧米の脳バンクの実体を視察し、剖検や脳バンクは国の法制度や習慣と密接な関係があるが、本国立病院療養所のネットワークの中での他施設で情報を共有して、脳バンクを運営する構想は世界で初めての画期的な試みであると報告した。収集標本の神経病理学的診断、標本処理の標準化、わが国の社会事情に適した脳収集方法と運用などの課題が今後の課題である。
結論
コンピュータネットワークの作成(データベースの作成)、インフォームドコンセントの様式作成(診断と研究の承諾書・ガイドラインの作成)、ネットワークシステムの運用規定の作成、バンク組織の利用規約の作成(組織提供依頼書・誓約書・承諾書の作成、ガイドライン)を行い、剖検脳の蓄積と研究への利用した。更に、欧米における脳組織バンクの現状研究、ネットワーク研究の拡大方策、精神疾患、てんかん、神経疾患の分子生物学的、分子病理学的研究も行った。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-