新規消化管ペプチドグレリンによる慢性腎臓病新規治療戦略の確立

文献情報

文献番号
201413005A
報告書区分
総括
研究課題名
新規消化管ペプチドグレリンによる慢性腎臓病新規治療戦略の確立
課題番号
H24-難治等(腎)-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 寒川 賢治(国立循環器病研究センター)
  • 脇野 修(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
13,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎臓病(CKD)でのエネルギー消耗性の病態であるprotein-energy wasting syndrome(PEW)の改善によりCKD患者の腎予後の改善を目指すのが本研究の目的である。申請者はこれまでPEWの原因となるインスリン抵抗性の研究を進め腎性インスリン抵抗性症候群(RIRs)の概念を提唱した。平成21年度の厚生科学研究事業(課題ID 09156251)でこれを詳細に解析した。PEWでは筋委縮、脂肪萎縮が認められる。申請者は筋萎縮や脂肪萎縮性糖尿病の病態解明を行いミトコンドリア(Mit)の機能異常の存在(Biochem Biophys Res Commun 2008, Diabetes. 2009)を報告してきた。PEWでの全身の酸化ストレスの亢進に対し、共同研究者が発見した(Nature 1999)消化管ペプチドであるグレリンに注目した。申請者はグレリンの慢性投与が慢性の腎障害を抑制することを発見した。さらに平成24年度の基礎的検討ではグレリン受容体欠損マウスにおいてはすでに腎組織の酸化ストレスの亢進、尿細管障害が認められ、内因性のグレリンが腎臓の酸化ストレスレベルの調節に重要であることが明らかとなり、グレリンの腎保護作用の有効性がさらに確認できた。

