臨床応用可能なアルツハイマー病の生物学的マーカーの確立に関する研究

文献情報

文献番号
199800355A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用可能なアルツハイマー病の生物学的マーカーの確立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
難波 吉雄(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 森啓(大阪市立大学)
  • 宇野正威(国立先進・神経センター)
  • 遠藤英俊(国立療養所中部病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
56,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在我が国では、介護体制の充実を目指して、介護保険が導入されようとしている。各地の保健所等を中心に、主に中等度から重度のAD患者ならびにその護者を対象としてAD患者に対する介護の相談、公的福祉サービス等の充実がられつつあるが、地域によっては痴呆性高齢者がモデル事業対象者の60%を越えており、その判定結果に対して現場では混乱や不安が生じている。またDSM- Ⅳをはじめ現在主に使用されている診断基準では、診断時点での記憶・認知機能障害はすでに中等度以上と考えられ、早期軽症段階とは言い難い。そこで本研究では、ADの生物学的マーカーを確立し、その診断に客観性を持たせるだけではなく、①発症前や早期のAD の可能性を検討することにより、早期治療効果が期待できる、②将来必要となる介 護に備えて、家族に精神的・経済的準備期間が与えられる、③痴呆の進行度や治療薬の効果判定、要介護認定システムの構築に資する等の効果が期待される、等の効果を考え、ADの生物学的マーカーについて確立することを目的とする。
研究方法
画像検査においては脳血流検査を行った。生物学的マーカーとして、アミロイド前駆体蛋白、アミロイドPコンポーネント、タウ蛋白、等について検討を行った。
タウ蛋白についてはタウアイソフォーム別特異抗体を作製し、特異性を検討した。あわせて環境因子についても検討を行った。さらに、介護保険モデル事業等における痴呆性高齢者の問題についてもあわせて検討を行った。
結果と考察
脳血流検査では、初回時に帯状回後 部の選択的血流低下を示し,縦断的変化では,左側海馬頭部,左側海馬傍回,前脳基底部に血流低下を認めた。
脳脊髄液中のアミロイド前駆体蛋白、アミロイドPコンポーネント,タウ蛋白などの微量測定では前2者については有意差を認めなかっがタウについては従来 の報告と同様ADで有意に高値であった。タウ蛋白については、タウアイソフォームをそれぞれ認識可能な特異抗体が作製 され、特異性についても確認された。AD脳の免疫組織学的検索により、
ADの神経原線維変化は全てのタウアイソフォームから構成されていること、またADの神経原線維変化では、特異的なタウアイソフォーム発現様式が存在することが示唆された。環境因子に関する検討では、短時間の昼寝が、また食事因子では魚等の摂取に よる多価不飽和脂肪酸n6/n3比を低下させることがAD発症に予防的な作用があることが明らかとなった。介護保険モデル事業において一次判定と二次判定の違いが施設において痴呆性高齢者で67%も異なり、これに対して寝たきり高齢者では35%という結果を得 た。介護保険制度における要介護認定と痴呆症の診断とは、概念や基準が異なり、医学的知識や社会通念と精度とは異なる可能性があることが示唆された。
結論
近年、広義のADは、原因が単一ではなく、複数の原因からなるcommon disease
である可能性が指摘されている。AD発症に関わる遺伝因子や環境因子について明らかにし、それらの因子の中から生物学的マーカーとして有用な分子等をマーカーとして確立していくこと、さらにはそれらの因子の相互作用についても検討する必要がある。また、
介護保険モデル事業においても痴呆性高齢者の診断について混乱が生じており、このような、現場においても活用しうるマーカーの確立が望まれている。
今後、臨床症状、画像所見等と組み合わすことにより簡便かつ早期診断が可能なADのマーカーについて開発する必要があると考えられる。

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