文献情報
文献番号
201414014A
報告書区分
総括
研究課題名
関節リウマチおよび結合織疾患患者のB型肝炎ウイルス再活性化に関する観察研究
課題番号
H25-難治等(免)-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
福田 亙(京都第一赤十字病院 リウマチ内科/リウマチ膠原病センター)
研究分担者(所属機関)
- 猪熊 茂子(日本赤十字社医療センター アレルギーリウマチ科・リウマチセンター)
- 羽生 忠正(長岡赤十字病院 整形外科・リウマチセンター)
- 有井 薫(高知赤十字病院 第4内科)
- 水木 伸一(松山赤十字病院 リウマチ膠原病センター・内科)
- 小山 芳伸(岡山赤十字病院 膠原病リウマチ内科)
- 宮田 昌之(福島赤十字病院 内科)
- 半田 祐一(さいたま赤十字病院 膠原病リウマチ内科)
- 中島 宗敏(日本赤十字社長崎原爆病院 リウマチ膠原病内科)
- 片山 昌紀(大阪赤十字病院 リウマチ膠原病内科)
- 林 真利(長野赤十字病院 整形外科リウマチ科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
13,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
B型肝炎ウイルス(HBV)既感染者では、HBs抗原陽性患者のみでなく、HBs抗原陰性でHBs抗体またはHBc抗体陽性の患者においても、メトトレキサート(MTX)・ステロイドや生物学的製剤(BIO)を含む免疫抑制療法によりHBV再活性化、重症肝炎をきたしうる。現在、これらの治療を行う全てのHBV既感染患者では日本肝臓病学会が策定したガイドラインに則り、厳重な管理が行われている。しかし、関節リウマチ(RA)・結合織疾患患者における免疫抑制療法に伴ったHBV再活性化の報告はきわめて少なく、多施設・大規模研究からのエビデンスはほとんどない。われわれは、平成25年から全国の赤十字病院のリウマチ・膠原病診療専門医による、HBV既感染者およびキャリアーからの再活性化の頻度と病態やリスク因子を明らかにすること目的とした多施設共同前向き観察研究を行っている。
研究方法
参加15施設および当院においてプレドニゾロン換算5.0mg以上の副腎皮質ステロイド剤、メトトレキサート(MTX)等の免疫抑制剤、現在本邦で承認されている7種の生物学的製剤(BIO)を投与されたRAおよび他の結合織疾患症例においてHBs抗原陽性の患者、HBs抗原陰性でHBsまたはHBc抗体陽性の18歳以上の患者を登録対象として、初回登録、その後1年に1回の観察登録を継続する。 観察項目として①患者基本情報、②肝炎関連項目(HBV関連抗体価/HBV-DNA定量(RT-PCR)/肝機能検査など)、③免疫学的指標(IgG量、リンパ球数)、④疾患活動性指標(腫脹・疼痛関節数、Visual Analogue Scale(VAS)による患者の主観的評価、赤沈、CRPなど)、⑤治療情報(ステロイド量、MTX量、BIOの種類、投与量など)を含む。
結果と考察
初年度の登録患者数は1118症例、このうち847症例(RA808例、その他の結合織疾患39例)を解析対象とした。解析対象症のRAにおけるMTXとBIOの使用率はそれぞれ78.3%と29.8%で、その他の結合織疾患においては、ステロイドが89.7%で使用されていた。 (1) 1年間の経過観察で、定量感度以下も含めて1度でもHBV-DNA(RT-PCR)が陽性となったHBV再活性化の頻度は22/847例(2.60%)、このうちHBV定量感度以上に陽性化した患者の頻度は7/847例(0.83%)であった。これらのうち、エンテカビルの投与開始を確認できたのは3例であり、臨床的に肝炎を発症した症例はなかった。(2) 平均HBs抗体価は定量陽性症例では49.5±80.3であり、陰性のまま推移した患者(不変患者)における245.3±332.4よりも有意に高く、HBc抗体価でも同様の結果であった。これによりHBs抗体価の低下、陰性化はHBV再活性化のリスク因子になることが明確に示された。(3) BIO、MTX、ステロイドの投与患者における再活性化、定量陽性化の頻度は、統計学的に有意差はなかったが、BIO投与症例の2.90%、MTX投与患者の2.21%に比べるとステロイドでの再活性化率は3.88%とやや高かった。 (4)免疫抑制療法開始から再活性化までの期間は、確認しえた21例において最短で4か月、最長では157か月、平均58.9±41.8か月であった。RA以外の3症例ではすべてステロイド投与後5年以上を経てから再活性化していた。リウマチ性疾患では抗癌化学療法の場合と異なり、長期間にわたり免疫抑制剤の調整を行うことが多く、治療開始後長期に再活性化リスクは持続すると考えるべきであろう。 (5)HBVの再活性化リスク因子に関する予備的解析では、再活性化群で登録時の年齢(p=0.08)が高く、血清アルブミン値は低い傾向がみられ、患者全般VASは有意に低かった(p<0.01)。 (6)HBV-DNA再活性化・陽性転化後の経過では、抗ウイルス薬投与のない症例の半数以上で、HBV-DNA量の増加なく経過観察中である。肝炎発症・劇症化のリスクについて、抗癌化学療法などとは区別して再検討する必要があるだろう。
結論
(1) 1年間の観察により、HBV再活性化率2.60%、定量陽性化率0.83%であったが、肝炎の発症はなかった。 (2) HBV再活性化症例ではHBs抗体の平均力価が、再活性化しなかった患者に比して有意に低かった。 (3) 投与薬剤による再活性化率ではステロイドがMTX、BIOより高かったが、有意差はなかった。 (4) 免疫抑制療法開始からHBV再活性化までの期間は既報より長かった。 (5) 再活性化リスク因子として高い年齢、低い血清アルブミン濃度と低い患者VASがあげられた。 (6) 再活性化後、劇症肝炎を発症する頻度は必ずしも高率ではない。
公開日・更新日
公開日
2015-06-26
更新日
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