WNKキナーゼをターゲットとしたCKD進展阻止のための新規治療薬の開発 と最適降圧薬選択法の確立

文献情報

文献番号
201413004A
報告書区分
総括
研究課題名
WNKキナーゼをターゲットとしたCKD進展阻止のための新規治療薬の開発 と最適降圧薬選択法の確立
課題番号
H24-難治等(腎)-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
内田 信一(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科・腎臓内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 蘇原 映誠(東京医科歯科大学 医学部附属病院 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
18,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎臓病(CKD)の進展阻止の重要な方策の一つが血圧の良好なコントロールであることは論を待たない。また今後はCKDの進展阻止のみならず改善をめざす事が可能な薬剤が求められている。よって本研究では、1)新たな作用機序による腎機能改善作用を併せ持つ降圧薬の開発をめざす。並行して2)現役の降圧薬の適切な選択のためのバイオマーカーの開発。さらに3)血圧コントロールが至適であるかをモニターできるバイオマーカーの開発を行う。
研究方法
1)の研究計画に関して、前年度はWNK-OSR1/SPAKシグナル伝達系阻害薬の開発のため、WNKキナーゼとSPAKキナーゼの結合を阻害する薬剤のスクリーニングを行い、seed化合物を得た。動物レベルでの毒性の低下を目指して、精力的に最適化を進めた。一方、WNK-OSR1/SPAKシグナル伝達系阻害の第2の方策として、SPAKキナーゼの直接阻害薬開発を目指した。その理由として、WNK1やOSR1のノックアウトマウスが致死性を示すのに対し、SPAK ノックアウトマウスは致死でなく、期待される血圧低下やNCCのリン酸化の低下という形質を示した。また、ヒトのSNP解析で、血圧と優位に連関するSNPがSPAK遺伝子に見つかっていることもその理由であった。
2)の研究計画については、前年度までに確立したキットを用いて、その有用性を臨床の場面で検証した。
3)については、我々のWNKシグナル系の亢進したPHAIIモデルマウスに高塩負荷を行った際の各種臓器で次世代シークエンサーを用いたRNAシークエンスとヒストンのメチル化を指標としたCHIPシークエンスを行った。また、通常のマイクロアレイによるスクリーニングも並行して行い、塩分負荷やWNKシグナル亢進時の他のシグナル系の動きを探索した。この分野は分担研究者の蘇原が主として行った。
結果と考察
結果:1)SPAK阻害薬スクリーニングについては、MO25a蛋白を導入すること、および高感度なリン酸化抗体の作成成功により(抗リン酸化NKCC2抗体)、vitroで初めてSPAK活性を検出できる系を確立し(ELISAによるSPAK活性の検出系を確立し)、阻害薬新規スクリーニング系を確立した。この系を用いて約2万の化合物ライブラリーをスクリーニングし、その際、既存薬ライブラリーも探索対象とする事で、より毒性の低いseed化合物の同定を目指した。その結果、SPAKキナーゼ活性をsubmicromolarオーダーで阻害する化合物を数種同定し、培養細胞系、マウスにおいて再現性よくNaCl共輸送体(NCC)やNKCC1輸送体のリン酸化を阻害するseed化合物が同定された。実際に、正常マウスの血圧を急性効果として低下させる事も明らかとなり、今後、高血圧モデルでの効果を検証する予定である。
2)遺伝子のエクソンシークエンスからは診断に至らなかったギッテルマン症候群患者の尿においてリン酸化NCCを定量し、臨床的な所見とあわせてその診断に役立てた。
3)蛋白レベルで網羅的解析を行う事には、試料の可溶性の問題等で未だ多くの問題点がある事が判明したため、ミクロアレイとRNAシークエンスによる発現解析を基盤とした。PHAIIモデルおよび塩分負荷後のマウスでは、あるリン酸化酵素が著明に発現量が増加していた。またあるケモカインとそのレセプターの発現が塩分量に応じて変化する事も見いだした。これらの分子の挙動の意味、おように病態生理学的意義を検討中である。
考察:研究計画1)に関しては2つのアプローチからともに有望なseed化合物が得られており、特にSPAK阻害薬は、既存薬ライブラリーから得られたseedが、動物へ投与しても毒性が低く、有望なシードとして期待される。今後も最適化を行う。2)に関しては、今後の比較的大規模なCKD患者を対象とした臨床研究で、測定項目の一つに入れて、CKD患者管理における有用性を今後検討する予定である。3)に関しては、現在分子名までは公表できないが、いくつかWNKシグナル系に関与する新たな分子、また純粋に塩分負荷に応答する意外な分子が見つかってきており、塩分摂取、血圧コントロール状況をモニターする事に役立つ分子である可能性がある。病態への関与の解明とバイオマーカーとしても有用性を今後明らかにしていく。
結論
WNK-OSR1/SPAKシグナル伝達系阻害薬の有望なseed化合物を同定できた。塩分摂取、血圧コントロール状況をモニター出来る可能性のある分子を同定できた。

