文献情報
文献番号
201414007A
報告書区分
総括
研究課題名
気管支喘息に対する喘息死の予防や自己管理手法の普及に関する研究
課題番号
H24-難治等(免)-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大田 健(独立行政法人国立病院機構東京病院)
研究分担者(所属機関)
- 釣木澤 尚実(山本 尚実)(独立行政法人国立病院機構相模原病院)
- 棟方 充(福島県立医科大学医学部呼吸器内科学講座)
- 東田 有智(近畿大学医学部内科学講座呼吸器アレルギー内科部門)
- 檜澤 伸之(筑波大学大学院人間総合科学研究科疾患制御医学専攻呼吸病態医学分野)
- 近藤 直実(岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学)
- 下条 直樹(千葉大学大学院医学研究院小児病態学)
- 長瀬 洋之(帝京大学医学部内科学講座呼吸器アレルギー学)
- 田中 明彦(昭和大学医学部内科学講座呼吸器アレルギー内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(免疫アレルギー疾患等予防・治療研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者交代
秋山一男(平成26年4月1日~平成26年11月3日)→釣木澤尚実(平成26年11月4日~平成27年3月31日)
研究報告書(概要版)
研究目的
気管支喘息は、5〜10%の国民が罹患しているアレルギー性呼吸器疾患である。喘息予防・管理ガイドライン(JGL)の発刊と改訂や「喘息死ゼロ作戦」の展開により、最新の2013年は1728人まで喘息死は減少しているが、さらに予後を改善するためには、より有効な対策が必要である。そこで本研究では、かかりつけ医を対象とする「JGLのミニマムエッセンス」の作成、喘息死の90%近くを占める高齢者喘息と入院率の改善に乏しい乳幼児喘息の実態に関する調査、治療アドヒアランス改善策の検討、重症化・難治化のフェノタイプを決定する因子の探索とクラスター解析などの研究を行い、喘息死ゼロ作戦への貢献を目指す。
研究方法
JGLは「喘息死ゼロ作戦」で推奨する治療内容であるが、かかりつけ医にはコンパクトにまとめたものが所望されており、必須項目をまとめた「JGLのミニマムエッセンス」を作成する。また、喘息死の中で65歳以上の高齢者が90%近くを占めるという事実から、高齢者を含む喘息の実態を調査するための調査表を作成し、クラスター解析に資する内容で集積する。同様に6歳以上の小児喘息患者の実態を調査する。そして、重症化・難治化フェノタイプの決定因子の探索とクラスター解析を行う。呼気NO (FeNO)は成人と小児の両方で、強制オシレーション試験 (FOT)は成人で原則として実施する。調査の実態から、治療アドヒアランスを改善する方策とその実行計画について立案する。一方、入院率の改善に乏しい乳幼児喘息には、早期診断のための質問票を作成する。また、環境整備の有用性についても、Der 1量を高感度蛍光ELISA法と防ダニシーツと布団用掃除機ノズルの使用による環境整備をモニターして検討する。
結果と考察
新しいJGL2012および「アレルギー総合ガイドライン」(JAGL2013)の要点を踏まえて、JGL2009を元にした「JGLのミニマムエッセンス」を改訂した。今後その効果を検証する。高齢者を含む成人喘息の実態調査では、FEV1の年次低下量に年齢の影響は認められずコントロール状態に依存していた。また、服薬率と身体活動量には相関関係が示されたが、QOL評価とは有意な相関を認めなかった。ハンディーな小型FeNO測定器により在宅で測定したところ、FeNOに日内変動があり、日内変動が喘息コントロール指標として有用である可能性が示された。スギ花粉症のない患者とペットを飼育している患者では、経時的なIgE値の変化 (ΔIgE)が対象群と比較し有意に高い傾向を示した。ペット飼育はIgEと喘息重症度を考える上で重要な因子であると考えられる。さらに黄色ブドウ球菌エンテロトキシン特異的IgE抗体 (SE-IgE)を測定するとSEA-IgE陽性患者群は陰性患者群と比較して重症度が高い可能性を示した。ペリオスチンは、鼻閉を有する鼻炎合併喘息で高値であり、上下気道双方の病態への関与が示唆された。以上の結果から、FeNO、IgE、SEA-IgE、ペリオスチンなどが実態調査に加える指標として有用であることが示された。さらに環境整備には、防ダニシーツの使用が寝具、寝室のDer 1量を減少させるためには必須であることが確認され、環境整備の継続には患者教育が重要であることが示された。乳幼児喘息の早期診断のためには、“かぜでゼーゼー”、“運動でゼーゼー”および“家族の喘息歴”が重要項目であり、喘息予知テストと尿中ロイコトリエン量を加えることにより早期診断の精度が一層上がる可能性が示唆された。成人喘息のクラスター解析では、重症群と軽症群に分けて解析し、重症・難治クラスターを同定でき、その分子背景から以下のようなクラスター別の治療戦略が考察できた。クラスター5 (コントロール不良群)はアレルギー性気道炎症が強く、今後分子標的薬の適応となりうる群と考えられた。クラスター2 (医療資源濃厚利用群)は、平均年齢が高めでアレルギー性炎症は中等度であり、追加薬の選択肢は限られ、アドヒアランス、吸入手技も含めた検討が今後必要である。また小児気管支喘息では、2つのクラスターが得られ、クラスター2はクラスター1と比較して、有意に男児が多くアトピー性皮膚炎の合併が多く、家族歴では父親の気管支喘息およびアトピー性皮膚炎が多かった。今後は、同定されたクラスターのコントロール状態や転機を前向きに調査することにより、分類の妥当性がさらに検証できると考えている。
結論
班全体で得られたクラスター解析の結果は、我が国の喘息に関するフェノタイプおよびエンドタイプの研究分野に大きく貢献することが期待される。本研究の成果は、喘息死ゼロ作戦を推進し、現在の医療行政に求められている医療経済の視点からも満足できる喘息の医療体制の確立に資すると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2015-06-26
更新日
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