WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究

文献情報

文献番号
201412040A
報告書区分
総括
研究課題名
WHO世界戦略を踏まえたアルコールの有害使用対策に関する総合的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-011
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 進(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野, 疫学・公衆衛生学)
  • 松本 博志(大阪大学大学院医学系研究科, 法医学教室)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター)
  • 堀江 義則(国際医療福祉大学臨床医学研究センター山王病院, 消化器内科学)
  • 木村 充(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)
  • 神田 秀幸(横浜市立大学医学部, 社会予防医学教室, 疫学・公衆衛生学)
  • 吉本 尚(筑波大学医学部専門学群)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
21,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、わが国のアルコールの有害使用低減のため、施策に必要となる実態把握や必要な基礎データを提供することにある。これは第二次健康日本21の推進に寄与する。
研究方法
成人の飲酒実態調査を2013年に実施する。アルコール関連健康障害の代表例としてアルコール肝障害のモニタリング調査も実施する。WHOとの共同研究として飲酒救急外来における飲酒と外傷の関係に関する調査を行う。
アルコールの健康および社会問題に与える影響について文献レビューを行い分かりやすい資料を作成する。アルコールの社会的費用の推計値を計算し2008年からのモニタリング行う。
本研究では、簡易介入の有害使用低減に対する効果の検証と普及のために3つの取り組みを行う。①特定健診に簡易介入(SBI)を導入した場合の健康障害低減や経済効果評価、②コンピューター版SBI手法の開発と効果評価、③プライマリケアで使用するスクリーニングツールの開発と効果評価。
わが国の医療現場においても重要な情報であるが、WHOからもその報告を強く求められている分野である。
結果と考察
班全体で「改訂版アルコール保健指導マニュアル」とアルコール保健指導の実際をわかりやすく解説した動画を作成を行った。WHOの世界戦略を踏まえて本邦のアルコールの生産、価格、消費、マーケティング等に関するデータの収集解析を行っている。2013年に行ったわが国の成人の飲酒行動の調査と過去の調査を比較した。男性は女性より飲酒率が高いが、毎日飲酒者割合、週あたりの飲酒量、AUDITの平均スコア等は男性で減少傾向にあり、女性では減少傾向は明らかではなかった。男女あわせた飲酒率は減少傾向にあるが、飲酒率の男女接近状況や飲酒行動の若年化の恐れもあり定期的なモニタリングが必要である。コンピューター上で飲酒問題を評価できる出来るプログラム(SNAPPY-CAT)を開発した。アルコール使用障害・問題飲酒のスクリーニングテストでは、全体的にはAUDITが最も感度・特異度の点で優れており、このことは臨床的な使用ガイドラインの作成に有用と思われた。肝硬変発症における飲酒の影響についての変遷を検討した。アルコール性肝硬変(ALC)では高齢者、男性、糖尿病の合併群で肝癌合併率が高かった。60-110g/日の比較的少量の習慣飲酒者で肝硬変に至り、Child-Pughスコアが低いままさらに長期に飲酒し、高齢者になっての肝発癌が増えたことが予測される。成人の飲酒実態調査、アルコールの健康問題のレビューおよびリスク評価チャート作成では、日本酒換算毎日1‐2合程度の飲酒群は、相対危険度は低いが頻度が高いため、人口寄与危険割合が高くなった。日本酒換算毎日3合以上の飲酒群は、相対危険度は高いが頻度は少ないため、人口寄与危険割合は少なくなった。日本人男性の飲酒習慣は、死亡や生活習慣病、特に消化器系のがんの発症に大きな影響を及ぼしている可能性ある。プライマリケアにおけるアルコール使用障害のスクリーニング・介入に関する研究では、対象は2013年度の定期健康診断に受診したA大学の大学生・大学院生に対し無記名自記式調査と面談を実施した。男性でBinge drinkingを月1回以上行っているものは40.9%、女性では29.4%であった。
結論
改訂版アルコール保健指導マニュアル」と「保健指導に関する動画作成」には効果的なアルコール保健指導の方法がわかりやすく掲載され、保健指導の実際がスムーズに進められることが期待できる。2013年に行った調査によって、日本の問題飲酒者やアルコール依存症者の実態が明確となり、予防/治療的手段をたてやすくなる。WHOとの共同研究の一環として、外傷・死亡と飲酒に関する調査を行いわが国の実態を明らかにする。SNAPPY-CATを開発、一般に流布することによってマンパワーを要せずに対人的介入が困難な問題飲酒者にも簡易的な介入が可能となり、問題飲酒の改善や予防にもつながりやすくなる。アルコール使用障害または問題飲酒のスクリーニングテストの文献レビューは、場面や状況、対象者に応じた最も有効なスクリーニングテストを見出し、これらの結果はスクリーニングテストの臨床的な使用ガイドラインの作成に有用と思われる。アルコール性肝障害の実態調査では、アルコール性肝障害と他の疾患の関連を調査することによって治療指針作成や保健指導の一助となる。成人の飲酒実態調査、アルコールの健康問題のレビューおよびリスク評価チャート作成では、日本人男性の飲酒習慣と死亡や生活習慣病、がんとの関係を検討し、飲酒対策の健康政策を進めていくために資する。大学生・大学院生に対するbinge drinkingの調査では、今後の問題飲酒への対策を立てやすくなることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-09-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201412040Z