少子化についての専門的研究

文献情報

文献番号
199800352A
報告書区分
総括
研究課題名
少子化についての専門的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
高野 陽(社会福祉法人恩賜財団母子愛育会 日本子ども家庭総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 阿藤 誠(国立社会保障・人口問題研究所)
  • 浅子和美(一ツ橋大学経済研究所)
  • 高野 陽(恩賜財団母子愛育会日本子ども家庭総合研究所)
  • 伊部英男(国際長寿センタ-)
  • 鈴木不二一(連合総合生活開発研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
38,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の少子高齢化は、単に、保健医学領域の問題だけではなく、広く、労働、経
済、社会などのあらゆる分野において重要な課題として取り上げられている。また、虐待やい
じめ等の子どもをめぐる種々の問題のなかには、少子現象が誘因であろうという指摘も少なく
ない。最近、行政をはじめ、各領域においても、真剣に少子対策に取り組む姿勢がみられるよ
うになった。少子対策としては、出生率を高める対策や少子社会で子どもが健全に育つための
対策の確立も必要となろう。エンゼルプランに基づく各種の政策を施行されており、地方自治
体のなかには多子の出産に際して、いろいろの支援を提供している地域もあるが、明らかな効
果が認められないとの指摘も多い。
一方、少子に関する要因分析や対応策について、いろいろの分野での研究が行われきたもの
の、多領域による学際的な研究は少ない。そこで、学際的な研究によって、少子化について個
人的・社会的環境との関連での要因分析、現行の子育て支援対策の実態を把握するとともに、
その効果について国内外の少子対策のと比較を行い、わが国の少子高齢社会における望ましい
社会システムの構築の方向性を求めることを目的としている。
研究方法
少子対策について多角的に考察するために、社会学、経済学、保健医学、心理学、
児童福祉学、育児学等の各分野の専門家による研究班を組織し、少子化の要因分析、子育て支
援対策の効果に関して行政サ-ビス、民間の取り組み等の現状と効果の評価、諸外国の少子対
策の比較、について検討することとし、次のような具体的な研究課題を下記の分担研究班のも
とで実施した。すなわち、
1.要因分析とその対応に関しては、①晩婚化、非婚化の要因をめぐる実証的研究(分担研究
者・阿藤 誠)、②社会環境が結婚・出産・育児に与える影響に関する研究(分担研究者・高
野 陽)、2.子育て支援対策の効果に関しては、①子育て支援対策の効果に関する研究(分担
研究者・浅子和美)、②少子化に対する企業及び労働組合の意識と対応に関する調査研究(分
担研究者・鈴木不二一)、3諸外国の少子対策については、少子化対策に関する国際比較研究
(分担研究者・伊部英男)である。
結果と考察
各分担研究班の結果の要約は以下の通りである。
①晩婚化・非婚化の要因をめぐる実証的研究:「Uタ-ン」現象に焦点を当て研究を行った。
1970年頃からUタ-ン現象が目立ってきたが、最近はできれば地元に残りたいという若者が
増え、条件が整えばUタ-ンするものも増えている。さらに、交通の整備や情報化が都市的な
ライフスタイルを可能にし、具体的な居住地は個人で選択でき、都会志向と地元志向の多様化
が認められるようになった。一方、少子化に伴い親の面倒が子の人生設計に関係する。地方出
身の大都市居住者を対象として行ったアンケ-ト調査によって、住む地域を大きく移動せずと
も、さまざまな地域の人が共有できる職・住・遊びの場、圏域、仕組みが必要であると報告し
ている。
②子育て支援策の効果に関する研究:「女性の就労と子育てに関する調査」を行い、育児支援
を求めるかを明にすることを目的にした。母親の就労は夫の所得との関係が強く、現在無職の
母親も子どもが小学生になった時点でパ-トで働きたいと思っているものが多い。現在働いて
いない人では、「家事・育児・介護に専念したい」と自発的に就労しないことを選択している
ものが最も多い。保育サ-ビスの利用は母親が正職員でフルタイムで就労している場合に多い
が、大都市のある地域で保育サ-ビスの利用が少ない。また、潜在的な保育需要者が存在して
いることも明らかになった。保育サ-ビスに対する要望としては、保育料の軽減、一時保育の
実施、定員の増加、などが多い。
③社会環境が結婚・出産・育児に与える影響に関する研究:昨年実施した全国的規模のアンケ
-ト調査の自由記載の内容を分析し、徹底した住民参加のもと仕事と育児の両立の支援と家庭
の自立を促す施策の充実、正しい知識の提供を基盤とする子育て支援施策が準備される必要が
あり、その手軽に活用できるように周知を図ることが必要である。また、少子社会における子
育ての実態をアンケ-ト調査によって明らかにした。子育て負担感の強いものでは、子どもの
健康、夫婦関係もよくなく、現在の家庭生活に満足できず、さらに家族関係もよくない。乳幼
児の健康問題や心配ごとの解決のための支援、育児に意欲を見出せる支援も必要となる。夫婦、
家族がどのように家族関係を乗り越えていくかが、次世代が育つための要因となると思われる
結果が得られた。
④少子化対策に関する国際比較研究:先進国の少子対策をわが国と比較をするために、公的支
援に焦点を当て検討した。フランス、アメリカ、ドイツ、スエ-デン、イギリスの少子化への
対応状況、社会保障、税制、雇用等の観点から調査した。フランスは税制と家族給付を重視し、
スエ-デンは女性の社会参加と育児の両立を重視し、子育ての社会化を施策に掲げるなど、両
国は極めて熱心に少子に対応している。ドイツも熱心に取り組んでいる。アメリカでは子育て
は個人の責任という認識が強く、少子対策に余り関心がないようである。イギリスには人口施
策はないが、出生率は比較的安定している。いずれの国においても、直接的な対策だけでは効
果が余りなく、また持続しないとみられており、それぞれの国情に応じた総合的な少子対策が
求められている。特に、プライオリテイの決定プロセスや結果に関してわが国おいて参考にな
ることが多い。
⑤少子化に対する企業及び労働組合の意識と対応に関する調査研究:連合傘下の企業に勤務す
る男女を対象としたアンケ-ト調査を行った。そのうち、制度に関する部分を取り上げる。育
児休業制度を利用した母親は産休に引き続き取得しているが、夫が取ることで不利な条件を排
除することが理由であろう。育児休業は保育所入所、期間中の経済的理由で短期間の取得で、
復帰後も職場の雰囲気や仕事の内容、企業にも取得に偏見があること等で多くの問題がある。
仕事と育児の両立には保育料の軽減、延長保育などの保育に関する要望が強い。
結論
多角的に少子に関する研究を実施した。少子対策には、家族や地域特性に十分に配慮し、
公的施策を十分に住民に周知させる努力が必要であろう。子育てに負担感をもつものに対して
は、その要因に応じた支援の確立、特に、保健医療福祉の連携にもとづく総括的な支援、家族
関係の修復を図れるような支援体制も必要である。また、企業も育児に対する認識を高めると
ともに、同僚が育児をしていることによい雰囲気を作るように心がけることも必要である。保
育サ-ビスの効果の検討において潜在的保育需要の把握が問題となり、今後、保育サ-ビスの
供給体制も考慮したうえでの保育サ-ビスの重要について多角的に検討することが必要であろ
う。さらに、諸国の制度の検討によって、特に、プライオリテイの決定プロセスや結果におい
てわが国において参考となることが多く、それを踏まえた確立も重要であることが再認識され
た。

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