特発性正常圧水頭症の病因、診断と治療に関する研究

文献情報

文献番号
201415087A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性正常圧水頭症の病因、診断と治療に関する研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-052
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
新井 一(順天堂大学医学部脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 青木 茂樹(順天堂大学医学部放射線科)
  • 石川 正恒(洛和会音羽病院正常圧水頭症センター)
  • 数井 裕光(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 加藤 丈夫(山形大学医学部内科学第三講座)
  • 栗山 長門(京都府立医科大学医学研究科地域保健医療疫学)
  • 佐々木 真理(岩手医科大学医歯薬総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
  • 伊達 勲(岡山大学大学院脳神経外科)
  • 橋本 正明(公立能登総合病院脳神経外科)
  • 橋本 康弘(福島県立医科大学医学部生化学講座)
  • 松前 光紀(東海大学医学部脳神経外科)
  • 森 悦朗(東北大学大学院医学系研究科高次機能障害学)
  • 湯浅 龍彦(鎌ヶ谷総合病院千葉神経難病医療センター難病脳内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
9,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特発性正常圧水頭症(iNPH)は,歩行障害,認知障害,排尿障害の3徴を呈し,脳室拡大はあるが,髄液圧は正常範囲内で,脳脊髄液シャント術によって症状改善が得られる疾患である。本疾患は、健常老化や他の認知症疾患(アルツハイマー病、ビンスワンガー病など)と類似、もしくはこれらを合併していることがあり、日常臨床上、確定診断が依然として困難な場合が少なくない。そのような背景のなか、2004年に本疾患に関する診療ガイドラインが刊行され、さらに2011年にはガイドラインの改訂版が刊行された。その結果手術件数は飛躍的に急増した。一方、地域住民を対象としたiNPHの発生頻度は1.2/1000人/年と算出されているが、全国疫学調査の結果では年間約13000人が病院を受診しているに過ぎないことから、未だに大多数の患者は治療されずに放置されていることが推定される。iNPHの早期診断、早期治療の推進は、高齢者において予防可能な認知障害と治療可能な歩行障害を見逃さずに適切に対処することにつながり、厚生労働行政の面からも大いに意義深いことと考える。本年度はiNPHの診断基準の改訂を目的に以下の研究を行った。
研究方法
以下の7項目を分担して研究を進めた。iNPH画像診断ソフトウエアーの普及:クラウドプラットフォームを利用したオンライン画像統計解析環境を構築し、iNPHの脳脊髄液容積自動解析アプリケーションを実装することで、iNPHのセキュアかつ平易な客観的診断法を開発した。診断に有用な髄液バイオマーカーの選定と検証:iNPHが疑われて髄液排除試験が行われた髄液を多施設より約500検体収集した。改訂版ガイドラインの検証:ガイドラインの普及状況をWeb of ScienceのcitationリストならびにGoogleの検索結果より検証した。全国疫学調査の解析:1次調査は、1804箇科(回収率42.7%)から回答を得た。A:【iNPHの診断基準を満たす症例】は3079名、B:【Aでシャント手術を治療として施行した症例】は1815名が報告された。以上より計算すると、1年間の推定受療患者数は、A:13,000名、B:6700名であった。ただし、hospital-based studyのため、病院を受診しなかった患者は含まれておらず、実際にはもっと多いと推測される。AVIMの追跡調査:iNPH全国疫学調査(1次調査)において頭部MRIでiNPHの特徴を有する無症候性脳室拡大例を有すると回答した267施設970名を対象に本調査(AVIM二次調査)を行った。重症度分類の改訂:既存のiNPH重症度分類を検証した。医療経済学的検討:iNPHの多施設前向き観察研究(JSR)のデータを基に、障害高齢者の日常生活自立度と認知症高齢者の日常生活自立度より要介護度を類推し、これにより介護費を推計した。なお、介護費用の年間削減額を推計するために、全例が介護保険を使用したと仮定した。
結果と考察
iNPH画像統計解析ソフトウエアをクラウドプラットフォームに実装することで、複雑な処理のすべてを遠隔地からセキュアに自動実行可能なオンラインプログラムを開発することに成功した。このオンラインプログラムを使用することにより、iNPHの診断に不慣れな一般臨床医にもiNPHの診断が容易になることが期待される。
日本発の特発性正常圧水頭症ガイドラインは、海外発のガイドラインに引けをとらない数だけ引用されており、世界初の特発性正常圧水頭症に関するガイドラインが日本から刊行されたことの意義は大きいことが再確認された。一方で、ガイドラインを普及させ、市民への啓蒙を図るという観点においては、まだ不十分であることが判明した。この結果から、本研究班員が医療従事者へ研究会等を通して情報提供を続け、一般市民へはマスメディアを通じてiNPHについての情報提供を続けることが、iNPH治療の標準化ならびに市民への啓蒙への効果的な方法となると考えられる。
地域住民調査では得られない多数のAVIM例(68例)を登録できた。来年度は、これらのデータよりAVIMの危険因子の同定及びAVIMの追跡調査により、AVIMからiNPHへの進展例の頻度を推定する予定である。
結論
髄液シャント術による自立度の改善により、介護費は30.1%の削減が期待できる事が明らかになり、医療経済学的にもiNPHの診療の有益性が示された。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201415087Z