研究方法
ヒトへのグレリン投与については、京都大学医学部探索医療センター・グレリン創薬プロジェクトにおいて、健常人にグレリンを静脈内投与した際の安全性、体内動態、薬理作用を検討し、重篤な有害事象を発生しないことが確認され報告されている。(Akamizu et al. Eur J Endocrinol. 2004; 150: 447-55)。さらに、グレリンに関する臨床試験・治験として、摂食不振患者や変形性股関節症による人工股関節置換術患者を対象とした臨床第2相試験が実施されている。一方、アスビオファーマ株式会社では、ヒトグレリンの製造、製剤化に成功し (Makino T et al. Biopolymers. 2005; 79: 238-47.)、グレリンの工業的生産法を確立し、さらに、グレリンの前臨床試験や健常人での安全性や作用を確認し、神経性食欲不振症、ならびにカヘキシアを対象とした臨床第2相試験を、日本、及び欧米で開始している。また、血液透析患者に投与した報告もあり、有効性、安全性が示されている。(Damien R. Ashby et al. Kidney International 2009; 76: 199-206)
結果と考察
倫理審査を経て、Phase I試験のプロトコールに則り臨床治験を施行した。Phase I試験として非透析CKD患者6症例で安全性を確認した(UMIN000011673)。グレリン持続点滴投与を行い血中濃度は腎機能に影響されないこと。有害事象も消化管の運動亢進症状以外認められないことを明らかとした。国民医療費の増加の一因として慢性腎臓病(CKD)の進行による心血管事故の増加と維持血液透析患者の増加がある。従って近年CKDの発症に対する早期介入および進展阻止を重視した実地医療の展開が強調されている。しかしながら、新規透析導入は未だ減少していない。いまこそCKDの治療戦略におけるパラダイムシフトが必要である。CKDの進展には申請書の提唱する腎性インスリン抵抗性症候群をはじめとするCKDにおける代謝異常が消耗性の病態であるProtein Energy Wasting syndrome(PEW)を引き起こすことが背景にあると考えられる。本研究はこのPEWの進展増悪の阻止をCKD治療に応用するというCKDを代謝異常症として捉え直す新たな治療パラダイムを提唱するものである。そして本研究はこれを臨床的に検証し、グレリン補充というCKDに対する新しい治療法の開発を推進する臨床に直結した研究プロジェクトである。しかも共同研究者の寒川らが発見した生理活性ペプチドを用いたtranslational researchでありわが国発の世界に誇る研究である。本研究で得られる新知見は学術的にも有意義なものであるのみならず、CKDによる加齢健康障害を阻止する新治療を提示できる可能性が高い。医療経済上もCKD患者の透析移行の阻止、遅延を目指すものであり、その社会的貢献は極めて高い。
結論
新規ペプチドグレリンの腎不全への適応をめざし基礎および臨床研究を開始した。今後実施への基礎データの構築を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2015-07-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201413005B
報告書区分
総合
研究課題名
新規消化管ペプチドグレリンによる慢性腎臓病新規治療戦略の確立
課題番号
H24-難治等(腎)-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 裕(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 寒川 賢治(国立循環器病研究センター研究所)
  • 脇野 修(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
申請者はグレリンが抗酸化作用を介し腎障害を改善させること(PLoS One. 2014)、腎臓の酸化ストレスの調節に重要であること、糖尿病性腎症の進行を抑制することを明らかとした。本研究では申請者独自の臨床概念と研究成果を総合しグレリンを新規CKD治療法へと臨床応用させることを目的とする。
研究方法
in vivo(マウス)での検討
16週齢マウスC57BL/6 miceにAⅡをオスモティックミニポンプで持続静注し、4週間飼育する。飼育開始2週間後よりグレリン群にはグレリンを100μg/kg/dayを連日腹腔注射した。Growth Hormone sequretagogue receptorノックアウトマウスを用いて検討した。さらにこのマウスに近尿細管特異的にGHSRを発現させるようNDRG-Creマウスを掛け合わせ近位尿細管特異的な内因性Ghrelin/GHSRの機能を明らかとした。さらに糖尿病性腎症対するGhrelinの効果を検証する目的で肥満型糖尿病であるdb/dbマウス、STZ誘発糖尿病マウスを用いて検討した。
医師主導臨床治験
慢性腎臓病患者にGhr投与し。その血中濃度を調べるとともに、副作用の有無を検討した。
結果と考察
In vivo(マウス)のデータ
尿細管障害のマーカーである尿中NAGLおよびNAGはAⅡ投与で有意に増加したが、これらの尿細管障害をGhrは有意に抑制した。AⅡで腎皮質において4HNE染色が上昇し、Ghrがこれを顕著に抑制していたのを認めた。AⅡによりp53の発現が誘導され、この誘導をGhrは有意に抑制した。AⅡ投与により発現誘導されたTGF-β、PAI-1両者ともGhr投与群で抑制されていた。AⅡ投与群でNS群と比較し有意に間質に強い線維化の亢進が認められ、Ghr投与群で有意に線維化が低下していた。抗酸化の鍵分子であるUCP2のmRNA発現はGhr投与した腎臓で有意に上昇していた。
GHSRノックアウトマウスでの検討
尿蛋白、尿細管障害のマーカーであるNGAL、NAGはWT群とKO群で比較し、KO群で有意な増加を認めた。WT群に比較し、KO群が強く染色されていた。またSA-β-GAL染色は4HNE染色と同様にWT群に比較し、KO群が強く染色されていた。最後にKO群で有意に腎線維化が認められた。また腎臓の近位尿細管領域の電顕所見で、ミトコンドリアは酸化ストレスを受けると変形伸展拡大することが報告されているが、KO群で有意にミトコンドリアの変形、伸展を認めた。
腎近位尿細管特異的Ghrelinレセプター発現マウスを用いた検討
血清BUNとCrはタモキシフェン非投与群とタモキシフェン投与群の両者に有意差は認められなかったが、尿蛋白と尿細管マーカーであるNAGはタモキシフェン非投与群と比較しタモキシフェン投与群で有意に減少していた。酸化ストレスマーカーである4HNE染色では近位尿細管領域を中心にタモキシフェン非投与群と比較しタモキシフェン投与群が有意に酸化ストレスが低下していた。しかし腎線維化は明らかな有意差を認められなかった。
糖尿病性腎症におけるGhrelinの効果
血液検査ではUNにはSTZ投与で悪化した。24週齢マウスの腎臓を電子顕微鏡で観察した。すると、糸球体では、STZ投与の群では基底膜が肥厚して凹凸が見られるのに対し、グレリンの長期投与にてその変化が抑制された。 また、STZ投与の群ではpodocyteのopen slit poreは減少しclose slit poreは増加するが、これらの変化はグレリンの長期投与した群は弱い変化であった。尿細管細胞では、STZ投与によりミトコンドリアが全体的に大きくswellingと呼べるような変化をきたしており、内部構造のクリステは粗雑な印象であった。
医師主導臨床治験
倫理審査を経て、Phase I試験として非透析CKD患者6症例で安全性を確認した(UMIN000011673)。グレリン持続点滴投与を行い血中濃度は腎機能に影響されないこと。有害事象も消化管の運動亢進症状以外認められないことを明らかとした。
本研究の大きな特徴は従来の腎臓病という単一臓器の疾患にとらわれる事無く全身の代謝破綻および、sarcopenia、lipodystrophyというCKD患者のQOLを脅かすPEWをも標的にしたCKD治療法を実現することである。RIRSおよびPEWの影響はCKD進展のみならず、sarcopeniaによる転倒、lipodystrophyによる糖脂質代謝異常から引き起こされる心血管合併症等健康長寿を脅かすものであり、グレリン補充はこの脅威に直接対応する。
結論
新規ペプチドグレリンの腎不全への適応をめざし基礎および臨床研究を開始した。今後実施への基礎データの構築を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2018-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201413005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
グレリンンの腎臓における作用およびその作用は内因性のグレリン・グレリン受容体の系でもみとめあっれることが明らかになった。さらに抗酸化ストレス作用が腎臓における臓器保護公庫川もたらすというメカニズムも明らかとした。
臨床的観点からの成果
グレリンの外因投与での体内動態が明らかとなった。腎不全状態においても血中濃度が正常人と変わりないことを考えると、グレリンの代謝は体内で腎以外の部位で積極的に行われていることがわかる。したがって腎不全でも安全に投与可能であることが明らかとなった。
ガイドライン等の開発
ガイドラインにかかわることはなかった。
その他行政的観点からの成果
高齢化の著しい日本においてはその加齢性の変化を抑制する方策を確立することが急務である。グレリンの作用は抗加齢効果を有しており、健康寿命を可能にする。
その他のインパクト
マスコミに取り上げられたことはない

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
7件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2018-07-10

収支報告書

文献番号
201413005Z