公開日・更新日

公開日
2015-04-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201413004B
報告書区分
総合
研究課題名
WNKキナーゼをターゲットとしたCKD進展阻止のための新規治療薬の開発 と最適降圧薬選択法の確立
課題番号
H24-難治等(腎)-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
内田 信一(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科・腎臓内科学)
研究分担者(所属機関)
  • 蘇原 映誠(東京医科歯科大学 医学部附属病院 腎臓内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性腎臓病(CKD)患者は、メタボリック症候群や糖尿病といった生活習慣病患者の増加や高齢者の増加により、今後もさらに増加する事が予想される。末期腎不全になれば、透析などの腎代替療法が必要となり、医療費の観点からも、CKDの進展阻止は重要かつ喫緊の課題である。
CKDの進展阻止の重要な方策の一つが血圧の良好なコントロールであることは論を待たないが、CKDの進展阻止のみならず改善をめざす事が可能な薬剤が求められている。よって本研究では、1)新たな作用機序による腎機能改善作用を併せ持つ降圧薬の開発をめざす。並行して2)現役の降圧薬の適切な選択のためのバイオマーカーの開発。さらに3)血圧コントロールが至適であるかをモニターできるバイオマーカーの開発を行う。
研究方法
我々は遺伝性の塩分感受性高血圧症の病態を世界に先駆けて解明し、血圧を制御する新たなリン酸化刺激伝導系(WNKキナーゼ-OSR1/SPAKキナーゼ系)を発見した(Cell  Metab 2007)。現在までの我々の研究成果で、本シグナル系の阻害は、強力な塩分排泄作用・血管拡張作用を示し、またこの系はメタボリックシンドロームのような高インスリン状態で活性化していることも判明し、CKDの原因として増加中のこのような患者群に効果的に働く薬剤となる。これらの特徴から本シグナル系阻害薬は現代のCKD患者にとって理想的なCKD治療薬となる可能性が浮上した。1)についてはケミカルライブラリースクリーニングを行い、WNKシグナル伝達系阻害薬を探索する。2)については、この系で制御される腎臓のNaCl共輸送体(NCC)のリン酸化体を尿中で定量するELISAの系を確立し、生体内のNCC活性をモニターする方策として有用かを検討する。このことはNCC阻害薬であるチアジド系降圧薬の効果を予測することにつながる。3)では我々がもつ塩分感受性高血圧モデルマウスを活用し、塩分ストレス下で、種々の臓器検体において最新の網羅的解析を行い、塩分ストレスのマーカーおよび血圧コントロールのバイオマーカーを探索する。
結果と考察
1)WNKシグナル伝達阻害薬のケミカルライブラリースクリーニング
目的に到達するために以下の2つの方策を立案した。
a) WNKの基質であるSPAKキナーゼへのシグナル伝達が、両者の特異的結合によって行われていることに注目し、両者の結合を阻害する化合物をスクリーニングした。そのために、蛍光相関分光法という方法を用いて新たなハイスループットなアッセイ系を確立した。その結果、2種のseed化合物が得られ、培養細胞系で下流の輸送体蛋白のリン酸化を阻害することが確認され、このストラテジーが機能する事が確認された。
b) SPAK直接阻害薬の探索を並行して行った。その結果、2種類のseed化合物を得ることができ、一種は急性投与では、血圧低下作用を確認でき、血管や腎臓で標的輸送体のリン酸化の低下を確認できた。
2)チアジド系薬剤の標的分子であるNaCl共輸送体(NCC)の尿中エクソソーム分画での測定
高感度に尿中のリン酸体およびトータルのNCCを定量する系を立ち上げることができた。動物のPHAIIモデルやヒトPHAII患者では高度にNCC排泄が増加しており、一方NCCの遺伝的欠損よりおこるギッテルマン症候群では尿中NCC排泄は感度以下で、この測定により生体内でのNCC機能評価ができる事が明らかとなった。
3)血圧コントロール・塩分負荷をモニター出来るバイオマーカーの探索
塩分負荷を施した際に起こる変化を遺伝子レベル、蛋白レベル、エピジェネティックレベルで検証した。ここで、まだ記載できる段階にはないが、腎臓内、血液内で塩分負荷に応じて変化する数種の分子を同定し、現在それがバイオマーカーとしての機能を有するかを検討中である。また、血圧・塩分メモリーとしてのエピジェネティックな変化についても、CHIP-Seqの方法にていくつかの候補を得ることができた。

結論
WNKキナーゼをターゲットとした新規治療薬の開発ためのseed化合物を得ることができ、またチアジド系薬剤の感受性検査法となる尿中NCC測定法を確立できた。今後、開発研究を経て実用化にすすみ、その後これらの薬剤が既存の降圧薬に対しCKD進展阻止の観点から優位性があるかどうかについてさらに研究が必要となる。

公開日・更新日

公開日
2015-04-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201413004C

収支報告書

文献番号
201413004Z